~袖を連ねる夢同士~(4)
『そこで何をしている?』
此処に来て、彼女にとってバツの悪い事ばかりが連鎖を続けているように思える。人通りの少ない、狭苦しい外れの細道。建物に反響した薄い金属片の音に包まれて、その声は届いた。
パーシィの先に目をやると、二つの青い鱗鎧が見えた。手に持った古典的な槍が見えた。かの英雄神の用いた装備に身を包むそれは、このシヴァル国を守護する衛兵の立場にある事を意味している。 僕にとってはこの上ない幸運だが、彼女にとっては因果応報の行き止まりでしかなかった。
「はいはい、一先ずそのまま動かないでね。これも仕事の一貫だからさ」
「くっ…来るなっ!! …来ないでっ…!!」
幾ら僕達が大人だといっても、体格と性別の違いは無慈悲なモノだった。彼女の抵抗は立場の下棄却され、容易く二人の衛兵に細い身体を拘束される。
「おい、コイツあれだぞ。武器証明も無しに斧を装備として使用し続けている犯罪者だ。
名前はパーシィ・ナターシャ。確か公営ギルド所属の冒険者だ」
「おいおい…。いけねぇなァパーシィちゃん。 許可無しに投斧は使っちゃならねぇって、ギルドで説明受けたんじゃねーのか?」
唯一の頼みである投斧も奪われ、『抵抗を防ぐ』という免罪符を『これでもか』と誇示するかの如く、薄汚れた石畳に彼女を押し付ける近衛兵。
武器を購入・使用する場合は、適合する研修・課程を終えなければならない『武器証明』。
生命の討伐・捕獲、それらに準えた狩猟行動を行う場合は取得しなければならない『狩猟者資格』。
冒険者の間では『抵抗権』と呼ばれるこの取り決めを、聞き耳を立てる限り、彼女は保有して無いようだった。
「かっ…返してっ…!! それは」
「はいはい、檻の中で好きなだけ懺悔してろ。たった一人でな」
彼女を徹底的な迄に、無理矢理沈黙させる衛兵の顔に目が行った。
衛兵は、醜く『愉しげ』だった。
「…此処で何を?」
それを僕は、何故だか堪えられなかった。
何か一言でも言わなきゃ、溢れ出る何かを押さえ付けることが出来なかった。
「何をって…私達は守兵だよ? この周囲の巡回に決まってるじゃないか。
例え君がどんなナリをしていようが、投斧を突き付けられて命の危機に瀕してるのであればね…っ!!」
声を上げることすら儘ならない。それなのに、衛兵は押さえ付ける力を強めている。
「…助けなきゃならないんだよ。秩序と叡知の上に成り立つ『平和』の為にね」
「さぁさぁ、此処は俺達任せて何処へとも行っちまいな。その成りだとお前も冒険者だろ?この首都に冒険者の仕事なんてねぇんだ。
まだ見ぬ未踏の地を開拓する、異端なる開拓神の所業を我等がシヴァル国を見守って下さる英雄神様の導きを以て遂行するのが、盗人猛々しいお前らの仕事だろう?」
…果たして僕は、衛兵に何かしたのだろうか?違う、強いて言うならば僕は彼等に問うただけだ。それでこの言われようならば、それは彼等の根底にある醜さが原因だ。
『守る』と宣いながら、その実は権威を振りかざして悦に浸ってるに過ぎないのだろう。二柱の英雄まで持ち出してきて、僕までまとめて見下した。
「…僕は、彼女から何もされていません。被害すらも受けていない。彼女は何もしていません。だから、彼女の拘束は解いてくれませんか?」
勿論、只でとは言わない。 左手の麻袋に加え、鞄から取り出したもう一つの麻袋を地面に叩き付ける僕。酔狂だろうが、これを見逃してしまえば一生、この光景に蟠りを抱えてしまう気がした。
「…何、これ? もしかして君、この子の仲間だったりする?」
沈黙で答えると、衛兵の一人は鱗鎧で隠された醜さで少し、噛みついてきた。掴み掛かる腕は太く、僕が何かしただけでも逆鱗に触れてしまえそうだった。 狼藉を貫く彼等には、正義の所存は此方に在りと言わんばかりに悪意が滲み出ていた。
「答えろ冒険者。何のつもりでこんな真似をする?」