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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
僕は、愛雨
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8. 愛雨 登場

★視点★ 櫻小路愛雨さくらこうじあいう

 令和六年、九月二日、月曜日。愛雨。


 早朝5時55分に目が覚める。寝ぼけまなこで、6時にセットしておいた枕元の目覚まし時計を解除する。

……僕だ。

 僕がいる。

 僕という人格が、まがうことなくこの世界に存在をしている。

 よかった。この度も無事に僕の順番が回って来た。僕がこの体を使うのは三日ぶり。三日ぶりの現実世界に感謝を。

 ここは、愛知県・大久手市。

 僕は、(さくら)小路(こうじ)(あい)()。同市・血の池町にある進学校「血の池高校」に通う高校二年生だ。

 愛雨と言う名前は、僕の母さんが名付けた。僕が生まれる前から名付けると決めていたらしい。意味は「モノゴトの始まり」なのだそうだ。まあ、母さんが僕にこの名を付けた意図はどうあれ、「愛の雨」ってのは、なんだか文学的で気に入っている。

 うっ。眩しい。今朝も部屋のカーテンが全開だ。室内を乱舞する朝の光が目に痛い。

 昨日この体を使ったのは夜夕代(やゆよ)。夜夕代め。寝る前には必ず部屋のカーテンを閉めてくれって、いつもお願いをしているのに、カーテンを閉めるぐらいとても簡単なことなのに、その気になれば三秒で出来る作業なのに、あのガサツ女子ときたら、こちらの要望に応じてくれた試しがない。

 呆れて物が言えませんよ。同じ体をシェアする者として、先が思いやられますよ。僕は、生まれつき外部からの刺激に敏感なのだ、そう何度も説明をしているのに、どうして理解をしてくれないのだろう。

 人混みとか、騒音とか、今みたいに急に強い光に晒されたりとか、逆に突然暗闇に閉じ込められたりとか、そういうの、すごく苦手。納豆のニオイとか、煙草のニオイとか、嫌いなニオイを嗅ぐと、その日のコンデション次第では嘔吐してしまう。偏食だし、金属アレルギーもあるし、激しい気候の変化もダメ、エネルギッシュな人が発しているオーラも、僕にとっては迷惑でしかない。

 眼球がチクチクする。目だけでなく、なんというか、五感が、ギュっと締め付けられるというか、せつないというか。こんな時は、何はなくとも深呼吸。仰向けのまま薄目でカーテンを半分だけ閉め、三日ぶりの朝の環境に、徐々に自分を慣らして行く。ゆっくりと吸って~、吐いて~。吸って~、吐いて~。

 ベッドから身を起こす。僕のいる県営住宅の8階の自室の窓からは、商業施設と閑静な住宅街とが共存をするオシャレな景気が一望出来る。

 僕の生まれた大久手市は、かつては沼と池だらけの湿地帯だったそうだが、平成十七年に開催された万国博覧会で大成功を収めて以降、市政が急ピッチで開発工事を進め、今では、ある住宅メーカーが住んでいる人たちの満足度を集計した「住み心地ランキング」で毎年上位にランクインするほどの街に生まれ変わった。

 僕は、薄ピンク色のパジャマを着ている。昨日の晩に夜夕代が着て寝た女性用のパジャマだ。本心を言えば、翌日に目覚める僕のことを考えて、男性用のパジャマで寝るぐらいの配慮が欲しいところだが、「自分の日」を有意義に過ごしたい気持ちはよく分かるから、あまり強くは言えない。

 ベッドから下りようとして、即座に膝に痛みを感じる。和音(わをん)が喧嘩をして擦りむいた傷がなかなか治らない。夜夕代が昨晩張り替えてたであろうバンドエイドを引っぺがし、傷口をオキシドールで消毒する。くぅ~、染みるぅ~。新しいバンドエイドをまた張る。呆れて物が言えませんよ。同じ体をシェアする者として、先が思いやられますよ。和音には、この体が、自分だけのものではないということを、もっと自覚して欲しい。

【登場人物】


櫻小路愛雨さくらこうじあいう 悩める十七歳 三人で体をシェアしている

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