A 骸
「ハル!お母さんは少し外に行って来るから、大人しくしているんだぞ!」
「分かったよお母さん!」
「ああ!すぐに戻って来るからな!」
いつも、私は恵まれていると思う。町の人に良くしてもらえているし、ハルという子宝にも恵まれて、毎日が幸せだ。
今日はハルの誕生日ということで、欲しがっていたブレスレットをプレゼントするため、今から買いに行こうと思っている。
「あ!アサルトさん!」
「こんにちは!今日はいい朝だな!」
「そういえばアサルトさんのとこのハル君、今日誕生日でしたよね?」
「おお!覚えていてくれたのか!」
「もちろんですよ、これ、クッキー焼いたんです。よかったら、ハル君に渡してあげて下さい。」
「ありがとう!また今度、お礼させてくれ!」
町の人からクッキーまで貰ってしまった。ハルもきっと喜ぶだろう。
町の横の森を抜け、城に近づくと城下町があり、とても栄えている。
ハルが欲しがっていたブレスレットを探す。
「お、アサルト。今日はどうした?」
「おお!久しぶりだな!実はハルの為に、ブレスレットを買ってやろうと思ってな!」
「あーブレスレットか!あの青色のハルが欲しいって喚いてた」
「そうだ!どこにあるか知ってるか?」
「えっと確かな……」
2人で探していると、海の色に光ったブレスレットを発見した。
目当てのブレスレットが見つかって、まずは一安心。もしなかったらとヒヤヒヤしていたが、仲の良い商人に快く取引させて貰った。
果たしてこれでハルは喜んでくれるだろうか。
「誕生日おめでとうハル」
「わあ!お母さんありがとう!」
ブレスレットを渡すと、ハルは目を宝石のように光らせて笑いかけてくれた。
「これ、絶対大事にするね!!」
「そうしてくれると嬉しいな!」
この日々が一生続いて欲しいと願った。
2ヶ月後
「っっっ!」
しまった。迂闊過ぎた。
最近何故かミラク研究所の奴らがここら辺でコソコソと何か活動しててきな臭いと思っていた。前々から警戒はしていたが、まさか私が城下町へ出ている間に自分の町が襲撃されるとは思ってもいなかった。
走って村を進むと、町の家から火が立ち上っている。
自宅まで走ってドアを開けると、家の中は既に火で溢れていた。
「ハル!」
叫ぶが返事がない。
ハルの部屋まで走り、扉を開けるが、そこにハルの姿は無かった。
「クソ……!」
町中を探しても、ハルは見当たらない。それどころか、町の人達が誰一人として見当たらない。
私が離れた間に一体何があったのだろうか。
私は絶望し足を止めて空を見上げた。額からは汗が滲み、目からは涙が溢れて来た。
ここら一帯を燃やしていた火は空まで立ち上って、煙で空の色は黒ずんでいた。
ミラク研究所の悪行に気がついたのは、この後の事だった。
機械人間を作る為、人々を誘拐しているということ。実は国と繋がっていて、世界征服を計画しているということ。
それを知った私は革命軍を立ち上げ、反撃を開始した。
革命軍のみんなには、ハルのことは伝えなかった。
ハルには、こんな戦いには巻き込まれて欲しく無かった。
そして革命軍設立から10年が経とうとした時、私はある物を見つけて絶句した。
とある研究所に攻め入ったときに見つけたものだ。
それはブレスレットをつけた腕だった。
その腕は肩辺りから切断されていてその先が無くなっていた。
私はすぐにこのブレスレットが誰のものか分かった。
青色のブレスレットは、所々赤黒い血で汚れている。
「ハル…!!」
もうハルは生きていないのだろうと、何となく分かった。
一体どんな目に遭わされたのだろうか。どんな実験をさせられたんだろう。考えるほど嫌な想像ばかりしてしまう。
私はハルの腕を抱えてアジトに帰った。
自室へ戻り腕をそっと置いて、ポケットから鍵を取り出し金庫の鍵を開ける。そこには神々しく光る黄色の石がある。
これは生き返りの秘石。1000年に一度現れて、使った対象のものをその名の通り生き返らせることができる代物だ。昔、神具集めをしていた時に神殿の最深部にあったものだ。
この生き返りの石を求め旅をする人もおり、信仰の対象になっている地域もあるようなこの神具は、ある意味伝説の様なものだった。
それをハルの手に握らせ、呪文を詠唱する。
すると、石が光り、瞬く間に光が部屋を埋め尽くす。
次の瞬間、石はパリンと音を立てて砕け散った。
だが、腕から体が再生する。という訳では無かった。
この生き返りの秘石は体が欠損していた時は、一番体が大きく残っている部位から再生し、生き返るというものだった。つまり、どこかでハルは生き返ったということだが、それがどこかはわからなかった。
その三ヶ月後に、ハルを見つけた時は心臓が止まるかと思った。体の半分が機械だと分かった時は、言葉が出なかった。が、実はこの生き返りの石は、重大な欠点があった。それは、記憶が無くなってしまうというものだった。今までの思い出を全て忘れてしまっているのは悲しかったが私は、あえてハルとは初対面の様なフリをしていた。この戦いには、できれば関わらず生活していって欲しかった。
だが、指名手配で外は自由に生活することなどできるはずもなく、
成り行きで革命軍に入隊させてしまった。ハルからことごとく自由を奪うミラク研究所には一層憎しみが湧いた。だがハルがここで楽しそうに生活しているのを見ると、自分の心も癒された。
そしてそこからしばらく経った時、ミラク研究所からの手紙が届いた。
そもそもこの場所が何故分かったかが分からなかったが、その内容は衝撃的なものだった。簡単に言うと、ライグウ研究所に来ないと人質を殺すぞというものだった。
私はそれを隊員のみんなに伝え、出発の準備をする。もう誰からも、ミラクには何も奪わせない。そのように心に決意し、アジトから足を踏み出した。
私は、何の確証もないが、ここがターニングポイントになる気がした。
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