2. 都市伝説
「share」=「共有する」「分ける」「分配する」
「シェアハウス」なんて洒落た言葉を耳にするようになったのは、いつからかしら。少なくとも私が若い頃に、一つの住居を複数人で共有して暮らす賃貸物件なんて無かった。いや、正確にはあったのかもしれないけれど、田舎暮らしの私には知る由も無かった。
インターネット用語でもあるこの言葉は、ネットの凄まじい普及により、現在では我々の日常生活においても普通に使われるようになっている。
例えば食事会などで、ひとつの鍋を皆で突き合う場合や、大皿に盛られた料理をそれぞれの小皿に取り分ける場合なんかは「料理をシェアする」なんて表現をする。
振り返ってみれば、私がまだ子供だった頃、私の家は貧しかったから、ひとつの勉強机を、姉と妹と共同で使っていた。今風に言い換えれば、あれは、姉妹で勉強机をシェアしていたのね。
私たちが自動車の免許を取ったばかりの頃は、父の車をみんなでシェアしていたし、二十歳を過ぎてからも、実の母と一緒にお風呂に入る日をジャンケンで決めていたのも、あれは大好きな母を、姉妹でシェアしていたってことね。
今この文章を読んでいるそこのあなた。あなたは、この世にたったひとつの大切な何かを、誰かとシェアすることが出来ますか?
さて。これは、ひとつの体をシェアして生きた三人の若者と、その友人の物語です。
彼らは、数奇な運命に翻弄されながらも楽しく生きた。それぞれに生きづらさを抱えながらも、互いに助け合い、時に激しくぶつかり合い、余すことなく青春を謳歌した。
これから私は、彼らがこの街で繰り広げた「ちょっとだけ悲しい喜劇」を、彼らに成り代わり、ここに書き残すことにします。
申し遅れました。私の名前は一里塚林檎。彼らを昔からよく知る者です。私が彼らと出逢った時、私は、彼らが通う高校の養護教諭、いわゆる「保健室の先生」をしていました。
さあ、長ったらしい前置きはこれぐらいにして、それではいよいよ本編をスタート――と言いたいところだけど、その前にどうしても話しておかなければならないお話があるの。
『三つ首地蔵事件』
私の住む街の知る人ぞ知る怪奇事件。この街の田舎版都市伝説とでも称しておこうかしら。この事件に、彼らは深くかかわっている。彼らを語るうえでどうしても避けては通れない話なの。すべてのはじまりは、平成十九年、夏――
【登場人物】
一里塚林檎 エピソードゼロの語り手