~人の御旗に集いしは~(1)
立ち込める料理の芳香と木目に染み付いた湿り気とが混ざり、鼻腔を包む。…元より捨てようとしていた命を胸に、僕の中には相反した『帰ってきた』なんて実感が少しだけ沸いた。
「……外は、見てみてどうだった?」
「んぇ…?」
「あんな風景がきっと、世界には広がっている。パーシィは『広い世界を見てみたい』って、僕のパートナーになったよね。
君はこの数日…その一端に触れた。僕にとっては数ある日常の一つだけど、パーシィにはどう映ったのかなって」
少し、意地悪な質問かもしれない。死ぬ事が当然の、誰も守ってくれない領域を歩く。『外側』には不倶戴天の天敵しかいないのだ。
彼女は『罠師』だ。僕とは異なる世界の色を知っている。僕とは違う怖さを知っている。しかし逆に、彼女はこの短期間に知らない色を知った。
どう思うか?常識というか…人間として生を受けたのならば恐怖を抱く。死にたくないと思う。分かりきった答えを、宛ら隅に追いやるような質問を『意地悪』と形容せずしてなんとするだろう。
「そうだね、やっぱり『怖い』が一番大きいかな」
あぁ、やっぱり。予想通りの、模範的な回答が返ってきた。
「━━でも、でもねユリィ」
「私はもっと、この世界を見てみたいって思ったよ!
首都の空は、あの湿地で見た青空よりも窮屈過ぎるんだもん!」
彼女は食い入るように僕に身を乗り出し、かと思えば身を引いて困ったように顔を傾ける。
赤らんだ顔は照れているというよりも、人の聞いている中で赤裸々に高らかと、惹かれた外の色を熱弁したからだろうか。
「おーおー、若ェ二人が可愛らしいじゃねーのよ。ホレ、代金が足りなけりゃ出世払いでも構わねぇぜ」
何故だか、僕の顔まで赤くなっていた。それをからかう様に店主は豪快に…悪く言えば粗野に料理をテーブルへと置く。
大きく切られた肉の塊にはコレでもかという程『焦げ』がこびり付いているが、それを調味料の持つ香ばしさが食欲を増進させる。━━流石ギルドというか、首都というか。これが『最低レベル』の料理らしい。
「……からかうのがお上手なようで。でもお言葉には甘えますよ。……本当に、ありがとうございます。 店主にもヤーの導きが有らんことを。頂きます」
「あ……えと、ありがとうございます!」
「━━やれやれ、純真無垢。いい子達じゃないの。頑張りな、仕事ォ」