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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
私は、夜夕代
32/117

32. 夜夕代ちゃん、オッパイ見せて!

★視点★ 櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ

 それから私は、ママの指示のもと、ひとつの体を、私と愛雨と和音の三人でシェアする生活をはじめた。

 血の池高校の生徒には、申し訳ないぐらい簡単になれちゃった。ひとつの体に複数の人格が共存する生徒を受け入れるか否かとか、そこら辺の難しい諸問題は、和音が通学をする際にほぼ解決済みだったから、私の時は大した話し合いもなく、学校側も『ああ、また一人増えのですか。致し方ないですね。ど~ぞど~ぞ』ってな感じで許可をしてくれた。

 もちろん、それに伴って学校側からいくつか細かな制約が提示された。え~っと、そんじゃ、この機会に、和音の時に既に提示されていた条件、及び私の時に追加された条件、両方をまとめて下記に記すわね。以下、箇条書き。

①登校した人格は下校まで変えない。配慮無き人格の入れ替えは、校内に混乱を招く。

②登録上は一人の生徒として扱う。登録者は、本校を受験し合格した櫻小路愛雨。性別は本人の住民票や戸籍の表記に則り、男とする。

③中間・期末テストの受験者も、扱いとしては一人。各学科の試験日に登校をした者が代表して試験を受験する。

④従って通知表などの成績も三人に一人分の評価を与える。評価の名義は櫻小路愛雨。

⑤学校側は、日常生活における三個人の性別・性格・学力の違いは、出来る限りの配慮をする。三個人においても、くれぐれも学校運営に支障をきたす行動は慎むこと。

 これだけ読むと、私と和音って、愛雨の付属品感ハンパ無いっしょ。まあ、どれだけ不平不満を垂れたところで、私たちの体はひとつなのだから、しゃ~ないんだけどさ。でも、なんかこう、イラッとする扱いなのよねえ。いや、分かってんのよ、登校させてくれているだけで有難い話だってのは重々承知してんの。だけどさ、う~ん。


 さあ、もう家を出ないと学校に遅刻しちゃう。ママを起さないよう静かに家を出る。土砂降りの雨の中を透明のビニール傘をさして登校する。

「夜夕代、オハヨ~、久ぶり~」

「地図子ちゃん、逢いたかったよ~、オハヨ~」

 授業開始前の教室に入ると、仲良しの尾崎地図子ちゃんが、元気いっぱいに声を掛けてくる。「キャー」と奇声を上げて抱きついちゃう私。だって、私が前回この体を使ったのは日曜日だったから、こうして学校に来るのは先週の木曜日以来。かれこれ六日ぶりなのだ。

「ねえ、夜夕代、聞いてる? 春夏冬くん、空手の遠征合宿とかで今日まで欠席だよ」

「ええええええ。聞いてない、聞いてない、聞いてないよおおおお。うおおおん」

「あらあら、なにも泣くことはないじゃない」

「だって、私が次に体を使うのは土曜日だよ。学校が休みだからまた逢えないじゃん。その次に体を使えるのは来週の火曜日。それまでダーリンおあずけじゃん。無理い。耐えられない。禁断症状出る」

「やれやれ、夜夕代は本当春夏冬くんのことが好きなのね」

 地図子ちゃんが私の頭をヨシヨシと撫でながら、慰めてくれる。

 私たちが体を使う順番は厳しく決められているの。愛雨→和音→夜夕代。原則としてこのローテーションを崩すことは無い。三人が体を使いたい日の希望を出してシフトを組むなんて到底無理な話だし、各自の判断で譲ったり譲られたりを良しとしちゃうと、キリが無いでしょう? だから公平を期すためにも、ローテーションを事務的にカレンダーに当てはめて、それを厳守している。

 一限目の国語の授業が終わった。二限目の体育の授業を受けるため、女子生徒は授業と授業の間の休み時間に、女子更衣室に行って体操服に着替えねばならない。

「夜夕代、一緒に着替えに行こ―」「夜夕代、ほら、早くしな、休み時間が終わっちゃうよ」「うん、行こ―、行こ―」私は、体操着の入ったナップサックを抱えて、地図子ちゃんをはじめてとする三~四人のいつもの仲良しグループで女子更衣室へ移動をする。

「ちぇ。いいよな~、夜夕代は、女子の裸がタダで見れて~」「だよな。なんで夜夕代は女子更衣室に自由に入れて、俺たちは駄目なの。不公平じゃんなあ」

 教室で体操服に着替え始めたアホ男子どもの声が背後から聞こえてくる。

「でも僕、ぶちゃけ、タダで見られるのなら、夜夕代の裸でもオッケーだけどね」「あ、俺も」「俺も。あいつ美人だし」「だし、ナイスバディだもんね」「てか、みんなで真剣にお願いしたら、夜夕代ちゃん、チラッと見せてくれるんじゃね?」「お願いしてみる?」「してみるか?」「それこそお願いをするのはタダだし」「だな、ここはひとつダメもとで」

 野郎どもは横一列に並び、パン! パン! 私に向かって二拍手をして手を合わせると、あろうことか一同声を揃えて――

《夜夕代ちゃん、オッパイ見せて!》

「ん誰が見せるかああああ、このスカポンタああああン。私は女よ。女子更衣室で着替えるのは当たり前でしょうが。私は女子高校生よ。オッパイ見せろだあ? 通報したらあんたら全員ブタ箱行きだぞ。禁固10年の刑だぞ」

 順番にぶん殴ってやりたい気持ちをグッと抑えて私は女子更衣室に向かう。は~、まったく男子ときたら、どいつもこいつも、バカアホエロ。

【登場人物】


櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ 恋する十七歳 三人で体をシェアしている


尾崎地図子おざきちずこ クラスメイト 優等生

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