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僕と、俺と、私の、春夏冬くん  作者: Q輔
サイナラあばよバイバイ
101/117

101. 明日になれば

★視点★ 櫻小路愛雨さくらこうじあいう

 眩しい光。


 瞼の隙間から光が押し入って来る。


「目を覚ました! ほら、看護師さん! 息子が……愛雨あいうが、目を覚ましたわ!」 


 LEDライトの光が眼球に容赦なく刺さる。大人の女性の声がする。聞き馴染みのある声音。この声は、母さん。「はやく先生を呼んで来て!」「わ、本当だ。患者が意識を取り戻した。今すぐ主治医を呼んできます」母さんが、若い声の誰かと忙しく話している。僕は、真っ白な天井材を眺めている。ここはどこだろう。自分は、誰だろう。いったい、何がどうなったのだろう。


 白衣を着た男性が部屋に飛び込んで来る。男性が僕の様態を確認する。幾つかの質問に僕は答える。時間の経過と共に色々思い出して来た。たしか僕は、桜小路愛雨という高校生。小山田マティルダという他校の生徒にナイフで刺された。なるほど。恐らくここは病院で。どうやら、僕は一命を取り留めたらしい。


「愛雨、本当によかった。一時はどうなるかと思ったよ。地図子ちゃんに感謝しな。同じ血液型の彼女が、あんたに大量の血を分けてくれたのよ」


 ベットに横たわる僕の枕元で、母さんが、ハンカチで涙をぬぐいながら言う。


「……母さん。ここはどこ?」


「医科大学の付属大学病院。ちなみに、あんたを刺した女の子は、もともとここの患者だったらしいけど、今は別の病院の隔離病棟に移されたそうよ」


「……いま、何時?」


「11時32分。事件が起きたのが7時過ぎだったから、あんたは4時間もの間意識が無かったの」


和音わをんは?」


「和音? あら、今日、和音が出現したの? それは知らなかった」


「事件の間、和音が、刺された僕の身代わりになって、身の焼けるような痛みに耐えてくれたんだ」


「そうだったの。でも私が警察からの電話で病院に駆け付けた時には、肉体は既に愛雨だったわよ」


「まさか、和音のヤツ……」


「ちょっと、愛雨、物騒なこと考えているんじゃないだろうね。あんたが生きてんだから、和音も生きているに決まっているじゃないか。さあ、余計なこと考えないで、今日はゆっくり眠りな。明日は和音が体を使う日。心配しなくても、朝になったら、いつものように和音に入れ替わっているわ」


「……だね。考え過ぎかな。おやすみ」


 僕は、ゆっくりと瞼を閉じる。母さんの言う通り、明日になれば僕の肉体があの憎らしい悪たれ小僧に入れ替わっていることを、ただ祈りながら。


【登場人物】


櫻小路愛雨さくらこうじあいう 悩める十七歳 三人で体をシェアしている


櫻小路麗子さくらこうれいこ 愛雨と和音と夜夕代の母 

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