7. 時代は令和へ
――この日の午後、櫻小路欽也は、この世を去った。
工事写真を撮影するために地上2メールの深さの穴に単身で入った際、突然土留め板がへし折れ、崩壊した土砂の下敷きとなり、死亡したのだ。
事故後、労働基準監督署が、事故原因を究明したが、櫻小路建設の安全管理に落ち度はなく、何故土留め板が突然へし折れたのか、関係者はこの奇怪な出来事に首を傾げるばかりだった。結局具体的な原因は不明のまま事件は沈静化し、やがて忘却の彼方に葬られた。
奇怪な出来事は、それだけではない。
最愛の夫を亡くした櫻小路夫人は、事故の翌日に陣痛が始まり、失意の中、我が子を出産した。
この日も、病室にいた関係者は、一同首を傾げた。何故なら、三つ子を出産する予定だった麗子夫人のお腹からは、ただ一人の赤ちゃんしか産まれなかったからである。前日までエコー写真に確かに映っていた残り二人の赤ちゃんが、夫人のお腹から忽然と姿を消したのだ。
この一件も、病院側が具体的な原因を究明することは出来ず、結局は、はじめから三つ子など確認していなかったかのように、うやむやにされてしまった。
これが「三つ首地蔵事件」の全貌である。
さて。これにて長ったらしい前置きは本当におしまい。いよいよ本編を展開します。
なお、本編は、序章のエピソードより半年ほどさかのぼり、三つ子が、まだお行儀よく日替わり交代で生活をしていた時期からはじまります。
舞台は、同じく愛知県・大久手市・血の池町。
時代は、三つ首地蔵事件から十七年後。令和六年・九月――
【登場人物】
一里塚林檎 エピソードゼロの語り手
櫻小路欽也 櫻小路建設の社長
櫻小路麗子 欽也の妻
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