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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
サイナラあばよバイバイ
97/117

97. ずっと友達

★視点★ 櫻小路愛雨さくらこうじあいう 櫻小路和音さくらこうじわをん 櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ

 令和七年、二月十三日、木曜日。


 三つ首地蔵発掘工事の竣工式の翌日。僕たちは、学校の近くにあるファミリーレストランにいた。店内の巨大なガラス窓から外を眺めると、濃厚に濁った曇天から粉雪がチラついている。二月の街並み。午後五時ともなれば、辺りは真っ暗。北風に煽られながら街を行く人々は、どこかしら身を縮めるようにして家路を急いでいる。


 寒々しく寂し気な外の世界に相反し、店内はとても賑やかだ。大声でお喋りを続ける主婦の集団。仕事の終わった肉体労働者。PCを開いて作業をするサラリーマン。怪しげな勧誘をしているベンチャービジネスの男と、その餌食の女。黙々と勉強をしている大学生。あとは、僕たちと同じく、学校帰りの高校生のグループが数組。


 ざっと見渡すと、半数以上の客が、ドリンクバーのみの注文で店内に居座っている。浅ましき庶民。まあ、僕たちもそのつもりで来店したのだから、偉そうなことは言えないけどね。


 僕は、ウエイトレスに案内された店内中央の席に座っている。横には春夏冬あきないくん。向かいには、地図子ちゃんと、蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめおくん。


 春夏冬くんが、昨日の竣工式の後に三休和尚から宣告をされた件を、他の二人に、僕を気遣ってか、あるいは自責の念に駆られてか、言いにくそうに説明をしている。何だかなあ。肝心なところをオブラートに包むものだから、地図子ちゃんたちが、理解をし兼ねている様子だ。


「――もういいよ、春夏冬くん。僕の口からハッキリ言うよ。――三つ首地蔵の祟りが鎮められた以上、僕たち三人のうち、二人がこの世界から消える。昨日、三休和尚からそんなお告げを受けちゃった」


 ごめんね。なんだかもうじれったいよ。奥歯に物を挟むように話す彼を遮り、話に割って入る僕。


「……嘘でしょう、愛雨あいう、そんなこと……戯言……うん、三休和尚の戯言に違いないわ」


 唖然とする地図子ちゃん。


「……ねえ、みんな、なに飲む? 言ってよ。汲んで来るから」


 緊迫した場の雰囲気に居たたまれなくなった蛇蛇野くんが、ドリンクコーナーにエスケープしようとする。「それじゃあ僕、アイスコーヒー。あ、ガムシロップ二つ入れてね」そう彼にオーダーをした後、僕は淡々と話を続ける。


「僕と和音わをん夜夕代やゆよのうち、一番はじめに消えるのは間違いなく僕だよ。仕方ないよね。だって僕が三人のうちで一番不必要な人間だもん。――みんな、今までいろいろありがとう。楽しかったよ。たとえ魂が消え去ろうとも忘れはしない。僕たちはずっと友達だ。ちなみに、僕が死んでも、葬式もお墓も不要だからね。そう考えると、肉体を残して精神だけ死ぬって、実に経済的だね。アハハ」


「おい、愛雨、そんな物騒なことを軽々しく言うものではないぞ」


「そうよ。そもそも和音と夜夕代は、この件に関してどう考えているの? 三人で話し合いをしたの?」


「だって、昨日の今日の出来事だから……」


「早急に話し合うべきだと思うわ。不可能ではないよね? 最近は日中でも上手に人格を入れ替えているようだし」


「いや、でも、だけど……どうせ消えるのは僕だし……どうせ僕なんか……」


 蛇蛇野くんが、僕のアイスコーヒーをドリンクコーナーから運んでくる。俺はそれをゴクリと飲み、思わず吐き出す。


「ぶへっ! ななな、なんだこのクッソ甘いコーヒーはっ! オイ、蛇蛇野、俺様のコーヒーを作り直して来い! エスプレッソのブラック、ホットだバカヤロー!」


「うわあ、いきなり、和音くん登場。……って、なんで僕が叱られてんの? 僕は、愛雨くんにガムシロ二つ入れてってお願いされたから、その通りにしただけじゃん……」蛇蛇野がブツブツ不平を漏らしつつ、ドリンクコーナーに戻って行く。


「おい、愛雨、ウジウジしてんじゃねーよ。相変わらず惨めったらしい野郎だぜ」


 俺は、虚空に向かって叫ぶ。失笑。ムカつき。生あくび。ったく、呆れて物も言えねえ。どいつもこいつも、あんな老いぼれ坊主の余迷い言に恐れ慄きやがって。――すると、俺の出現を確認した尾崎が、ここぞとばかりに質問をする。


「ねえ、和音。あなたは、この件に関してどう考えているの?」


「どうもこうも無いぜ。俺は、オカルトとか超常現象のたぐいは基本的に信じちゃいねえ。こと自分に不利益になるようなお告げなんざあ、ガン無視百パーだコノヤロー。だいたいよお、三休和尚の霊力っつーの? あれだってあの老いぼれが自信満々に我こそは霊能力者なりなんつって言い張っているだけで、その確証はどこにもねえんだ。俺たちのうち二人が消えるだあ? んなもん信じてたまるかっちゅーの」


「了解。あんたの考えはよく分かったわ。あとは夜夕代の意見を聞くだけね」


 蛇蛇野が、俺のホットコーヒーを運んでくる。私はそれをゴクリと飲み、思わず吐き出す。


「ブーーッ! なによこれ~。にっが~。飲めたもんじゃないわ。あの三白眼、よくこんなの飲むわね。ねえ、蛇蛇野くん。私にクーをちょうだい。わらわは、クーのオレンジ味を所望じゃ。あ、ちょいとそこ行くウエイトレスさーん! チョコパひとつー!」


「これにて、櫻小路家の三つ子、勢揃い」


 地図子ちゃんが、出現早々チョコレートパフェを注文する私を見て、呆れるようにそう呟く。


「うむ。役者は揃った。さあ、自分会議がはじまるぞ」


 コーヒーもジュースも苦手な春夏冬くんが、グラスに入った冷水を一気に飲み干す。いや~ん、彼ったら、水を飲む姿もカッコよろしす~ん。

【登場人物】


櫻小路愛雨さくらこうじあいう 悩める十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ 恋する十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


尾崎地図子おざきちずこ クラスメイト 優等生


蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめお クラスメイト 陰湿 悪賢い

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