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~湖での一幕~(2)



 透き通る青は、再び夕闇へとその色を溶かした。砕いた宝玉を散りばめたかのような、細やかな点の明滅。その全てを湖畔の群青が反射して、ユリィ達の周囲を淡く、染め上げていた。



 「……火は起こしたけど、これなら要らなかったかな」


 「寝る時に消せば良いよ。じゃないとご飯も食べられないし」



 パーシィの疑問と、回答するユリィ。 抽象と写実を織り混ぜた幻想の一端で、炉にくべた薪の弾ける音を聞きながら二人は青の溶けた夕闇の空を仰いでいた。

 波打つ湖は時折白く、時折黒く、蒼くを繰り返し、水面に反射する空の灯りを揺らす。土着生物の魚が水底を蹴ったか、湖畔の淵を飛沫が少しだけ強く跳ねる。


 二人は騒がしい営業(えいごう)はなく、静寂の中に居た。



 「…本当に不思議な場所だよね。どうして此所だけこんな別世界が広がってるんだろう」



 ユリィの口から、すぐに答えは出ない。ユリィ自身にとっても、現象のようにも思えるこの光景が存在している理由を表現出来なかったのだ。 


 彼も二年の間、この理不尽な世界を生き延びてきた。目覚ましい文明の発展とはかけ離れた、放逐された美しさを目の当たりにしてきた。



 「━━不思議としか言い様がないかな。僕もよく分からない」



 そんな彼でも、この光景を前には拙くならざるを得なかった。現実から足を離した圧巻な光景は、草臥れた少年の瞳をに年相応の輝きをもたらした。緑色の瞳に空の暗がりが混ざり、パーシィはそんなユリィの横顔を見て、何故だか頬を赤らめていた。



 「英雄神(エクトル)様と開拓神(ユリシス)様も、この光景を見たのかな?」



 東から昇る陽光の導きによって、叡知をもたらした英雄。原初の国を纏め、その中で自らの杖を『槍』として原始的な武器の原型を作り上げる。その功績によって、現世にて『神』として語られる事になった神『エクトル』。


 西へと沈む白んだ輝きによって導かれ、文字通り『海を渡り歩いた』英雄。……エクトルとは対照的に、その実態の殆どが有象無象に消え去ったが、エクトルと並ぶ英雄として『神』と語られる事になった『ユリシス』。


 二柱の英雄譚はこの世界に生きる者の根幹となり、『円環教』と『叡知教』、二つの信仰を生み出した。 そして、それはユリィもよく理解している事だった。



 「…英雄神(エクトル)開拓神(ユリシス)はある場所で袂を分けたって語られてる。


 『勇気ある者は東の輝きへ。奇跡起こす者は西の霧へ。』シヴァルの公営ギルドは円環教だから、口を揃えて『そんなことはない』って言うと思う」



 一度下がった目線を、再度空へ。『でも』と続けたユリィは、パーシィへの回答を返す。



 「神話や教えがどうであれ、空は変わる事無い。きっとこうやって、一緒に見たと思う」



 ……この質問に()したる意味等は無かった。紅潮したパーシィが冷静さを保つ為に話題を投げた。その程度の認識だったのだ。


 けれども、ユリィは上を往った。二柱の英雄と立場を重ね、パーシィと共に散りばめられた星の光を見た。故にパーシィは、焚かれた炉の近くに顔を近付けた。 ━━熱くても、赤面した顔を隠そうとしたのだった。



 「……そろそろ魚が焼ける頃かな。可食だけど流通はしてない魚だから、食べても大丈夫な筈。


 骨も多いし、水っぽいから味は期待しないでね」



 炉に差した串を一本、パーシィへと差し出す。焦げた皮目からは脂か水のどちらかが滴っていた。…ユリィの後者の発言からして、恐らくは水なのだろう。



 「……へへ、ほんとだ」


 「ね、骨だらけ」



 捕った魚の腹を喰らった二人は、僅かに乗った肉を喰らいながら、細く鋭い骨を口から取り出して。 何故かも分からないまま、互いの顔を見て笑っていた。

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