閑話休題/~あの時の夢~
『生まれてきてくれて良かった』
誰が生んでくれと頼んだ?
『元気に生まれてくれればそれで良いの』
僕の意志は何処にあるんだ?
『あなたは強い子。あなたは祝福されて生まれる子』
『例え苦境に立たされても。例え困難が立ち塞がろうとも。あなたはきっと、強く生き延びてくれるわ』
やめてくれ。
『だからあなたに捧げる。あなたの名前は━━』
接地感のない黒い渦の中で、灰のように降り注ぐ祝福を一身に受ける僕。遠巻きに響く女の声を塞ごうにも、踞る身体が動く事が無い。衣服の感覚はあるのに、視界に映るのは今よりもか細くなった、衣服に包まれている筈の僕の腕だ。
動けない。
動けない。
この空間が、僕の自由を拒絶しているかのように。足を伸ばす事すらままならない。
何より、幽閉されている筈なのに。怨嗟の中で何処か安心を覚えている僕に、何よりも腸が煮えくり返ったのだ。
「……」
何も言えない。動けない。ならば僕に出来るのはその祝福を否定する事だけだった。奪うだけの世界に、辛いだけの世界に僕を作り出した者に。恐らくは声の主に届けと、黒い渦の底から。
『クソ喰らえ』と、揺らめく陰の中に毒を溢した。
━━夜が朝に変わるように。視界は茜を経て白く染まるように。毒が届いたのか、僕が手放したのか。
無抵抗のまま、白んだ先へと、僕は落ちていった。