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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
僕は、愛雨
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12. 僕と俺と私のノート

★視点★ 櫻小路愛雨さくらこうじあいう

 朝御飯を食べたら、洗面所へ向かう。

 洗面台の鏡を見ると、ファンデーション、リップ、アイシャドー、顔中にばっちりメイクが施されている。……夜夕代め。あの汚ギャルめ。化粧ぐらい落としてから寝ろよな。

 念のため、体の臭いをスンスンと嗅ぐ。うっ。汗くさー。夜夕代め。あのウンコギャルめ。昨日は、友達の地図子ちゃんとカラオケだと言っていたな。歌って騒いで、風呂に入らずそのままバタンキューしやがったか。僕は臭いに敏感なのだ。胃酸が喉元まで込み上げる。きぼち悪い、吐ぎそー。

 シャワーを浴びたいところだが、そんな時間はないので、化粧が落ちるまで入念に顔を洗い、歯を磨いて、自室に戻る。

 六畳の子供部屋。その隅に置かれた小さな勉強机。机の上には、一冊の大学ノート。表紙には「僕と俺と私のノート」とマジックペンで書いてある。

 僕たち三人は直接会って話をすることが出来ないので、このノートを三人の「伝言板」にしている。スマートフォンがあれば、メールなどのツールを活用して繋がれるのだが、今の家庭事情を考えると、スマホを買えだなんて、そんな贅沢なお願いは出来ない。故に、僕たちの連絡ツールは大学ノート。

「僕と俺と私のノート」を開く。

『和音へ。明日の英単語のテスト、完璧に暗記しておいた。頼むから、たまには本気で解答してくれ。夜夕代へ。カーテン閉めろ』

『愛雨へ。うるせー。バカ』

『和音へ。あんたが解答した英単語のテスト、今日先生から返された。5点ってオイ。 なめてんのか。受け取る身になれ』

『和音へ。また先輩と喧嘩したんか』

『愛雨へ。ほっとけ。タコ』

『私のカルピスウォーター、勝手に飲んだの誰?』

『僕じゃないよ』

『知らね』

『報告事項。今週の日曜は地図子ちゃんと夕方まで図書館で勉強をした後、カラオケです。 キャー。楽しみー』

『夜夕代へ。遊びすぎるなよ。カーテン閉めろ』

『くだらねえ』

『野郎どもへ。夜夕代一等兵。ただいま戻りました。現在夜九時であります。くっそ歌った。くっそ疲れた。くっそ寝る』

 ふーっと溜息をつき――

『和音へ。もう喧嘩するな。目覚めるたびに体に怪我が増えている。痛くてかなわない。 お前だけの体じゃない。夜夕代へ。カーテン閉めろ。てか風呂入れ』

――白紙のところにそうメッセージを書き足し、僕は学校へ向かう。

【登場人物】


櫻小路愛雨さくらこうじあいう 悩める十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路和音さくらこうじわをん 荒ぶる十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ 恋する十七歳 三人で体をシェアしている

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