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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
和音VS業多ファミリー
67/117

67. 因縁の業多ファミリー勢揃い

★視点★ 櫻小路和音さくらこじわをん

 令和六年、十月十一日、金曜日。和音。


 警察による今回の事件の騒ぎの見解は、その発端が非行少年同士の抗争であること、加害者が警察沙汰の騒ぎを起こしたのは初回であること、などを考慮して、被害者が被害届を提出しなければ、今回は情状酌量というか、事件としては取り扱わないとのことだった。

 騒ぎの翌日、俺は母ちゃんに強引に連れ出され、業多の家に謝罪に出向いた。

「おやおや、誰かと思えばかつてのおれの恋人、愛しの麗子ちゃんじゃねえか。別れてから半年、なんの音沙汰もなかったお前が、今日はいったい何のようだね?」

 業多の家の玄関に、俺と母ちゃんは並んで突っ立っている。上がり框には、半年前俺が半殺しにした業多が胡坐をかいて座っている。母ちゃんの顔を見るなり、わざとらしい台詞を吐きやがった。業多の背後には、昨晩俺が半殺しにした兄貴のチートが、ミイラ男のように全身に包帯を巻き、苦悶の表情で壁にもたれかかっている。その横で仁王立ちをする弟のヒートが、腕を組んで俺を睨んでいる。

「業多さん、お久しぶりです。この度は、うちの息子が、あなたのお子さんに取り返しのつかないことをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 母ちゃんが、かつて付き合っていた男に、深々と頭を下げる。

「な~んだ、何かと思えば、その件でおいでなすったかい。あんたの息子が昨日うちの長男を半殺しにした件なら、明日にでも警察に被害届を提出に行こうと思うておりますわい」

「そこを何卒、どうか被害届だけは勘弁していただけないでしょうか。このように息子も反省をしていますし――」

 母ちゃんが、手にした菓子折りを、さりげなく業多に受け取って貰おうとしている。

「どこがだよ。おれには、このガキが反省しているようには到底見えねえぞ」

 業多は、不遜な態度でチートを睨み返している俺を指差し、その手で母ちゃんが手渡そうとしていた菓子折りを跳ね飛ばした。

「なあ、麗子。半年前にこいつがおれを半殺しにした一件、あの一件だっておれが警察に被害届を出せば、立派な傷害事件になったのだぜ。それをおれはだな、長らく付き合ってきた女と、その息子の将来をおもんぱかって、歯を食いしばって大目に見たのだ。その大恩を忘れてだな、このガキときたらだな、弟のヒートを愚弄し、兄貴のチートを俺と同じように半殺しにしやがった。それを今回も無かったことにしてくれだあ? 悪いがおれは仏様じゃないぜ」

 業多に、こちらの非をコンコンと責め立てられ、ぐうの音も出ない母ちゃん。

「……あんた、名前は?」

 俺は、二人の会話に割って入る。

「今おれの名前は関係ねえだろうが」

「名前は?」

業多(ごうだ)心人(ハート)だ」

「子供が、火人(ヒート)血人(チート)で、父親が心人(ハート)。あんたがハートってツラかよ。笑わせやがる」

「このガキ」

「ちなみにヒートを愚弄したのは、こいつが公園にいる野良猫をエアガンで撃って遊んでいたからだ。そしてチートを半殺しにしたのは、こいつが、俺の母ちゃんとやりたいとか何とか、ふざけたことを抜かしやがったからだ」

「なにい? おい、テメエら、こいつの言っていることは本当か?」

 振り返った業多が息子たちに強い視線を向ける。顔を真っ青にしたヒートとチートが、揃って言葉を失っている。

「とにかく。今度という今度は許すことは出来ねえ。明日には警察に被害届を提出させてもらう」

 業多が、あらためてそう宣言する。

「そこを何とか。どうか。どうか、お許し下さい」

 ペコペコと頭を下げ続ける母ちゃん。みっともねえ。情けなくて見ちゃいられねえ。

「ならば、麗子、お前、またおれの女になれ。お前が夜な夜なベッドで相手をしてくれると言うなら、要望を呑んでやってもいい」

 業多が、母ちゃんの体を舐めまわすように眺める。まったく親も親なら子も子だ。この時、それまで何を言われても大人しくしていた母ちゃんの態度が変わった。

「あなたは、最愛の夫を亡くし途方に暮れている私に優しく寄り添ってくれた。かつて私は、あなたを心から愛していた。本気であなたと添い遂げようと考えたこともあった。そんな美しき思い出の全てを台無しにする言葉を、どうか吐かないでちょうだい」

「うっ……う~む」

 母ちゃんの言葉を聞いた業多が息を呑み、うつむいたまましばらく黙り込んでしまった。

「……え~い、畜生め。今のはさすがに刺さった。わ~ったよ。今回に限り……いや、今回も漏れなく、麗子に免じて大目に見てやる。この一件は無かったことにしてやる」

「え、マジで。納得いかねえ」「なんでだよ、父ちゃん。ほら、オレのこの姿を見てくれ、全治二か月のミイラ男だぜ。法的手段をもって報復するのが当然だろう」「うるせえ、テメエらは黙ってろ」業多ファミリーが激しく揉めている。やがて、息子たちの反論を制した業多が落ち着いた口調でこう言った。

「ただし、ひとつだけ条件がある」

「条件?」

「麗子よ。そう身構えるな。無理難題を言うつもりはねえ。条件ってのは簡単なこと。このガキが俺の目の前で土下座をして謝罪をする。それだけだ」


【登場人物】


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路麗子さくらこうれいこ 愛雨と和音と夜夕代の母 


業多心人ごうだハート 麗子の元彼氏 反社まがいの男


業多血人ごうだチート 二十歳 業多家の長男


業多火人ごうたヒート 中学生 業多家の次男

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