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サガ・黄昏の星  作者: 白夜
冒険者パーティー編
5/36

実地訓練

 

 キク科の青い花が揺れていた

 どこまでも続く平原に背の高い木はなく、背の低い草花が陽の光をたっぷり浴びて、我が世と言っているようにどこまでも広がっていた

 抵抗するようにまばらに生える木々の根元には、旅の動物たちが一休みしている

 遠くに見えるなだらかな丘の向こうには何があるのだろう

 空高く高く飛ぶトンビだけが、それを知っている



 ぴぃひょろろと鳴いた方角に向かって進軍した

 草むらからニョキリと飛び出ている赤い体躯の魔獣はドラコラルヴァ

 ヒトの背丈の2倍はありそうな大型の獣型魔獣で群れで生活している

 運が悪いと5、6頭のドラコラルヴァに踏みつぶされそうになるのだが、今は2頭しか見当たらない

 まだ幼体のドラコパピーが足元にいるのだろう

 アリを真中にして左右にジュールとブリョウ、アリの後ろにケントが続き、最後尾にダニールがついた

 前衛3人を盾のように配置した陣形はトライアンカー

 錨を下ろしたように動かないという意味だ

 アリたちに気づいた魔獣は吠えながら突進してきた


 重心を低くして衝撃に備えた

 突っ込んでくる魔獣の顎先はアックスのように分厚く、ランスのように長大に発達している

 一瞬の勝負だ

 受け流すタイミングを誤れば死ぬ

 大剣が魔獣の顎先を捉えた瞬間、打ち上げて威力を逸らした

 逸らされた方向へ魔獣の上体が浮き上がる

 威力は逸らしたが、衝撃は殺しきれずに後ろにたたらを踏んだ

 ケントの身体強化と自前の武具強化をつけても押し負けた

 やはりドラコラルヴァにこの陣形は向かない

 重装備の騎士でどうにかといったところだが、今のアリ達はコブ付きだ

 前衛を突破させるわけにはいかない

 戦い慣れのしていない学生の前にドラコラルヴァを出すわけにはいかなかった


 押し出されたアリの脇からジュールとブリョウが魔獣の首を切りつけた

 ブリョウは薪割りの要領で振り下ろすが皮は分厚く、表面を切るだけだった

 魔獣の発達した大顎がブリョウを襲う

 未だに槍の間合いで反応してしまい、避けきれずに攻撃が入ってしまった

 気を入れ直してウェポンブレスをかけていると、回復魔法が飛んで来た

 治りも悪いしタイミングも悪いが、新人ならこんなものかと、すぐに忘れた

 俺も今は斧術の新人だ、全力でいく


 一匹目を足止めしていると二匹目が突進してきた

 回復したアリが二匹目の前に出る

「サイコノイズ!」

「イド・ブレイク」

 赤黒いオーラを纏った魔の矢が、魔獣の乱れた心の隙間に楔を打った

 幻影か幻覚か、正常な判断ができなくなったドラコラルヴァは、アリの目の前で踏みとどまった

 二匹目はしばらく放っておいてもいいだろう

 ターゲットを一匹目に戻して攻撃に加わる

 大剣を魔獣の鼻面に振り下ろしてやると、簡単に挑発に乗ってきた

 アリに襲いかかった前脚の隙をついて、ジュールが筋を裂くように斬り流して走り抜けた

 魔獣の背後をとったジュールの気の高まりにつられるように、3人のマナがいっせいに昂った

 マナが共鳴し、魔獣を囲んだトライアングルの型が浮かび上がる

 型をなぞる軌道で斬りつけた刃は、バターを切るように易々と骨まで断ち切った

「アローレイン」

「石の雨!」

 大量の矢と石弾がトドメとばかりに降り注ぎ、周囲にいたドラコパピーもろとも殲滅していった

 二匹目のドラコラルヴァは生き残ったが、大量の石弾に打ち据えられて死に体だ

 アリとブリョウは後ろに下がり、前衛をジュールに任せた

 後衛の位置についたのはケントと学生達3人、デザートランスの陣形で最後の一匹にトドメを刺してもらう




 ジルがドラコパピーの死骸を啄んでいる

 冒険者パーティーの一員になってから、魔物肉の食事が多くなった

 死んだ直後の魔物の肉にはまだマナが残っていて、ただの動物がそれを食えばその魔物のマナを自分のものとして吸収出来るという

 そうやって砂漠の王になったというサーベルタイガーの唄を思い出した

 魔獣の処理をしながらジルが進化した姿を夢想しつつ、サビオはキャンプを張った仲間の様子をチラリとみた

 この程度の戦闘で休憩がいるような奴らではないが、学生達が参っている

 瀕死の魔獣のトドメなどあくびをしながらでも出来そうな事だが、イタチの最後っ屁じゃないが、ドラコラルヴァがブレスを放ったのだ

 断末魔のような炎のブレスは周辺の花畑を巻き込んで一帯を焼き尽くした

 すぐさまケントの精神回復が学生達を落ち着かせたので恐慌したのは一瞬だったが、その後もおっかなびっくりの及び腰だ

 陣形に参加した時は鼻息荒く自信に満ちていたのに、今はショボンと肩を落としている

 魔法使いがブレスを食らっても、前衛ほどのダメージは受けないだろうに

 彼らを使えるようにするのが裏契約だが、まだしばらくは回復要員のようだ

 手早く必要な素材だけを剥ぎ取って魔法箱に詰め、キャンプも片付けていく

 後の始末は周辺の動物達が請け負うことだろう

 獲物の奪い合いに巻き込まれ無いように、さっさと移動だ


 移動の合図に後輩たちが力なく応える

 大変だろうが早く慣れるしかない

 高位の魔道板を読み解くにはそれなりのマナ量が必要で、一撃で死ぬような小物を相手にしていてもマナの巡りは悪い

 必然、強力な魔物と戦闘した方が効率が良いという話になる

 ジルの先導で一行は進む

 カチカチカチ、と、どこからか音がして前衛が素早く陣をとった

 人の頭ほどのサイズの魔蟲が威嚇の音を出していて、女子学生が悲鳴をあげた

 昆虫が苦手な人は多い

 丸い甲羅にカギ爪状の6本の足が生えていて、その付け根にそれぞれついている計8個の目玉がギョロリとこっちを向いていて気持ちが悪い

 前に卵持ちの魔蟲マザーボーラーの卵をジュールが割って(普通はそうそう割れない)中から大量の幼体が……

「死ね矢」

 ダニールが死の神が宿るとされる必殺の矢を放った


 サビオに昆虫系以外を、とジルに頼んで索敵してもらう

 何事にも動じないブリョウはともかく、他のメンバーの精神状態が心配だ

 ダニールの殺気が狂化状態並みになるし、ジュールは身体中を昆虫の幼体が這い回ったトラウマを呼び起こされたのか白目になっている

 ケントやサビオも苦虫を食ってしまったような顔だ

 アリもあまり思い出したい記憶でもないので、ジルが花畑を逸れて丘を目指して飛んでいくのに足早についていった



 ワイバーンを吸収して進化したというウワサのある、飛べない翼を持った食虫植物型の魔物がいる

 風がある日などに高台で葉っぱの翼を広げていて、大空を飛ぶ夢でも見ているのだろうか



 魔草グラスゲーターの群れが丘の上に集まって南風を感じていた

 ケントが学生の1人を陣形の最後尾に付かせる

 ちょうど良い魔法を持っているらしく、木遁を練り始めた

 最後尾のグラスゲーターに忍び寄ったブリョウは、木こりのように低位置を振り抜き、根元の半分以上をえぐって切り倒した

 気持ちよく決まったスマッシュに頷いて、素早く陣形に戻る

 背後に迫っていたパーティーに気づいた魔草たちが、いっせいに種子の弾丸を飛ばしてきた

「ミサイルガード!」

 蓮の花のように花開いた魔法盾がパーティーを覆って種子の弾丸を吸収していった

 吸収した先から小さな蓮の花がぽこぽこと生まれては消えていく

 なんとも洒落た魔法だ

「元々はパレードなどの時の要人警護用の魔法なんです」

 学生が得意げにはにかんだ

 魔草の集団から飛び出てきた一体が、翼を大きく羽ばたかせて打ち付けるような強風を飛ばしてくる

 前衛3人が構えて受け止めると、回復がすぐに飛んできた

 シードの攻撃は完全に抑えているし、学生達の動きも良くなっている

 後は前衛が一体ずつ倒していくだけだ

 学生たちの自信もつくだろうしこれは良い相手だろう

 前に出てくる魔草の根をブリョウが次々と刈っていく

 食虫植物の大口に噛み付かれるのを物ともしない胆力と、刈っていくたびに深くなる斧の切れ目がブリョウの心体の高さを窺わせた

 ジュールは草の翼を多段に斬りつけて打ち付ける風の威力を抑えている

 強風の谷間を縫うように移動する姿が霞みがかって見え、また身のこなしが強化されたようだった

 ケントが後ろに下がり、もう1人学生が陣形に加わった

 火遁を練って炎の矢を撃つ

 瀕死のグラスゲーターが燃え上がり、塵となって消えていった


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