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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
愛雨、告られる
48/117

48. 小山田マティルダを捜せ

★視点★ 櫻小路和音さくらこうじわをん

 令和六年、九月二十七日、火曜日。和音。


 怒り。憤り。殺意。許せねえ。あの女、直接逢ってとっちめてやる。早朝から俺は古戦場女子高校の校門の前に立っていた。あの小山田マティルダとか抜かす女に逢うためだ。

 基本的に俺は、愛雨のことには無関心だ。あいつが、クラスメイトに虐められていようが知ったこっちゃねえし、あいつが、誰を好きになろうが知ったこっちゃねえ。俺とあいつは別の人格。俺は俺、あいつはあいつだからな。でもよお、いくら何でも、今回のあの女の仕打ちったら無いぜ。さすがの俺も、愛雨が不憫でならない。文句を言ってやる。愛雨に謝罪をさせてやる。相手の出方次第では、女だからって容赦の出来ねえ男だぜ、俺は。

 ちらほらと生徒が登校を始めた校門の前で、仁王立ちで腕を組み、小山田マティルダの登校を待つ。……。……あれ、来ねえなあ。……あの女、待てど暮らせど登校しねえ。

 見逃すなんてことは絶対にない。何しろ目立つ女だからな。それにしても、おかしい。ぼちぼち授業が始まる時間だ。俺と同じで遅刻の常習犯か。それとも今日に限って風邪をひいて休みだとか。

 不安になってきたので、校内へ入ろうとする女子生徒に声を掛けてみる。

「おい、お前。三年の小山田マティルダを知っているか?」

 すると、その女子生徒は、俺の顔を見るなり、目を伏せ、無言で走り去った。な、なんだよ、返事ぐらいしやがれ、冷たい女だな。それからも、しばらく校門を通り過ぎる女子生徒たちに声を掛けたが、どの女子生徒も、俺をガン無視するか、露骨に逃げ去るか、俺ってそんなに怪しいかあ。

 授業開始のチャイムが鳴った。結局、小山田マティルダはやって来なかった。なにかがおかしいぜ。こうなってくると、あの女のもっと詳しい情報が欲しいところだ。でも、俺一人ではどうすることも出来ねえ。女子生徒に声を掛けても、どいつもこいつも俺を怖がって逃げて行きやがるからな。仕方がねえ、あいつにお願いをするか。

「ふたを開けてみれば、お前の言う通りだったぜ、春夏冬。あのマティルダという女は、シンデレラの義姉でも転生者でもなく、実は古戦場女子高校の演劇部の部長で、悪役令嬢という役を演じて、愛雨をからかっていただけだった」

「そうか。まったく許しがたき女子生徒だ。注意をせねばなるまい」

「それがよ、肝心の小山田マティルダが、登校していないようなんだ」

 血の池高校で午後の授業を終え、俺は、春夏冬を連れて古戦場女子高校へ戻った。

「キャー、イケメン」「本当だ、イケメンくん」「マジちょーかっこいいんですけど」「お兄さん、写真撮っていい」「お兄さん、彼女いるの?「ね~ん、私と付き合って~」

 途端に春夏冬の周りに女子生徒の人だかり。コンチキショー。全然違うじゃねーか、扱いがあ。

「ねえ、君たち、ボクたち、人を捜しているのだ。悪いが、協力をしてくれるかい」

 人だかりの中心にいる春夏冬が、女子生徒たちに声を掛ける。「喋ったー」「は~い、協力しまくり。何でも聞いて~」「お兄さんのためなら何だって答えちゃうわ~ん」……俺は、すっかり蚊帳の外。もう勝手にやってちょうだい。

「誰か、学校の三年生の、小山田マティルダという生徒を知っているかい?」

「小山田マティルダ? 誰それ?」「知らな~い」「そんな娘、三年にいたかなあ?」「マティルダ? 外人?」「そんな娘いないよね」「いないと思う」「そんなことより、お兄さん、写真撮っていい?」

「小山田マティルダ、本当に知らない? 本人曰く、演劇部の部長だって」

「演劇部? 古戦場女子高校に演劇部なんてありませんけど」

「でも、近々開催される文化祭の演目のために、戯曲を作成しているとかで」

「てか、うちの文化祭なら、先月に終わっているよ」

 俺の背中に、一筋の汗がつたう。人だかりの中心で春夏冬も困惑をしている。おいおいおい、こいつはいったいどういうことだあ? 

「和音、これでは埒が明かない。職員室へ行き、この学校の教員に直接尋ねてみよう」

「いや~ん、待って~」「行かないで~、イケメ~ン」別れを惜しむ女子生徒たちを振り切り、春夏冬が他校の敷地内にズカズカと入っていく。おい、春夏冬、ちょっと待て、ちょっと待てってば。俺は、職員室へ向かい猪突猛進する春夏冬を追った。


【登場人物】


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


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