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額に突きつけられた真実

「言っておくけど、ドッキリのためにコラボの話をしたんじゃなくて、コラボのついでのドッキリを仕掛けたんだよ」


 ぐちゃぐちゃになった感情に溺れそうになっている僕をよそに、委員長は伸びやかに話している。その平然とした態度がまた僕の感情と対比させて際立たせるから、もうどうしようもない。

 道の上にうっすらと伸びている二人の影が、僕らより少し先を歩いている。委員長の前にいるそれはすらりとまっすぐに伸び、僕の前にいるのはなんだかいまにも崩れそうだ。

 委員長と目を合わせる代わりに、横を向いている隣の影の目の部分に僕は焦点を合わせた。


「あのドッキリで何度も死にかけたというのに、まさかついでだとは思わなかったよ」


「よかった。どうやって驚かしてやろうか考えた甲斐があったよ」


「いや、誉めてるわけじゃないんだけど」


「あと彩風くん、ふくろうさんたちからは――あっ、私のリスナーは『ふくろうさん』っていう呼称があるんだけど」


「へ、へぇー、そうなんだ」


 それいま必要なこと? と脳内でつぶやく。でも言われてみれば僕のフォロワーのなかにも、名前のところにふくろうの絵文字をつけている人がいたなと思い出した。あれはきっと織部あてなのファンであることを示すための印なのだろう。


「そうなの。でね、ふくろうさんたちから『コイツ誰?』ってびっくりされるって言ってたけど、それはないと思うよ」


「なんでよ。一度も関わったことないのに」


「確かに関わったことはないだろうけど、ふくろうさんたちはみんなディーテくんのこと慕ってるからコラボしても問題ないよ」


 だから大丈夫! と語尾を強めて委員長が拳を握りしめる。そのイキイキとした姿から、僕に発破をかけようとしてくれていることは伝わってくる。

 しかし、肝心の僕の心までまったく届いていなかった。委員長の発言への疑問が思考を覆い、それ以外のなにも受け付けようとしていない。

 ちょっと言ってる意味がまったくわからないんだけど、ともうお手上げ状態であることを告げる。

 しかしそんな切実な想いは、あはっと委員長に一笑いっしょうに付されてしまった。


 十字路に差し掛かる。前方の赤信号に足を止めると、委員長が首を傾けた。


「彩風くんって私に師匠がいることって知ってる?」


「まださっきの話全然飲み込めてないんだけど」


「まあまあ、あとで説明するからとりあえず知ってるかどうか教えて」


「うーんまあ、聞いたことはあるよ。というか実在するの? 織部あてなが脳内で生み出したイマジナリー師匠だと思ってたんだけど」


「失礼な、実在するよ。ほらっ、そこに」


 そう言って委員長は僕のいる方角に人差し指を向けた。えっ、いつの間に背後に! あまりに急すぎる師匠の登場に心臓が跳ね上がる。

 恐る恐る指が示すほうへと振り返る。しかしそこには誰もいなかった。――いや、僕の横を通る車道の向こう側の歩道に柴犬を連れたおじいさんが歩いている。その全体的に暗めな服装は一見するとごく普通のおじいさんであるが、「師匠」と言われればそう見えなくもない。

 まさか、あの人が師匠?


 衝撃的展開に僕は思わず声を上げた。


「えっ、あの犬を連れたおじい――いてっ」


 慌てて振り向くと、委員長の人差し指が僕のおでこに突き刺さった。顔がほんの少し仰け反り、小さなうめきが漏れる。


「な、なに」


 雨の余韻が残る湿っぽい空気が、重なる視線の間を通り抜けていく。揺れる前髪は眉に沿ってそろえられており、造形のよい彼女の目元をより際立たせていた。

 銀色の縁に囲まれた薄い瞼が柔和な笑みをたたえている。そこからのぞく琥珀色の瞳に映り込んでいたのは、依然として指が刺さったままの僕の姿だった。


「私の師匠はディーテくん。つまりあなただよ、彩風くん」


「へ?」


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