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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
夜夕代ちゃんの文化祭
80/117

80. いつもこんな役回り

★視点★ 櫻小路愛雨さくらこうじあいう

 目を血走らせた蛇蛇野くんが、絞首を続ける。違う違う。蛇蛇野くん、違うよ。僕だよ。愛雨だよ。今さっき夜夕代と入れ替わったのだよ。――と伝えたいところだが、如何せん首を絞められ声が出ない。

 チクショ~。分かったぞ。和音のやつ、このド派手な悪役令嬢の衣装を着た状態での入れ替わりを避けたな。縦ロールのカツラ。中世ヨーロッパの令嬢風スカート。厚化粧。カールした付けまつ毛。確かにこれは、和音のようにプライドの高い男には、屈辱的な格好だからなあ。

――とかそんな流暢なことを言っていられる状況じゃないぞ。何しろ、蛇蛇野くんが馬乗りになって僕の首を絞めているのだ。く、苦しい。死ぬ。何だかなあ。僕っていつもこんな役回りばかりだなあ。

「おい、蛇蛇野。そこで何をしている」

 いよいよ死を覚悟した刹那、この声は春夏冬くん。た、たしゅかった~。

「ち、違うんだよ~、春夏冬く~ん。ご、誤解だよ~。僕は今、夜夕代ちゃんと、演技の最終チェックをしていただけさ~」

 正義の味方の登場に、たじろぐ悪役、蛇蛇野くん。カツラと厚化粧のせいで、春夏冬くんも、蛇蛇野くんも、僕が夜夕代と入れ替わったことに気が付いていない。

「嘘をつけ。見苦しい言い訳をするな。驚いたな。トイレに出掛けた夜夕代の帰りがあまりにも遅いから、心配になって捜しに来てみれば……おい、蛇蛇野、何があったかしらないが、クラスメイトに手荒な真似はしたくない、大人しくその手を離せ」

 空手の全国大会優勝者に叱り飛ばされ、蛇蛇野くんが恐れをなして後ずさりする。絞首を解かれた僕を、春夏冬くんがお姫様だっこで抱き上げる。

「大丈夫か、夜夕代。さあ、とりあえず保健室へ行こう」

 違うよ。僕だよ。愛雨だよ。ええい、クソう。喉が潰れて、声が出ない。

「やい。ちょっと待て、春夏冬。この際だから聞く。ぶっちゃけ、お前は夜夕代ちゃんのことをどう思っているのだ」

 僕を抱えて立ち去ろうとする春夏冬くんに、トイレの床に尻もちをついたままの蛇蛇野くんが物申す。

「どうって?」

「お前は本当に彼女のことが好きなのか? 少なくとも僕にはそう見受けられないぞ。 お前は、中途半端な気持ちで夜夕代ちゃんを弄んでいるだけだ。その気がないなら今この時をもって夜夕代ちゃんから手を引け」

 そうだ、蛇蛇野くん、君の言う通りだ。いいぞ、もっと言え。このような状況下にありながら、あくまで個人的な事情で悪役を応援してしまう非道な僕。自分が情けない。

「ボクは、夜夕代のことが大好きだぞ」

「嘘をつけ」

「嘘ではない」

「彼女が、トランスジェンダーでもか」

「トランスジェンダーって何?」

「彼女の心は女性だが、彼女の性別は男だぞ。お前はその上で、彼女を愛しているのかと聞いているのだ」

「もちろんだ」

「だったら、今ここで、彼女にキスをしてみせろ」

「は?」

 おいおい、大丈夫かなあ。何だか不穏な展開になってきたなあ。

「彼女に、差別や偏見が無いのなら出来るはず」

「いや、でも、ここ、学校のトイレだし……」

「んなこたあ関係ない。さあ、お前の夜夕代ちゃんに対する想いをキスで証明してみせろ。 お前の気持ちが真実であるなら、僕は納得をする。夜夕代ちゃんが好きな人と幸せになってくれるなら、それこそが僕の本懐だ」

「分かった。では、只今より、夜夕代にキスをする」

 春夏冬くんが、お姫様だっこをした僕の顔をじっと見詰める。こ、声が出ない。じょ、じょ、じょ、冗談でしょう、春夏冬くん。わわわ、これは冗談ではありませんよお。今まさに春夏冬くんの唇が、僕の唇に急接近でございますよお。

 チュはきませり~。チュはきませり~。いやいやいや、あの、その、これは、この状況は、繊細な僕には耐えがたきかな、無理、ゴメン、和音、バトンタッチ、君なら出来る、僕、もうダメ、僕、さようなら、僕、現実逃避――

――ん? 俺? このタイミングで俺? ぬおお、じょ、じょ、冗談キツいぜえ。

【登場人物】


櫻小路愛雨さくらこうじあいう 悩める十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめお クラスメイト 陰湿 悪賢い




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