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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
サイナラあばよバイバイ
115/117

115. 僕と俺と私の作文

『将来の夢』


 二年一組 櫻小路愛雨


 僕の将来の夢は、臨床心理士になることです。臨床心理士とは、人々が抱える心の問題に寄り添い、臨床心理学にもとづく知識と技術による問題解決に向けたアプローチで「自分らしく生きる」ことを支える仕事です。


 試験はとても難しく、取得までには膨大な時間を要します。今の僕の実力では、とても無理でしょう。根気強く勉強する必要があります。でも諦めることなく、いつか夢を叶えたいです。


 僕は弱い人間です。でもこんな僕だからこそ適材な職業があるのではないか。そんな考えから辿り着いたのが、この臨床心理士です。弱い僕だから、心の弱っている人に優しく寄り添い、共に問題を解決して行けるのではないかと思ったのです。


 しかし、この文章を書くにあたり、真向から自分の将来と向かい合う時を得て、僕の考えは、だんだんと変わりました。


 本当の優しさとは何だろう。泣いている人と共に泣いてあげること? ひたすら弱者に同情をすること? 人生に絶望した者と一緒に死んであげること? 違う。本当の優しさとは、絶対にそんなものじゃない。弱いままでは、弱者に寄り添うことは出来ない。弱いままでは、弱者を救うことは出来ない。


 だから僕は、強くなりたい。


 弱者のために、強くなりたい。


 伸びしろは、誰よりもあるつもりです。


 弱い僕だから、可能性は無限大なのです。




『無題』


 二年一組 櫻小路和音


 夢はありません。未来のことなど分かりません。人生に期待などしていません。おしまい。なんて書いたら、恐らく大人たちは、書き直しを俺に強いるのだろう。


 今日まで俺は、たくさんの人を傷つけて来たし、間違ったこともたくさんやって来た。許してもらおうなんて思わない。自分が犯した罪はチャラにはならない。なってはならない。おのれの十字架として、地獄まで背負って行くつもりだ。


 そんな俺が、やがて大人になり、世のため人のために出来る事なんてあるのかな。そうだな。自分のように世の中と上手くやれない連中の相談に乗ってやることぐらいは出来るかもしれない。


 例えば、死んだ父ちゃんがかつて経営していた櫻小路建設を再建し、その会社で、道を踏み外してしまったけれど、もう一度人生をやり直したい、そんな野郎どもを雇い、面倒を見てやるなんてのは面白い。


 思えば、どういうわけか俺は、兄妹喧嘩の仲裁に入ったり、友人の進路の相談に乗ったり、他人の恋愛のサポートをしたりと、人と人の間を取り持つようなことばかりしている。誰がどう見ても調整役なんて柄ではないのに、何故かそんな役回りばかりだ。


 たぶん俺はこれからも、どうすれば人と人がうまく調和できるかなんてことを考えながら生きて行くのだろう。天命というやつだ。そう考えると、いみじくも俺に和音という名前を付けてくれた母ちゃんには感謝しかない。かつては大嫌いだったこの名前を、今では大変気に入っている。



『爆裂マイどりーみん♡』


 二年一組 櫻小路夜夕代


 十年後、この国のLGBTQなど性的マイノリティを取り巻く問題はどうなっているのでしょうか。今よりもっとオープンに語られる風潮になっているのでしょうか。差別や偏見は無くなっているのでしょうか。それとも今と何も変わらないのでしょうか。


 多くのLGBTQなどの性的マイノリティたちは、社会へのカミングアウトをはばかる。私の見解として、彼らが社会的差別を訴えるために国会議事堂前で盛大なデモを行うなんてことは、天地がひっくり返ってもない。絶対にあり得ない。取り扱う問題がデリケート過ぎ、当事者たちがナイーブ過ぎるからだ。


 助けを求める勇気が無く、それを代弁してくれる者もいないのだから、社会の理解を得られないのも当然だ。世間はそんなに甘くない。助けを乞うなら、叫んで、騒いで、炎上させなければ世論は動かない。


 例えば、道で倒れて動けなくなっても、まだ弱者ではないのだ。道行く人に「痛ぁーい! 痛い痛ぁーい! ちょっとあんた、見て分かんないの! 私、倒れているじゃないの! 私、弱っているじゃないの! さあ早く助けなさいよ!」と、大声で叫んだ瞬間、そこに弱者が誕生する。


 今の「弱者への支援制度」は全てこれ。声の大きい者が勝つ。ひとり親、老人、子供、生活保護者、障害者、男性社会で働く女性、などの現在の支援制度は、その者たちが勇気をもって手を上げ、大声で窮地を訴え、群衆を振り向かせ、権利を勝ち取った歴史であろう。


 では、大声で「助けてください」と言えない者たちは、助けてもらえないのであろうか。言葉なく倒れている者に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる者はいないのであろうか。「助けて!」と大声で言える者と、声を発する力のない者、本当に弱っているのはどちらであろうか……。


 なーんちゃって!


 政治が変わらなければ差別や偏見が無くならないわけではないもんね!


 文化面からこの社会をハチャメチャに変えてやればいいのよ!


 ちゅうわけで、私の爆裂マイどりーみん♡は、性的マイノリティにメッセージを発信する者になることです。ぶっちゃけ具体的なビジョンはまだ無いんだけどさ。とにかく元気でキュートなメッセンジャーになりたいわん♡

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