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陰陽師土御門鷹一郎と生贄にされる俺、山菱哲佐の物語 ~明治幻想奇譚  作者: tempp
閑話 謎の石 明治16年秋 ←ノベプラいたずらコンハード選出

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その石の正体

「よォ山菱ィ! 随分とごゆっくりだなァ」

「いや、俺だってな」

「冷泉さん、おやめなさい。哲佐君はずいぶん根を詰めておりました。仕方がないことです。さぁお酒を温めてありますよ、一杯」

 鷹一郎は温燗(ぬるかん)に温めた酒をとっくりにうつし、俺の持つ盃に注ぐ。

「おお、ありがてぇ」

 土御門神社にはよくお神酒が奉納される。鷹一郎はさほど飲まないから、実質的に俺が大半を飲んでいる。冷泉の盃からはやけに甘い香りが漂っている。いつもの薬湯なのだろう。冷泉は酒は飲めないらしいから。

 それにしても今日の膳は皿が多い。通常の一汁一菜のところ、膾に蕪の煮つけ、汁椀に煮魚、おそらく冷泉が屋台で買ってきたのであろう天ぷらが並んでいる。

「やけに豪華だな」

「こういうのは派手にやるのがいいんだよ!」


 宴もたけなわ。

 三人の前の小座布団には青石が鎮座し、たゆたゆと光を放っている。

「さて、それでは御開帳だ。山菱、お前は何て書いた?」

 鷹一郎が奥からするりと三枚の折りたたんだ紙を持ってくる。

「では哲佐君から開けましょうか。何何。水。……なるほど」

「ギャハハなんだそれ」

 鷹一郎はさも残念そうな目で、冷泉は馬鹿にするような目で俺を見る。だって何がいるのかよく見えねえんだから仕方ないだろ。磨いてる途中も水は出たし、水が入っていることは間違いあるまい。

「では私どもは同時に開けましょうか。おそらく同じ回答な気が致します」

「いいぜ」

 そして二人の紙が開かれた。

 水晶。

 水晶。

 その瞬間、再び冷泉が爆笑する。


「なんだと! お前ら散々魚石だの龍駒石だの言ってたじゃねえか!」

「言いましたが、あれはあくまでそういう話があるというだけです。いえ、本当にあるのかもしれませんが、哲佐君があまりにも面白くて」

 くふふと笑う鷹一郎が恨めしい。

「だが本当に水晶かわからないだろう!」

 そのように言えば冷泉はのそりと起きだし、徐に石をとる。

「あ、おいそんな乱暴にしちゃぁ」

 そして止める間もなく柱に投げつけ、俺は思わずギャァと叫び声をあげ、そして柱にぶつかった石がごろんと床に転がった。呆気に取られた。

「わかるんだよ。これは四風の水晶鉱で掘られたもんだからな」

「何故だ! 内から水が溢れてたじゃないか」

「それはあのように外の近くに置いておけば結露もしましょうし、後半は哲佐君の手汗ではないのですか?」

 思い起こせば集中し、汗を書いていたのは確かだ。けれども今も、この石はゆらゆらと光を放ち、中に何形作っている。

「じゃあこの影はなんだ!」

「石を持って動かさずにいてみろ!」

 言われた通り石を持ち上げぴたりと止めると、その影もぴたりと止まる。東京で習った地学の講義を思い出す。

 ……石の中身の密度差のせいでできた影か。畜生。平にするのに気を取られて、常に動かしながら見てたからな!


「てめぇら! 最初から知ってやがったな!」

「知らないなんて言ってないぜ、なあ、土御門」

「そうですねぇ。私もその硬度や透明度から水晶ではないかと推測いたしましたが。けれども水晶というものはこの世ならざるものを映すこともあるそうですよ」

 水晶は光のあたりや内部の構造で光や影、つまりゆらぎを招くことがあるそうで、西洋ではその揺らぎを占いにも使うそうだ。二人して最初からわかってやがったな! くすくす笑う鷹一郎とゲラゲラ転がる冷然の姿が憎らしい。

「畜生! お前ら鬼か!」

「だが俺らの勝ちだ。さてどうしようかな。そうだ今週末付き合え、いいな」

「私はいざという時のためにとっておきましょう。何、そんなに酷いことはお願いいたしませんよ」

 悪鬼どもめ!


 そうして戦々恐々として迎えた週末。

 俺は羞恥の極みにいた。

 なぜこんな珍妙な格好をさせられているんだ。今、俺は大きな鯛の飾り物を身に纏っている。もっといえば、体長2メートルほどの大きな鯛の飾りの口部分から顔を出し、エラ部分から二本の足を出し、その背側に鯛の体を泳がせている。俺がフラフラ移動するのに鯛の尻尾がついて来る。

「なんで俺がこんな辱めを受けんとならんのだ」

「なぜって今日が蝶々踊りだからさ」

 蝶々踊りとは天保10(1839)年の春、京都で流行った盛大な仮装祭りだ。見渡せば、蛸や虫をはじめ、さまざまな姿に模した人間が踊り狂っていた。

 聞けば冷泉が掌握する神津新地(遊郭街)の秋祭りとして、10月の末にこの蝶々踊りをやることにしたらしい。異人にも大ウケするそうだ。俺は冷泉のいうまま、たくさんの遊女や異人の前で鯛の格好で踊り、太鼓を打つ。誠に羞恥筆舌に尽くしがたい。

「こんなの他にもやる奴はいくらでもいるだろう」

「頼めばやってくれようがな、俺は一応公僕だ。贔屓したとみられりゃ面倒なんだよ。後腐れのないお前さんがちょうどいい」

「命の危険がなくてよかったじゃないですか、哲佐君」

「そんな問題じゃねえ!」

 宵闇の中、賑やかな夜は更けていった。


Fin

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