61. 今日から俺は、高校与太郎ろくでなしブルース
★視点★ 櫻小路和音
「あ? 誰だ、あんた?」
「血の池中の元総長、業多血人だ。オレ様が直々にぶち殺しに来てやった。春夏冬にそう伝えろ」
業多血人? はて、業多、業多、どこかで聞いた名前だ。不快感。嫌悪感。拒絶感。名前を聞いた途端に、腹の底から胃酸が逆流し、胸がムカムカする。体を流れる血液の温度が、急激に3度ほど上がった気がする。
「呼んで来いだあ? 悪いが俺はあんたの小間使いじゃないぜ。ちゅうか、春夏冬に何の用だ?」
「てめえ、春夏冬宙也の知り合いか?」
「である」
「なら話は早い。やつは血の池公園でオレの弟の火人を愚弄した。だから今日はオレ様がそのお礼に来てやった」
思い出した。公園で野良猫や三休和尚をエアガンで撃って遊んでいた不届きな中学生のリーダーが業多だったな。なるほど、こいつがあのガキが自慢していた兄貴か。兄貴がチートで、弟がヒート。ぷぷぷ。兄弟揃って変な名前。なんつって、うちもよそのこと笑えねえ名前だけどな。
「春夏冬は、只今絶賛お取込み中なのだ。『なんや知らんけど、金髪リーゼントのヤンキー兄ちゃんが、心からお礼を言っていたよ』って俺から彼に伝えておいてやるよ。というわで、あんたはもうお家にお帰りなさい」
「舐めてんのかテメエ。お礼ってのはそっちの意味じゃねんだよ。ったく、この二人といい、テメエといい、この学校の生徒ときたら、どいつもこいつもオレ様に逆らいやがる。素直に命令を聞きやがらねえ。オレ様が春夏冬を連れて来いって言ってんだから、黙って連れて来い。テメエもこいつらみたいにフルボッコにされてえか」
そう雄叫びを上げると、業多チートは足元にうずくまる先輩二人を容赦なく蹴りはじめた。先輩たちが、腹部に蹴りを入れられるたびに順番に悲痛なうめき声を上げる。彼らも、大方俺と同じように春夏冬の激励会をばっくれて、校内をうろついているところを、チートにを掛けられ、それを断ったのだろう。
「おい、もうやめろ。マジで死ぬぞ」
見ていられなくなった俺は、咄嗟に右手でチートの肩を激しく突き飛ばす。その勢いでやつが三歩後ずさりをする。「和音、助けて」「殺される」地面を這う泥まみれの先輩二人が、俺向かって震える手を伸ばす。
「なんだあ~? こいつらもテメエのお知り合いかあ」
「である。この二人は俺のベストフレンドだ。これ以上この二人に手を出すことは俺が許さん。――ていうか。あんた、学生か? 見たところもういい年だろ」
「二十歳だ。学校へは行ってねえ。中学を卒業してからは、家の近所の鉄工所で働いている。文句あるか」
「大ありだ。成人が未成年をいたぶって楽しいか。血の池中学の元総長だか何だか知らねえが、二十歳にもなって過去の武勇伝にすがって恥ずかしくねえか。てか、総長って何? マジで引くんですけど。今時そんな言葉を使って粋がっているのは、あんたの周囲の極小コミュニティだけだ。ついでだから言っとくけど、あんたのかっこう、ちょーダセえ。なにそのファッション。古き良き昭和っすか。時代錯誤も甚だしい」
畳みかけるように罵詈雑言を浴びせる。「こンの野郎お」チートが両の拳を握り締め、怒りに打ち震えている。
櫻小路和音 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている
血の池高校の先輩二人組 和音に喧嘩を売り鼻っ柱を殴られたことがある
業多血人 血の池中学校の元番長