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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
愛雨、告られる
42/117

42. その女、完全なる妄想狂だぜ

★視点★ 櫻小路和音さくらこうじわをん

 令和六年、九月十二日、木曜日。和音。


「おい、春夏冬。もう一度確認をするぜ。そのJKは、自分は異世界から転生をした悪役令嬢だと、自分はシンデレラの義姉のマティルダだと、確かにそう言ったんだな?」

「うむ。間違いなくボクはこの耳で聞いた。それから、彼女は愛雨にしつこく婚約を迫っていた」

 テスト週間なのでクラスメイトは午前中で下校をした。ガランとした教室で、俺は、春夏冬と蛇蛇野夢雄の三人で話し込んでいた。話題は言うまでもなく昨日の騒動についてだ。ぶっちゃけ昨日愛雨が不気味なJKに告白をされたってことは意識の俺が虚空からしっかりと見ていた。だが、こいつらの前では、わざと初耳のふりをして驚いてみせ――。

「その女、完全なる妄想狂だぜ。これ以上愛雨と接触させるのは危険だ」

――俺は、そう断言をした。すると――

「どうして和音くんはそのJKが妄想狂だと言い切れるの? 本当に異世界から転生してきたのかもしれないじゃないか?」

――あろうことか、蛇蛇野の野郎が俺に口答えをしやがった。

「おい、蛇蛇野。てめえのほうこそ、異世界とか転生とか、そんな非現実的なことを本当に信じているのか? 人は死んだら焼かれて灰なるんだ。灰以外は何も残らねえんだ。シンデレラの世界から転生をして来ただあ? 三流ウェブ小説じゃあるまいし。笑わせるな」

「どの口が言うかね。君たち三つ子の存在だって、じゅうぶん非現実的だし、ある意味、三流ウェブ小説そのものじゃないか」

「なんだと、てめえ、もう一遍行ってみろ」

 蛇蛇野の胸ぐらを掴み、教室の床に勢いよく投げ倒す。「痛いなあ! 暴力反対!」負け惜しみをいう蛇蛇野。「おい、和音、やめないか!」春夏冬が俺を注意し、話を続ける。

「それにしても、解せないのは、みずからを『悪役』と名乗る人間がこの世に存在をしたということだ。なぜそのように自分を卑下する必要があるのだろう。そもそも悪役令嬢って何だ?」

「悪役令嬢とはフィクションの世界においてヒロインの恋路に立ちはだかる役柄のことで、ウェブ小説を中心に広がった『悪役令嬢もの』というジャンルのワードだよ。そんなことより初夏冬くん。愛雨くんの反応はどうだったの? 変なJKに突然言い寄られて迷惑そうだった?」

「それが、はじめのうちこそ気味悪がっていたが、後半はまんざらでもなさそうで、最終的に『こんな僕でよろしければ、先ずはお友達からよろしくお願いします』とか言っていたぞ」「オッケーしたんかい」蛇蛇野が目を丸くする。

 あいつは、昔から他人に共感をし過ぎる悪い癖がある。相手の気持ちを懸命に読み取り、安易に寄り添ってやろうとする。小説やテレビドラマなんかにも強く感情移入をしてしまい、フィクションの内容を日常生活でしばらく引きずることもある。マティルダと抜かすJKにも簡単に感情移入をしてしまったのだろう。

「次の土曜日に、またジャスオンのフードコートで逢う約束をしていたぞ」

「マジで? それってデートだよね。交際中の男女が恋愛的な展開を期待して会う行為だよね。チックショーおお。めちゃんこ羨ましいい。まさか、あのモブ愛雨に先を越されるとはああ。キイイイイ、僕も彼女欲しいい」

 愛雨に彼女が出来たってことだもんな。夜夕代が一方的に春夏冬のことを自分の彼氏だと言い張っているのとは訳が違う。そりゃあ蛇蛇野が歯噛みして悔しがるのも理解が出来る。同じ体をシェアする俺にとっても、こいつは大事件だぜ。しかも、相手は、異世界から転生して来た悪役令嬢??? ああ、頭が痛くなってきた。

【登場人物】


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめお クラスメイト 陰湿 悪賢い


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