~空が青くなるその前に~(3)
ランタンに灯した火が徐々に、小さく、小さくなって。次第にお互いの顔も近くでないと見えなくなる位に、薄ぼんやりに染まっていた。
外にはこの部屋以上の暗い世界が広がっている。本来なら罠師の夜目も効かない、蟲達の独壇場。少なくとも野営地は松明と焚き火で明るさは確保出来ているから、外の方が安心出来るかも…なんていったら怒られるかもしれない。
「(……死にたい、かぁ)」
ユリィの目的…いや、『願い』といって良いのだろうか。理不尽でどうしようもない世界だけど、きっと私達の知らない綺麗な何かがあちこちにある筈なのに、宛らユリィは『死ぬ為に冒険者になった』ような口振りだった。
叡知と差別。英雄神と開拓神。戦争と平和。…理由はいくらか思い浮かぶけど、どれもパッとしない。それもその筈で、ユリィの独白の裏には何か…もう一つ隠されている気がしたのだ。
「(ユリィはきっと、真実を私には話さない。もしかしたら、ユリィ自身も気付いてないかもしれない)」
私はユリィじゃない、パーシィ・ナターシャ。生まれも育ちも対極な、目的だけ合わさった同業者。 …今はパートナーだけど、時の運によって私達を神様は別つかもしれない。 だから、私の不明瞭で覚束無い憶測は、胸の中にしまう事にした。
「パーシィ、寝れる内に寝ておかないと。暑さの中では体力を消耗してしまうよ」
「あ…分かったよ! …じゃあおやすみ、ユリィ!」
噂をすれば、二段ベッドの上から私に向けてユリィが寝るように言ってきた。 …何処か、出来の良い弟というか。私のダメな所をカバーしてくれる、従兄弟のような。今の口振りはちょっとだけ、親友に似ていた。
「(…エド、約束は絶対に果たすよ)」
ランタンの火がついに、消沈する。静けさと暗闇だけが部屋に浸透して、不思議と身体が重力で、沈む。
深い底の中、空が青くなるその前に。少しでも身体を休めないと━━━