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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
真実へのバトン
95/117

95. 本来あるべき姿

★視点★ 櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ

 令和七年、二月十二日、水曜日。夜夕代。


 あらら、な~これ。異様な光景ね。全国展開をする有名ショッピングモールの1階から4階までを解放する巨大な吹き抜けの片隅に場違いな地蔵堂が建っている。いや~ん、三つ首地蔵、ちょ~かわいい~。なるほど、地図子ちゃんのパパ、センスある。これって1周回ってオシャレかも。流行りの観光スポットになるかも。

 この日、私は、学校帰りにジャスオン大久手店に寄り、三つ首地蔵発掘工事の竣工式に立ち会った。春夏冬くんをはじめ本件に関わった人たちが多数参加をしている。

 それにしても、すっごーい。業多さんとこの建設会社、神じゃん。三つ首地蔵を発掘したのが今週の月曜日。その日のうちに掘った穴の埋め戻し工事を徹夜で行い。翌日の朝からコンクリートの復旧工事。そして今日は早朝から内装工事を行い、あらかじめ製作しておいた地蔵堂を運び込み、夕方には三つ首地蔵を収めちゃった。着工から完工まで述べ三日。はや。

――竣工式は滞りなく終わった。関係者の去った休業中のガランとした店内。私と春夏冬くんは、あらためて地蔵堂の前にしゃがみ込み、黙々と手を合わせている。

「夜夕代。十七年前のあの日、ボクのパパが、君のお父さんに……。何と言っていいやら。言葉がない。心より謝罪をする。申し訳ない」

 一心に祈り続ける私に、彼が静かに頭を下げる。

「やだ~、やめてよ~。どうして春夏冬くんが謝るのよ~。なんだろ、私、思うんだけどさ。この三つ首地蔵にまつわる一連の出来事は、誰が正義で誰が悪って簡単な話じゃないような気がするな。私のパパだって、きっと当時は時代のせいにして無茶苦茶なことを沢山やっていたと思うしね。みんな時代の犠牲者だったのよ。時代の波に乗り、時代を利用したつもりが、結局は時代の渦に呑まれた悲しき犠牲者」

 私は、精一杯陽気にそう答え――「うっふ~ん。いいこと思いついちゃった~。だったらお詫びに、ヨネダコーヒーのミルキーミルクレープおごってもらおうかしら~ん」――と、おどけて立ち上がる。「おう。いいぞ。いくらでもおごってやるぞ」私たちは、仲良く手を繋ぎ、出口に向かって歩きはじめる。すると前方に――おや? 誰かいる。あ、あれ、三休和尚じゃない。

「ねえねえ、三休和尚。こうして無事に三つ首地蔵は発掘され、地蔵堂も再建されたのだから、三つ子に下った祟りは、晴れて鎮められたってことよね」

 私たちを待ち受けていた和尚に駆け寄り、つるつる頭を撫で撫でしながら、はしゃぐ私。

「うむ。感じる。間違いない。確かに祟りは鎮められた」

 どこを見るともなく目を細め、ジャリッと短く数珠を鳴らす和尚。

「きゃー、うれしー、私たち、本来あるべき姿に戻れるのねーん。てか、ちょっと~、和尚、どうしちゃったの~、なんか元気ないね~」

「……そう。おぬしら三つ子が、本来あるべき姿に戻る時が来た。夜夕代よ。それが何を意味するか分かるか」

「だあ、かあ、らあ、要するに、私たち一人一人に肉体が与えられ、三人がそれぞれ別の生活を始めるということでしょう?」

「アホう。まさか、天から未使用の肉体が二つ降って来るとでも思うておるのか。絵空事を言うのもほどほどにせい」

 すると、春夏冬くんの顔から、すーっと血の気が引いた。

「ま、まさか……」

 三休和尚の言わんとすることを、いち早く察したみたい。え、なになに、どういうこと?

「本来、ひとつの肉体に宿る魂はひとつ。不要な魂は然るべき場所で転生の時を待つ」

「……しまった。本当に取返しのつかないことをしてしまった。ぼ、ボクのせいだ。ボクが青臭い正義感に駆られて、彼女のお父さんの死の真相を突き止めたばかりに……」

 ガクリと膝を折り、天を見上げて途方に暮れる春夏冬くん。どういうこと? ねえ、どういうこと? 胸の奥から、怒涛のような不安が打ち寄せる。私は、和尚の着物の衿を掴み、金切り声を上げて詰め寄る。

「回りくどい言い方しないで、ハッキリ言ってよ。私たち、どうなっちゃうの」

「ならば包み隠さず言うてやる。愛雨、和音、夜夕代、おぬしら三人のうち、二つの魂が、まもなくこの世界から消える」

 消える? 二人、消える?

【登場人物】


櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ 恋する十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


三休和尚さんきゅうおしょう 口の悪いお坊さん

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