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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
サイナラあばよバイバイ
103/117

103. 理不尽

★視点★ 櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ

 ママと私は、退院をしたその足で血の池公園へ直行した。三休和尚は、和音わをんの葬儀を快く引き受けてくれた。「お坊様、生前は息子が大変お世話になりました」「いえいえ、故人には、いつもコンビニのオニギリを恵んで頂きましてな。お世話になったのはわしのほうですわい」


 それから、三休和尚は、午前のうちに大慌てで準備をした。葬儀は、午後から私たちが座禅の修行をした山奥のお寺で執り行われた。ママとしては、家族葬でひっそりと息子を送り出したかったようだ。でも、春夏冬あきないくんと地図子ちゃんと蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめおから、どうしても参列をしたいという強い申し出があり、結局、ママはそれを承諾した。


 死んだのは、和音の魂。したがって、この葬儀に故人の遺体はない。それでもママは、三休和尚に無理を言って棺桶を準備してもらった。寒波吹きすさぶ山村の寺院で、空の棺桶に皆で手を合わせ、慎ましく葬儀は執り行われた。それから、本来であれば火葬場で焼くその棺桶は、お寺の庭で粛々と焼いた。こうして、和音の魂は荼毘に付された。


「あの~、三休和尚、素朴な質問なのですが、夜夕代やゆよちゃんと愛雨あいうくんの命は助かったのに、どうして和音くんだけが死んじゃったのでしょうか」


 蛇蛇野夢雄が、燃え盛る炎に呑まれる棺桶に手を合わせながら、三休和尚に尋ねる。


「確かに、こうして夜夕代の肉体は維持されているのに」


 涙で曇った眼鏡をハンカチで拭き、地図子ちゃんが頷く。


「三つ首地蔵の祟りが鎮められたことにより消え行く運命となった和音の魂が、たまたま事件の日のタイミングでこの世から消え去ったのじゃろう。なぜそのタイミングで消えてしまったのか、それは神仏のみが知るところ。わしには分からん」


「道理に合わない。矛盾だらけ。筋が通らない。こんな理不尽な最期ってあり?」


 感極まった私は、思わずママの胸に飛び込む。枯れたはずの涙が、心の底からまた湧き上がる。


「お嬢さん。理にかなった死など無い。死とは元来理不尽なものなのじゃ」


「うるさいわよ。知ったようなことばかり言わないで。三休和尚なんか大嫌い。もう散髪してあげない」


「こらこら、夜夕代、失礼ですよ。――お坊様、すみません、娘が取り乱してしまって」


 ママが、泣きじゃくる私を慰めつつ、三休和尚に頭を下げる。


 棺桶が灰になったのを確認したら、暗くなる前に山を下りる。皆で一列になって山道を歩く。


「ボクのせいだ。すべてボクが悪いのだ」


 後方から、春夏冬くんの声がする。まだ泣いている。彼ったら、ずっと泣いている。こうなってくると、私からどう声を掛けていいやら……。彼への慰めの言葉が、逆に彼を激しく傷付けそうで怖いな。


 でもやっぱ心配だなあ。春夏冬くんって、普段は何事にも動じない無敵な存在だけれど、家族とか友達とか、明らかに撃たれ弱い急所なのよね。そういった事柄でイレギュラーが発生すると、見ていられないほどに動揺をするのよね。大丈夫かなあ。立ち直れるかなあ。





……あれ?


 いま目の前の景色が霞んだような……。山の日暮は早いと言うし、視界が怪しくなてきたのかな……。





……わ。まただ。


 今度は確実に数秒間視界が真っ暗になった。





……ほらまた。激しく意識が遠のいた。なにこれ。これまでに経験したことのない感覚。自分の意思と関係なく、どこかへ引っ張られる感じ。……え。嘘ん。ヤバいっす。私、消えかけてる? まさか、二人目は私?


――とりあえず今は、転倒をしないように、足元を確かめながら山道を前進する。


「ボクのせいだ。すべてボクが悪いのだ」


……まだ言ってるし。てか、ヤバいよお、春夏冬くん。次は、私の番かも。私、理不尽に消えちゃうかも。


【登場人物】


櫻小路夜夕代さくらこうじやゆよ 恋する十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路麗子さくらこうれいこ 愛雨と和音と夜夕代の母 


三休和尚さんきゅうおしょう 口の悪いお坊さん


春夏冬宙也あきないちゅうや 幼馴染 怪物


尾崎地図子おざきちずこ クラスメイト 優等生


蛇蛇野夢雄じゃじゃのゆめお クラスメイト 陰湿 悪賢い

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