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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
和音VS業多ファミリー
59/117

59. 和音の大立ち回り

★視点★ 櫻小路和音さくらこうじわをん

「ぎゃははははは。いや~、ご立派です。さすがは大久手市長のご子息。泣き言も、ここまでくると、逆に確固たる決意に聞こえますわ」

 会場の一番後ろから、俺は舞台上にいる春夏冬に向かって大声で野次を飛ばす。

「やめろ。やめちまえ。勝つ気がねえなら全国大会になんて出んじゃねーよ」

俺の野次で会場が騒然となる。周囲にいる生徒が一斉にこちらを振り返る。はかりごと。たくらみ。思いやり。さあて、櫻小路和音、一世一代の大芝居。

「誰ですか、厳粛な式典で、汚い野次を飛ばすのは。隠れていないで姿を現しなさい」

 舞台の司会者席から、教頭が声の主を探している。

「はーい。俺だよ、オレオレ。心外だな。逃げも隠れもしねーぜ、俺は。あれれ、教頭先生には、今のが汚い野次に聞こえたかい。俺としては、その舞台の上にいる腰抜け野郎に、有難いアドバイスをくれてやったつもりだが」

 大声でそう叫び、クラスの列の最後尾から、ズカズカと生徒たちを掻き分け、そのまま舞台への階段を駆け上がる。

「……和音」

 俺たちは舞台上で向かい合う。春夏冬が、思い詰めた表情で俺を見ている。

「よお。負け犬。弱虫。腰抜け野郎。お元気ですか~」

 軽く右手を上げて振り、あえてふざけた挨拶をする。

「おい、君、我が息子の大切な会を台無しにして、いったいどういうつもりだ。宙也、このガラの悪い生徒は誰だ」

 市長が、俺と春夏冬の間に割って入って盾となり、我が子を守ろうとする。

「パパ。彼は、桜小路和音くんと言って、ボクの親友です」

親友? お前、俺のことをそう思ってくれていたのか。素直に嬉しいぜ。

「さくらこうじ?……似ている……まさか、君は……」

 んん? 俺の名前を聞いた途端に、さっきまで尊大な態度だった大久手市長が、あきらかにひるみやがった。おいおい、冷や汗をかいているぜ。なんだよ、俺の顔に何か付いているかよ、ジロジロ見んじゃねえよ、気持ちワリい。

「さあ、この腰抜け野郎。てめえに全国大会に出場する価値はねえ。てめえの相手なんざ、この俺様でじゅうぶんだ。ほら、かかってこいよ、ここで相手をしてやるぜ」

 春夏冬から見よう見まねで覚えた空手の構えを颯爽としてみせる。

「血迷ったか、和音。こんなところで戦えるわけがないだろう」

 ちっ。そうやすやすと誘いには乗らねえか。

「宙也の言う通りだ。会を妨害するのもいい加減にしろ。直ちに舞台から下りたまえ。警察に通報をするぞ」

 市長が、態度を巻き返しやがった。

「ふん。市長だか何だか知らねえが、大人が子供の喧嘩に口出しをするんじゃねえ。だいたいがあんたの教育が悪いから、こいつがこんな甘ったれに育っちまったんだぜ」

「な、なんと忌々しい……他人にこんな不遜な態度を取られたのは何年ぶりだ」

「おい、和音。ボクのことはどれだけ侮辱しても構わない。しかし、パパのことを悪く言うのは許さないぞ」

 目の前で父親を侮辱され、激昂した春夏冬が、反射的に空手の構えをした。

 なるほど、こいつの怒りのツボは家族か。よ~し、まんまと誘いに乗りやがったぜい。

【登場人物】


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


春夏冬慶介あきないけいすけ 大久手市長 春夏冬くんのお父さん

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