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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
怪物、春夏冬くん
36/117

36. 公園で中学生と揉めているの、あれ、春夏冬じゃね?

★視点★ 櫻小路和音さくらこうじわをん

 令和六年、九月六日、金曜日。


 抜けるような空。乾いた風。むきたての朝。

 俺が、いつものようにコンビニで猫の缶詰と和尚のオニギリを買い、午前中の授業をトンズラするため血の池公園へ行くと、なんと、春夏冬がいるじゃねえか。普段は規則正しく登校をするあいつが、なんでこんなところで油を売ってんだあ?

 うっひょ~、逢いたかったぜ、春夏冬よ。てめえの姿を見た途端に全身の筋肉がうずきやがる。体中の筋肉がてめえと一戦交えたいと叫んでやがる。ああ、一刻も早くてめえを叩きのめし、俺の足元にひれ伏してやりたい。

 おや? 春夏冬と一緒にいるの、あれ、三休和尚じゃね? てか、こいつら面識無いはずだよな? そんでもって、見たところ中学生とおぼしき三人のヤンキーが、春夏冬らを取り囲んでいる。緊迫した雰囲気。なんか揉めてんのか? あ、いいこと思いついちゃった。このまま春夏冬にそ~っと近づき、やつの隙を見て殴りかかってやれ。公園の入り口から彼らのいる藤棚の下に向かい、足音を立てぬように近づく。

「みゃ~ん」

 ちっ。どこからか猫がやって来て俺の足に体をスリスリ。その鳴き声で全員が俺の存在に気付きやがった。

「ちーっす、三休和尚。朝っぱらから賑やかだな。いったいどうした?」

「おお、若僧。よいところに来てくれた。どうもこうもないわい。このガキどもに散々な目に遭わされてなあ」

「おい、ジジイ。誰がガキだコラ」「やっちまうぞ、てめ」「殺すぞ」どこで売っているのかは知らねえが、とにかくセンスのない独特のヤンキーファッションに身を包んだ三人の少年が、強い口調で順番に和尚に言い放つ。

 よく見ると、少年の一人がサバイバルゲームで使うエアガンを片手に握っている。おいおい、こいつは物騒だぜ。

「よお、春夏冬。てめえ、こんなところで何やってんだ?」

「通学時にこの公園を通りかかったら、助けを求める声がしたのだ。何事かと園内に入ると、この三人の少年が、ご老人をエアガンの標的にして追いかけ回していた。はじめのうちボクは、これはお爺ちゃんと孫とじゃれているのだと思い、しばらく微笑ましく眺めていた。ところが、ご老人が声を荒げて『おい、そこのお前、黙って見ていないでさっさと助けろ』と言うので、ああ、どうやらこれは非常事態であると判断し、救出をしたのだ」

「ははは。マジうける。なぜ三休和尚が標的に? おおかた通りすがりのガキどもに意味もなく罵詈雑言を浴びせてブチ切れさせたってところか?」

「違うわ。こいつらがこの野良猫を撃って遊んでおったから、わしは注意をしたのじゃ。そうしたら、こいつらときたら今度はこのわしを標的にし腐って。ほら、見てくれ、三発も命中したのじゃ。服の上からとはいえ、痛いのなんのって」

 和尚が薄汚れた袈裟をめくって患部を見せる。腕に一か所、背中に二か所、エアガンで撃たれたところが青アザになっている。俺は慌てて猫の体を確認する。ほっ。撃たれた跡はねえ。うまく逃げ切ったのだな。偉いぞ、猫。――それにしても許しがたきガキどもだ。殴りかかりたい気持ちを押さえて、ひとまず俺は冷静に三人を睨み据える。

「糞ガキども。この坊主はともかく、猫を撃つとは何事だ」

「おーい」

 和尚が、尽かさず突っ込みを入れる。

「てめえに関係ねえだろ」「やっちまうぞ」「殺すぞ」息巻いとる息巻いとる。いちいち三人連続で発言するやつらだ。

「関係なくはねえ。なぜなら俺は、この猫の飼い主だから」

「嘘つけ。どう見てもただの野良猫じゃねーか。飼い主ならこいつの名前を言ってみろ」

「クイーンエリザベス三世」

「はあ?」

「クイーンエリザベス三世。それが、この猫の名前だ。ちなみに、さすがに長いので、普段は省略して『クイーンエリザベスさん』と呼んでいる。な~、クイーンエリザベスさ~ん」

 そう言って俺は、しつこく足にまとわりつく猫の頭を撫でた。

「略になってねーよ」「口から出まかせ言いやがって」「殺すぞ」またもや三連続発言。こいつら配線で繋がってんじゃねーの。

「君たち、中学生だよね? こんな時間に中学生が私服で遊んでいて良いのかい? お父さんやお母さんが心配しないかい? 学校へ行かなくていいのかい?」

 春夏冬が、矢継ぎ早に質問をする。

「るっせーな。昨日は都心で朝までこのエアガンで通行人をビルの陰から撃って遊んで、始発の地下鉄で大久手市に帰って来たんだ。そんでまだ遊び足りなかったから公園で野良猫を撃ってたんだよ。悪いか。親なんて関係ねえ。母ちゃんは離婚していねえし、父ちゃんは放任主義だからな。だから俺は中学なんてしばらく行ってねー」

 三人のリーダー格らしきエアガンを握ったガキがそう答える。「やっちまうぞ」「殺すぞ」取り巻き二人の律儀なコーラス。

「てか、さっきから殺すぞ殺すぞって、馬鹿の一つ覚えみたいに。そこまで言うなら、やれ。やってみろ。さあ、殺せるものなら殺してみろ、あ?」

 ガキどもの発言の陳腐さ、覚悟の無さ、程度の低さに、俺の苛立ちはいよいよマックス。

「ねえ、君たち、エアガンの取り扱い説明書を読ませてくれないかい?」

 すると、前つんのめりの俺を遮るように春夏冬がしゃしゃり出た。ヤバい。いつものようにいつもの如く、春夏冬が素知らぬ顔でわけの分からないことを言い出したぞ。

【登場人物】


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


三休和尚さんきゅうおしょう 口の悪いお坊さん


ヤンキー三人組 血の池中学校の生徒 

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