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陰陽師土御門鷹一郎と生贄にされる俺、山菱哲佐の物語 ~明治幻想奇譚  作者: tempp
狂骨紅籠 夜な夜な訪れる髑髏の話 明治16年夏 ←第30回電撃小説大賞3次。

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2つの牡丹灯籠

「それでその牡丹灯籠の浅井版と圓朝版では何か違うのか?」

「わりと違いますねぇ。簡単なところでは圓朝版の舞台は東京ですけど、浅井版は京都」

「京都ねぇ。東京は何もなかったぞ」

「もともと尻尾がつかめる確証はありませんでしたし。でも行ったことに意味はありましたよ。圓朝のお弟子さんに元ネタのこの御伽婢子を教えて頂きました。それから、髑髏は東京でも普通についてきましたね。これでわかる事とわからない事が増えました」


 俺と鷹一郎は先週、三遊亭圓朝を尋ねて東京に出向いた。

 圓朝の高座はそれは見事なものだった。最後に黒川孝助が本懐を遂げたときには涙したが、それは俺の髑髏とは関係のない話だ。そう、やはり圓朝の牡丹灯籠は俺の髑髏とは関係がなさそうだった。それは確かに創作で、俺の髑髏はカランコロンなんて下駄の音を響かせることなく突然枕元に現れるからな……。

 そもそも俺と鷹一郎の東京詣での主目的は、可能性を潰すことと、所々の実験だ。何しろ伊左衛門の行動の他に髑髏に至る手がかりがまるで無い。だからとりあえず伊左衛門が東京で買い付けた品におかしなものが混じっていないかを確認することと、髑髏が果たして東京まで追いかけてくるのかの確認することが目的の旅だった。

 荷の売り元は元神津(こうづ)藩士の家で、参勤交代のために確保していた東京の家を引き払う際に家財を売却したそうだ。そのために地元神津の伝手で伊左衛門を頼ったのだ。伊左衛門はその藩士の家財全てを東京の別の伝手に売り払ったものだから、神津に持ち帰ったものはない。売り先をあたって扱った品物も見せてもらったが、座椅子に座卓に長火鉢、箪笥(たんす)長持(ながもち)衝立(ついたて)といった普通の品ばかりだった。

 髑髏につながるようなものはなかった。伊左衛門の帳面をみると、神津と水戸で卸したものもほぼ同様だった。

 それから髑髏は律儀にも東京まで追いかけて来た。丑三つ時になれば、長屋や土御門神社と同じように枕元に訪れる。


「これは困りましたねぇ」

「逃げ場がねぇな」

「いえ、そんな単純な話ではありません。髑髏は場所を選ばず現れる。そして場所が離れても存在感が弱くなることもない」

「つまり、どういうことだ?」

「本体の居場所が皆目検討付かないということです。本体は異国にいるかもしれない。流石に神社をそれほどあけるわけには……」

「ちょっと待てぃ」

「冗談です。どこへでも行きますよ」

 いつも通りニコニコしている鷹一郎の冗談はいつも心臓にわるい。

「あれほどの執念ですから、伊左衛門さんはきっと本体に会ったのです」

 伊左衛門と髑髏は一体どこで出会ったのか。髑髏はどこまでも追ってくる。その執念に背筋が寒くなる。

 一番の問題は、髑髏の居場所がわからないことだ。鷹一郎はその場その場で場当たり的に髑髏を祓うことはできる。けれども祓っても再びどこかからやって来る。どこからともなく訪れて、再び俺にまとわりつく。だから元々の居場所を突き止めて本体を祓わなければ、根本的な解決にはならない。

「それじゃ今度は京都に行ってみるか?」

「いいえ。伊左衛門さんは京都には行っていない。無駄足でしょう」

 そうすると結局、伊左衛門は髑髏とどこで会ったのだ。

 伊左衛門に心当たりがない。どこを調べればいいのか、もはや手詰まりだ。

 ぎゅうぎゅうと先細る隘路(あいろ)を追い立てられているような、嫌な気分だぜ。


「他の大きな違いは圓朝版では髑髏のお(つゆ)は生前、新三郎(しんざぶろう)に出会ってお互い恋仲になっている。一方の浅井版は妻を亡くした新之丞(しんのじょう)が精霊祭りに死人の弥子(いやこ)と出会うのです。つまり死んでから出会う。こちらのほうが今回の髑髏に似てはいるような気はするんですよね」

「精霊祭? じゃあやっぱり夏か。けれども妙に薄ら寒い感じがするんだよな」

「死者だからではなく?」

 確かに死者というのは冷たい感じがあるものだが。

「表現し難いが、土の中にいるみてぇに冷たく湿ったような感覚がある。吐息からそんな冷たさを感じて、骨がきしんで仕方がない」

「へぇ。浅井版では寺の浴室の後ろの御霊屋に安置された棺、圓朝版では墓に入っています。いずれも湿ってはいそうですねぇ」

 鷹一郎は腕を組んでなんでもなさそうに頭をかしげた。

 ひっそりと人知れず安置された棺。

 この時代は土葬だろう。恐らくその弥子というのは何日も新之丞のもとに通ったのだ。土中といっても暑い夏の盛りだ。10日もあれば骨になる。女は棺の中でだんだんと崩れ落ちて骨になりながらも男を探して……。

 そのように考えると、途端におどろおどろしさが倍加する。俺の布団の周りに鷹一郎が小さく張る結界は、まるで俺を閉じ込める棺のようだ。いやこれは守りだ。突破されてるとどうなるのか。禄でもねぇ。


「それから最後も違います」

「最後?」

「そう。圓朝の新三郎は隣に住んでいた伴蔵が髑髏から金をもらって札を破った。だから忍び込まれて取り殺された」

「浅井は?」

「札で守られてたのにのこのこと行っちゃったんですよ。弥子の眠る寺に。それで引きずり込まれて墓の中で白骨に絡まって見つかったそうですよ」

「げぇ。馬鹿じゃねぇのかよ。俺は近寄らねぇぞ」

「いいえ。棺に入っていただきますよ。そこまでが哲佐君のお仕事ですからね」

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