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サガ・黄昏の星  作者: 白夜
冒険者パーティー編
18/36

赤い村

 

 青い月ディアナの光が薄まり、太陽の気配が強くなっていった

 沈黙を好む闇夜の精霊が西の空に旅立ち、群青の空は東から世界の色を戻していった

 東の青龍が起こしたさざ波の音が川面をやさしく撫でていき、小鳥たちが朝の挨拶をあちらこちらではじめている


 夜のうちに消えていた暖炉の火をまた灯して部屋を暖めた

 リビングから続くデッキには桟橋が伸びていて、アイダラータの朝靄を連れてくる

 深く息をすると、水気の濃い朝の匂いが鼻から喉を通っていって、渇いた胎内を潤していった

 朝露に湿った桟橋を歩いていき、橋の先で座り込む人々に混じる

 村の呪い師がアイダラータの精霊に祈り、1日の吉凶を占う

 朝に男が祈り、昼に子供が祈り、夜に女が祈る

 いつもの呪い師の琵琶の音色に、今日はリラの音が続いた

 エルフの調べに、精霊たちのささやきがいつも以上に木霊する


「いつ来てもここは旨そうな村だよな」

「口に出すなよ。ジルが食われても知らねえぞ」

 言ってはいけない一言を口に出したサビオに、ケントは釘を刺しつつ心の中で同意した

 桟橋で瞑想を始めた赤い村人たちは皆、ハサミ状の拳を頭上に掲げて精霊に祈りをささげている

 頑丈そうな殻に覆われた胴体は、ダルマのように段になって尾の先まで続いていた

 何枚も重なり扇状に広がった尾ビレは鋭く、ピンと上を向いていて、間違っても彼らの後ろに立ってはいけない

 振り返った彼らの尾ビレが、もれなく向こう脛をなじっていくからだ

 見た目は魔物のようにも見える彼らは温厚な種族で、精霊との交感が深く、エルフと親交があった

 村の集会所を借りてキャンプを張った一行は、ロブスター族の村に一晩止まった

 商人は忙しなく動き回っていて、連れまわされているアリ共々、昨晩は帰ってこなかった


 男が集まるミサの桟橋とは別の橋に、女のロブスターが川から上がって来た

 頭に乗せた網かごには、藻や貝類が詰まっている

 朝の漁は女が、夜の漁は男が行うと聞いた

 その女たちの最後尾に、ジュールが川から一緒に上がって来た

 採れた戦利品を分け合う女たちに混じって楽しそうに笑っている

 赤みの薄いロブスターとハグをしたり頬をくっつけたりもしていた

 竜族の目からは人間とロブスターはどう見えているのだろうか

 どちらも異種族だが姿形はだいぶ違うだろう

 少なくとも人間のサビオは、たとえ雌でもロブスターにキスはしない

「あいつ昨日帰ってこなかったな」

「言うな」

「どこに行き着くんだ?あいつ」

「言うな」

 もはや嫉妬も無くなったサビオの目が、平坦な視線でジュールを見た


 ジュールが仕入れてきた貝を焚火の上の金網に並べて、調味料を取り出す

 酒と醤油にオリーブ油、胡椒と香味野菜を適当に砕いて盆にのせておく

 酒と醤油をケントがとって、オリーブ油とニンニクをジュールが確保した

 ジュールが自前で買った粉のチーズを魔法箱から取り出し、貝の口が開くのを待ち構えている

 昨日から干しておいた開いた魚を火にかけて、火元に転がしていた甘芋は今回の船旅で発掘した特産品だ

 アリたちにもいくつか回してもらった物だがダニールの食いつきが尋常でなく、初日に出した焼き芋がほぼ全てダニールの腹に収まった

 芋の焼き具合を確認して、桟橋に向かって声を掛けようとしたところで、すでにダニールが隣で芋を割っていた

 ダニールの笑顔は焼き芋にしか発揮されないらしい

 幸せそうな顔でパクついているが、高確率で喉を詰まらせる悪魔の実でもある


 カルダモンの種を入れたカップに湯を注ぎ、ダニールを救助していると、商人にやっと解放されたアリが戻ってきた

 タイミング良く口を開いた貝の身を何もつけずに口に放り込み、ローズマリーの葉をそのままかじる

 強烈なハーブの香りが鼻から抜けていき、覚醒したアリの意識がアイダラータを照らす朝日を認識した

「もう朝だったか」

「お疲れさん。今回はやけに長引いたな」

「防具の取引の話と、村長からの捜索依頼、あとはせむし爺さんのお別れ会だ」

 狸じじいどもが俺を挟んで取引するんじゃねえ、と畑違いの戦場へ駆り出されぶつくさ言っているアリに、サビオがハーブ湯を入れてやり、ケントとジュールは酒蒸しとアヒージョを譲った

 ダニールは片手で適当にリラをつま弾いている


「村長から人間達へ捜索依頼だ。村人が何人か行方不明らしい」

 水の精霊と近しい彼らは、川での捜索は済んでいて手がかりはなく、あとは人間の生活圏へ迷い出てしまったのではないかと考えているようだ

 その依頼をアリ達にするのか、アリ達の今の護衛主に頼むのか、依頼料はどうするのか、今の商取引に絡めたいせむし爺さんと絡ませたくない村長が、せむし爺さんのお別れ会にかこつけて開かれた呑みの席で、酒で相手を潰し合う言質取り合戦が勃発し、共倒れになるまで呑み潰れ、村長の家には今、酒で身を崩した老人達が沈んでいる

「心配だな、見た目が魔物に見えるから人間に見つかったら殺されちまう」

 そう言って行方不明の村人を心配したジュールに、サビオがお前ちゃんと分かってんのか、と目を丸くしている


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