プロローグ 「いつになったら結婚するの?」by母親
初めまして、子子子子子と申します。
一次創作小説初投稿となります。
お楽しみ頂けたら嬉しいです。
「私、アメリア・シャティヨールは、当家の有するソレイユ騎士団団長のジョン・スミスと結婚致しますわ!」
学園の卒業パーティにて皆の注目を集める中、私はそう高らかに宣言する。
「...それがアメリアの望みなんだね。」
「はい。これが私の答えです。」
私の言葉を聞いた元婚約者のマチアス殿下は、悲しむでも怒るでもなく、ただ私の幸せを願うかのように微笑む。
(マチアス殿下...。確かに貴方は本当に素敵な方です。でもごめんなさい。私の最推しは貴方ではないのです。)
そう、私の目の前に立つマチアス殿下もとい、マチアス・プランタジネル第一王子は私が前世でこよなく愛していた『私って悪役令嬢ですよね?〜悪役令嬢に転生した筈が溺愛されて困ってます〜』のメインヒーローであり、私の三推しなのだ。
そして、私の最推しは先程私が高らかに名前を叫んだ事により、注目を一身に浴びてしまいすっかり縮こまっている、ジョン・スミスである。
「さあ、ジョン!胸を張りなさい!今この瞬間から貴方はこのシャティヨール公爵家の娘である私の婚約者なのですから!」
そう笑顔で声を掛けてみれば、ジョンは益々縮こまる。そんなところも好きなのだけれど。
「誰か...助けて...。ハンス...。」
ジョンの消え入りそうな声は私以外には聞こえていなかった。
時は1年とちょっと前まで遡る────────
都内の某ファミリーレストランにて、どこか暗い雰囲気で向かい合う女性が2人。
「【来月の連休には帰って来なさい。それにしてもいつになったら結婚する気なの?お母さんが若い頃は】うんぬんかんぬん...はい!」
「これは...見事なまでの結婚圧力だね。」
「でしょ?あ〜もう無理!絶対実家帰りたくない!」
「そんな彩季にはいこちら。【来月の連休には帰って来るのよね?それはそうとあなた結婚する気あるの?お母さんはあなたより若い頃には】どーたらこーたら。」
「花栞のお母さんと私のお母さん言ってる内容ほぼ一緒じゃん。」
「まぁ私達も30歳目前だし?お母さん達の言いたいことは分からなくもないよ?でもさ...」
「「相手が居ないんだよなぁ...」」
綺麗に声を揃えて2人は項垂れる。
「そもそもさ、出会いがないんだよね。」
顔を上げそう言ったのは、先程彩季と呼ばれた女性。
彼女の名前は椎谷彩季。29歳の現役保育士。
首の後ろで一つに束ねられた長めの黒髪、眉で切りそろえられた前髪、化粧っけのあまりない顔。どこをとっても地味な女性という印象を持たせる。
「わかる。まぁ合コンだとか婚活パーティーだとかに参加してない私達が言うことじゃないとは思うけどさ。」
彩季の言葉に頷きながら向かい側に座る女性は言う。
彼女の名前は霜里花栞。29歳の会社員。
焦げ茶のショートヘアにシャツ、スラックスとスマートな印象とは対照的な薄らと隈の浮かぶ顔からは、疲れが見てとれる。
「仕方ないよ。お互い多忙なんだから。花栞は立派な社畜だし、私は担任になってから休みなんてあってないようなもんだし。」
「それはそうだけどね。て言うか、彩季は職場恋愛とかは?」
「ないない!向こうも思ってるとは思うんだけど、子育てのパートナーとしてのビジョンは見えても、異性としての何かがこう...ね?」
「つまり、父親をやってるその人のことは想像出来ても、異性としては見れないって?」
「そういうこと。そう言う花栞は?」
「やつれた男か偉そうにふんぞり返ってるだけのジジイしかいない職場で恋愛出来るわけないっしょ。」
「うわ...きつ...。」
2人は顔を見合わせるとまた深い溜息をつく。
「やめよ、この話。言い出しっぺは私だけどきつくなってきた。それより...はい。」
「そうだね。今日会ったのもこの為...。というわけで交換ね。」
彩季と花栞はお互い鞄から出した、市販の物とは少し異なる質感の冊子を交換し合う。
「本当はちゃんと読んで感想言い合いたいけど明日早番だしそろそろ帰るね。」
「私も課長に出勤はやくしろって催促されてるから帰るよ。感想はメールで送り合うか。」
「了解。」
2人が店を出て暫く談笑しながら歩いていた時、それは起こった。
確かに歩行者信号が青だった横断歩道に猛スピードのトラックが突っ込み、彩季の身体は宙を舞った。
――――――
登場人物紹介・用語解説
『私って悪役令嬢ですよね?〜悪役令嬢に転生した筈が溺愛されて困ってます〜』
小説投稿サイトで人気を博し、コミカライズまでされている現在も連載中の人気作品。通称『悪困』。
乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生したOLが、断罪回避のために立ち回った結果主要人物に溺愛される、という最近流行りの悪役令嬢転生没落回避溺愛もの。
悪役令嬢転生ものは広告で見た程度の知識しかありませんが、書いてみたくなったので書き始めました。
冒頭で出てきた登場人物については次話から順番に詳細説明を出していきます。
拙い所も沢山あると思いますが温かい目で見守って頂けると嬉しいです。
※小説に出てくる、用語・団体は既存・実在の物とは一切関わりのない作者の妄想によるフィクションです。