いたずらな風と新しい目覚め 2
広道は自らが観測できない常ならぬ現象が生じた可能性、そして最終的にその原因となる何者かが存在したとしても矛盾しないとの仮説をも立てる。そもそもがこの昏倒と超回復こそも、そして自らが扱う病すら、常ならぬ現象なのだ。
「実道。お前の結論は、この昏睡の効果は回復力の増強、なのか」
「……そうだな。ああ、お前もどうせ気づいたのだろうが、もともとないものは回復はしないんだ」
広道は心のなかで頷いた。それこそが、広道にとって最も重要なことだったからだ。結局広道にとってこの不可解な現象がどのような理屈でもって回復するのかといった機序は、意味がない。
「やっぱりお前を説得をするのは無理か」
広道の瞳をまっすぐ受けて、実道は諦めたように呟いた。
この昏倒は病を治す。けれども欠損は病ではなく、元より目玉のない凛は回復のしようがない。つまり、この昏倒の効果が回復を求めるものであるのならば、凛は永遠に目を覚まさない。治すべき対象を見失っているからだ。
「切る」
一考の余地もなさそうな広道の断言に、実道は肩をすくめた。
『それには及ばない』
その瞬間、耳をつんざくような音がして、広道は思わず耳を塞いだ。見れば伊予も塞いでいて、けれども実道は不思議そうに突っ立っていた。そしてその視線が広道の頭上にふわりと持ち上がる。広道が振り返れば、薬草園に生え伸びた巨木は生き急ぐように次々と新芽を生やして燃えるように狂い咲き、そしてついには萎びていき、気がつけば元の密林のような状態に戻っていた。
実道は残念そうに呟いた。
「何かが終わってしまったね。何もかもが唐突だ。せめて研究がしたかったのだがな。それで広道、結局何だったんだ」
「俺にもわからん。けれどもこれで凛は目覚めるだろう」
「そうだね、残念……とはいわないよ」
実道は広道の強い視線に、その語尾を変更したけれど、それもまた本心であることは間違いない。
そうして医院は通常に戻った。奇跡的な回復という結果が残された分、それはそれで一つの騒ぎになるのだが、これはまた別の話だ。
常城神社ではいつもどおり、ぽかぽかとした日差しが降り注いでいた。
「吾輩が射たもののせいなのでしょうか」
「そうだね。お前は最初にあの子らが持っていた草木を、そして次はあの園の地面を射た。そこから生えた木々は最初はあの男を見、その望みを叶えようと女の目を治そうとしたが治せず、代わりに男の関与し治そうとした全てを治そうとしたのだろう」
少彦名は最後のひと押しをしたのが自分の加護であるのだろうことは、話すつもりはなかった。
「あの医院は大変賑わっております。そのままでもよかったのではないので御座らぬか」
少彦名は巨木を思い出し、あれは実に見事だったと思い直す。
「クピト、人というものはな、あるがままというのが一番面白いのだよ。けれども人の子らを随分と騒がせてしまったな。この落とし前はどうつけるべきか」
「少彦名様、私めの国には丁度良い言葉がございます。そのような場合はこのように申せばよいのです」
もし私たち影法師がお気に召さなければ、こうお考え下さい。そうすればすべて円く納まりましょう。皆様方は今までずっと居眠りをされ、その間にいろいろな幻をご覧になったのです。
Fin
この話は好きなんだけど、もっとビジュアルによせたいなぁという気分。
そのうちまた改訂しよう。
注記:シェイクスピアの真夏の夜の夢は、真夏ではなく夏至前なので、季節はそれにのりました。




