美しき者には裏がある…?
いつもと同じ日差し。
いつもよりもふかふかのベット。
見慣れぬ天井。
隣には見知らぬ男。
ズキズキ痛む下半身。
私、菊池・莉瑠22歳は混乱しすぎて逆に冷静になった。
男は栗色のサラサラの短い髪に、形の良い唇。目は閉じられていてわからないが、近くのホクロが色気を醸し出している。鼻筋はスッキリと通っている。
耳の形までいいってどゆこと?
これは--------よし、寝よう。
こんな非現実な朝なんて寝て忘れよう。
では、おやすみなさい。
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二度寝を決行してからどれくらいの時間が経っただろうか。
昨日は酒しか飲んでいなかったから、喉が渇いてしょうがない。しかし、目覚めた原因は喉の渇きだけではない。遠くから聞こえるカチャカチャ、といういかにもご飯の準備をしているこの音である。
できればご飯の準備をしている人とは会いたくない。だが喉が…!
という思いの元暫くゴロゴロしていた。
すると、遠くにいた気配が近づいてくるではないか。これはどうすれば?はっ、寝た振りをしよう。
コンコン。
「莉瑠さん起きてますか?」
ガチャ。
「莉瑠さーん、起きて下さーい。ご飯できたよ。」
「これは…、眠り姫のつもりですか?なら、キスをしないと、ですね?」
低く、甘い声が聞こえた。
ツンダ。起きなければ!と思った私はパチっと目を開けた。
この目に映ったのは、綺麗な濃い茶色のキリッとなった目。今朝は開いていなくてちょっと残念だと思ったのは秘密。
でも問題は、この男をちっとも思い出せないこと。
「えっ、誰?」
思わず言ってしまった私を許してほしい。
でもこの綺麗すぎる男のショックを受けた顔を見たら、責めて欲しくなった。けっこう精神にダメージ受けたわ。
「覚えてないんですか?昨日はあんなに愛し合ったのに…。」
「うぐっ。ご、ごめんなさい!昨日は呑んだあとの記憶が全然なくて…。」
「そうですか。あっ、とりあえず話は後にして先にお風呂のお入りください。体ベタベタでしょう?」
「…はい。ありがたく入らせて頂きます。」
お風呂の場所を教えてもらい、痛む下半身でトコトコ目指した。
しまった。私、着替え持ってないぞ。まぁくれるかな?うんうん、きっとそうさ。
案の定、熱いシャワーを浴びたあとに風呂場から出たら、明らかに男物のシャツと短パンがおいてあった。ありがたやー。
さっそく服を着て、風呂に入る前に教えてもらったリビングに向かった。
ドアを開けた途端に美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。お腹が鳴りそう。
「お風呂ありがとうございました。おかげでスッキリしました。着替えもありがとうございます。」
「いえいえ、昨日は莉瑠さんに無理をさせてしまったので、疲れがとれたようで良かったです。」
「…」
めっちゃ意味深に返して来るのなんなん?
こっちが恥ずかしくなってくるのだが…
結局私達2人は、ご飯を食べた後に昨日の話をする事となった。
わかったことは、この男が島田・裕二19歳だということ。
そして、かろうじて残っている潰れる前の記憶と聞いた話を合わせると。
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昨日は久しぶりの合コンに騙されて参加していた。親友のユカリは私が彼氏も作らず、ただ酒を呑み明かしていることに心配を覚えたのだろう。多分。
『久しぶりに女子会やろ~!人は私がよんどくから、ちゃんとお洒落してきてね。んで、みんなをビックリさせんだよーん! 』
この言葉に騙せれなければ…
騙せれたときは思わずため息をつきそうになってしまった。でもせっかくユカリが私のために企画してくれたからと参加を決意。
しっかーし!隣の名前も覚えていない男がとにかくウザかった。そのためイライラしすぎて無言で飲みまくった。流石に無視しまくったらどっか行った。ふっ、私の勝だ。で、そのまま帰った。
でも飲みたりなくなっておなじみのバーに行った。
度数が高いものばかり飲んでいたためすぐに酔いが回ってきた。そして、隣の人に話しかけたらしい。それがこの島田さん。
何故だけ知らんが酔った私と意気投合。私はそこで寝てしまい、島田さんは私の名前しか知らなかったが、せっかく意気投合したのにこのまま放置するのはしのびないと自分の家に連れて帰ってくれた。
そして私をベットにおいたら、間の悪いことに私覚醒。まぁ、近距離で目があってしまったためいい雰囲気になるわけで…うんまぁ、あとは想像の通りって感じ。
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「ねぇ莉瑠さん。」
「はっはい。」
「昨日のあれさ、実は初なんだよね。なので責任取ってくださいますよね?」
「えっ……も、もちろん責任を取らせていただきます!何万円ほどの損害賠償でしょうか。」
島田さんは一瞬キョトンとしてから、クスクス笑い始めた。笑い方でさえ色気があって羨ま…んんっ、けしからん!
さてさて私にどんな無茶な額を吹っ掛けて来るのやら。
「では莉瑠さん。いや、莉瑠。責任取って俺をもらってね。ちなみに拒否権ないから。」
そのままくすっと笑ってこちらを見ている。
えっはっ?思考がフリーズするとはこのことか。
でもでも拒否権なしって言ったよね?ええぇ?!
「ほら莉瑠、返事は?」
「はっはい。これからよろしくおねがいします、島田さん。」
「うん。じゃあさっそく彼氏彼女になったから、敬語なしで、俺のことは呼び捨てね?」
拒否権なしと、早く呼べという圧を感じて仕方なく口を開く。
「よっよろしく。ゆっ裕二…」
「んふふふ。よろしくね莉瑠。」
島田さん、いや裕二の笑顔が悪魔のそれに見えたのは一生の秘密にすることにした。
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あの日から何年か後、今日とて、美しい顔の男に翻弄される酒好きの呑気な女がいたとかいなかったとか…。