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サガ・黄昏の星  作者: 白夜
冒険者パーティー編
11/36

魔の侵攻 前編

 頭部から伸びる飾り羽が、マナの流れを読んで大きくうねった

 怪鳥パラバニーの全長を大きく超える白く長い羽衣が、敵意を感じて鞭のようにしなって一行を襲った

 急場で組んだパーティーは全て重装備の盾持ちで、中には二刀流ならぬニ盾流になっているものもいる

 パラバニーの鞭羽の合間に啄んでくる二つ頭のツインバードを盾で叩き落としながら、横一列に並んだフリーファイトの陣形で敵を通さない

 魔鳥パラハンターズの耳障りな金切り声が気に障って、思わず魔鳥を追いかけて数歩踏み出すと、後方からの黒い影が鳥の頭を串刺しにした

 闇を纏った黒い矢が、二つ頭を貫いて怪音を遮る

 誘導された事に気付いて、また指定の位置まで戻った

 フルプレートで低ランクの魔物につつかれたところで大したことはないが、こうも休みなく続くと鎧の所々に小さい凹みが出来てくる

 男はへこんだ鎧に金行術アーマーブレスを掛ける

 パラバニーのマナが膨らみ、火炎の嵐を巻き起こした

 フルプレートで火のマナに焼かれるのはなかなかに厳しい

 すぐに腕にはめた獣石の腕輪に魔力をこめて回復術をかけた

 マナを流すだけで専用の術が使える魔道具を持っている事が、このパーティーへの参加条件だ

 右腕にも回復魔法が使える腕輪が装備してある

 後方に位置している魔法使いの支援は無い

 彼女たちは今、凄まじいマナのうねりの中、大魔法の行使中である

 魔法使いのパーティーを囲むように、他にも盾を持ったパーティーが四方に壁を作って女神たちを守護している


 右にローザ、その更に右後方にタチアナ、鏡合わせに左に壁男、その左後方にコーデリア、中心線の最奥にニーナが弓を構える玄武陣の陣形で、後衛3名は術の詠唱を続けている

 鳥の魔物は街一つ覆い尽くせる規模の大群だった

 十分に引きつけてからダメージを与えなければ撃ち漏らすと面倒な物量だ

 視認してすぐに詠唱を始めたコーデリアたちを囲み、徐々に包囲されるのに任せて中心の大将を引き出した

 数体いるパラバニーに四方から囲まれながらも、魔女たちのマナはうねり、研ぎ澄まされていく

 ローザは大剣の切っ先を地におろし、その時が来るのを静かに待っていた

 時折盾のパーティーが崩れかけ、ニーナが援護を射っているが、ローザは見ているだけだ


『ギャラクシィ! 』

 炙るようなマナが背中で弾けた

 天地に出現した輝く魔法陣が狭間の魔鳥を重力魔法で押しつぶし、中心で発生した巨大重力が、押しつぶした魔物を吐き出すように爆発した

 あふれた熱量がうねりとなって辺りを焼き尽くし、砕かれた地面が砂塵となって舞い、円板状に周囲に拡がった

 近くにいた魔物は塵となって消え、パラバニーの姿はもうどこにも見えない

 ローザが大剣を掲げる

 殺戮がはじまった




 今年の獣人戦は骨が折れそうだ

 地平線に並ぶ獣人の群れを見ながら、アリは無法者の指揮を取るのに躍起になった

 開戦の前日に入った一報で冒険者ギルドは混乱に陥った

 獣人達とは別の方面から別の魔物の大群が押し寄せているとの凶報だった

 Sランクのスカーレットと、アリ達Aランクの冒険者達に分かれての分断戦になった

 毎年ギリギリの人数で迎撃しているのに、さらに頭数が割れてしまった

 殲滅戦では右に出るものはいないスカーレットが離れれば、一人当たりのノルマは増える

 ケントはこの状況を利用して、遠距離広範囲攻撃の極意をコーデリアに聞き出したらしいが、今のパーティーでは無理だと結論を出した

 アリかジュールの魔力量がもう少し増えれば出来るかもしれないと言っていたが、とにかく魔力持ちが3人はいないと不可能らしかった

 急場で魔法使いを入れても、即席のメンバーで大魔法のコントロールは難しいらしい

 ない物を語っていてもしようがない

 出来ることをするまでだ

 今回はサビオにも手伝ってもらう事になった

 予想どうり文句を言ってきたが、火竜戦で使った闇の術具が未だに借りっぱなしになっている事を指摘するとサビオは黙った

 走り回る事になるだろうが、全員のフォローを頼んでいる

 状態異常の回復や、行動不能者のレスキューだ

 ジルが上空を旋回し、戦況を見守っている

 平原に点々とある集落は数カ所壊滅したらしい

 葬いがなければグールが発生するだろう

 ジルが平原から逸れた林の辺りで高く鳴いた

 シーフ系のレンジャーチームにジルを追跡させるよう指示を出す

 冒険者軍団の右側には、ギズモの騎士団が張り合うように隊列を組んでいる

 彼らは冒険者と組まないし指示もしない

 指示されても言うことを聞く奴らではないので問題はないが、戦況が悪くなれば冒険者を置いて退却するだろう

 捨て駒にされないよう戦況を見て的確に指示を出さなければ

 いつもの5人でやる事の拡大版だが、拡大範囲が大き過ぎやしないだろうか

 騎士団のフォローも考えながら、自らの闘志も高めていく

 近づいてくる獣人たちはすでにやる気は満々らしい

 地を揺さぶる鼓舞の吠え声がどんどんと大きくなっている




 子供の頃見た夜空を思い出す

 北極星からたくさんの光が尾を引いて、放射状に流れていく光景をわあわあと歓声をあげて見ていた

 闇夜から落ちてくる熱を纏った岩石が雨のように降り注ぎ、夜空を彩っていった


「石の雨! 」

「アローレイン」

 遠距離攻撃部隊が、近づいてきたゴブリンの群れめがけていっせいに攻撃を仕掛けた

 火と土、闇のマナの残滓が体内のマナを柔らかく混ぜていく

 すぐに前衛の3人に身体強化術を飛ばして、自身に魔法盾をかける

 物理担当が盾となりレベルの高い獣人を留め、遠距離担当が湧いてくるゴブリンを叩く

 どんなおつむでも解る簡単な作戦で、陣形はあってないようなものだった

 前衛の3人に術をかけた後は放置して、回復支援だけをしている

 自パーティー以外にも目についたケガ人を治しながら、指揮を取ろうと頑張るアリの補佐をする

 毎年参加している顔なじみの冒険者や、今年初参加のパーティーが緊張と興奮で沸き立っていた

 こんな僻地に毎年やって来る物好きはくせ者揃いだ

 Sランクの実力はあるのに、ソロで活動している為にAランク止まりの魔法使いは、すでに次の攻撃魔法の詠唱に入っていた

 地域によってはお尋ね者になっているBランクの黒装束集団は、本当にBランクなのか怪しいやつらだ

 どいつもこいつも自分の力をぶっ放す機会を探している危ない連中ばかりだ

 もっと周りを見て、攻撃を分散してほしい

 弱いところに流れていった獣人たちが、ランクの低い冒険者たちに群がって穴を開けている

 援護するための魔力を練っていると、黒いオーラを纏ったゴブリンの矢が飛んできた

 回避するか魔法盾に任せるか躊躇したところに、飛んできた果物ナイフが矢を弾いた

 この場で戦闘用のナイフを使わないものは一人しかいない

「ケント、回復、かいふくしてくれ、しぬ」

 ケントの足元に滑り込んできたサビオが息も絶え絶えに喘いだ

 怪我をしているわけでは無いようだが、だいぶスタミナが消耗しているようだった

「レストレーション」

 心身を落ち着ける回復術をかけてやるとぶちぶちと文句を吐き出し始める

「冒険者ってホント馬鹿じゃねえの、なんで死ぬまで戦うんだよ、引けよ、つうかもっと自分の状態考えて動けよ、薬草が足りねえ! 」

「まぁ、前衛は大体、頭足りねえよな。死人はどれくらい出てる? 」

「死なせてねえよ。ぶっ倒れた端から回収してる。けどオレみたいなのがガチムチ野郎の回収とかオレがぶっ倒れるわ! 」

 サビオと闇の術具はいい仕事をしているようだ

「ビルドアップ」

 サービスで身体強化術をかけてやると、サビオは嫌そうな顔をして去っていった




 ケントの合成術石の雨とダニールのアローレイン、他の冒険者の遠距離攻撃が獣人たちに降り注ぎ、ゴブリンの8割が死んでいった

 残った大型の獣人がブリョウの獲物だ

 遠くに盾を持ったミノトンが見える

 彼らの武器は自らの拳だ

 多くの人間が撲殺されている

 その中で一際大きなミノトンが、自らの身長くらいありそうな巨大な斧を携えていた

 舌舐めずりしそうな顔でブリョウは笑う

 目標が決まった

 肩慣らしに手前の獣人バルバロイを片付けるとしようか




 ジュールの進む先から、研いだ刀のような鋭利な殺気が放たれていた

 ひたりと向けられた刀の持ち主は、強者(ドラコ)の名を冠する獣人族ドラコニアンだ

 上半身は通常の獣人より華奢ではあるが、人間よりの体つきが獣にはない技術を持たせている

 腰から下の太い脚と厚みのある尾がドラゴンを思わせた

 威嚇も咆哮もなく物静かな佇まいだが、被っている網笠の下から覗く黒光りした鋭い眼光が、言葉以上にものを語っていた

 腰に吊るした鞘から解き放たれたのは片刃の大刀で、小物なら真っ二つになるような大きさだ

 獣剣士からのダンスの招待にジュールが応える

 ブリョウに撲殺されたシミターに変わり、新調したファルシオンが鞘からお披露目された

 ケントの強化術により敵との身体能力に差はない

 ダンスの輪は狭まっていった


 挨拶のように薙ぎ払われた刀の軌道を、ファルシオンがなぞる

 一段二段と重く鋭くなっていくステップに、楽しむようにドラコニアンの目が細まり、ジュールの口元が弧を描いた

 伸び上がるように刺突したファルシオンを、獣人は刀の先で逸らし、逸らした威力を巻き込むように刀を打ち込んだ

 盾で受け、体を無理矢理回転させ、剣撃を地に流す

 間髪いれず、ジュールのファルシオンが獣人の足元から弧を描く軌道で斬り上げようとした

 獣人は流された刀を鞘にしまい、腰を深く沈め、やや前屈した姿勢で手を軽く柄に触れて構えている

 屈んだところからの黒光りした達人の瞳に、ジュールの脳裏に頭のてっぺんから尻までを冷たい刀身が滑っていく感触が蘇った

「幻日! 」

 ジュールの胴体が横切りにされ、周囲にいた敵味方も上下に分かれる

 居合いの範囲ギリギリにいたブリョウの脇腹が裂かれ、ケントの回復が飛んでいた

 爛々とした目のブリョウがこちらを見ていたが、睨み返してけん制した

 これはオレの獲物だ

 術で離れた距離をまた縮めて斬りつける

 距離が開いたら死ぬ

 近付いても死ぬ

 もう一度術をかけられる程の魔力量はジュールには無い

 なかなか難しい難題にジュールの鱗がきらめいた




 ケントを狙った腕の良いドビーに、森のレンジャーが狙い撃ちとはこういうものだ、と見本の矢を撃ち込んで黙らせた

 ダニールは脳筋どもの祭典の邪魔をしないよう、後方から適当に支援をしている

 土行術の岩石弾でも使ったような剛速球をバルバロイが投げてくるので、ブリョウが奴等を片付けるまで近づくつもりは無かった

 バルバロイが持つカシの棍棒がブリョウを打ち据え、ブリョウが持つ鋼の杖がバルバロイを打ち据えた

 血みどろで殴り合う様子に、どちらが獣人か判断がつきかねて狙いを変える

 騒がしい新人冒険者の援護に、別のバルバロイの眉間をねらっていると、不意に何の前触れもなく弓の弦が切れた

 心によぎった一瞬の戸惑いを瞬時に流し、木行術でヒノキの弓を強化しようと精霊を呼び出したが、精霊の様子がおかしい

 小さな翅を震わせ、落ち着きなく飛び回るのはいつもの事だが、せわしなさの中に妖精の不安と怯えが伝わってきた

 喉に何か詰まったような、形容しがたいものが心に落ちていく




 ふと、日が陰っているのに気付く

 空を見上げると太陽が、月が欠けるように減じていた

 周囲のマナの減少に本能的な恐怖が襲う

 禍々しいマナが周囲に溢れ、空間がいびつに捻じ曲がり、平衡感覚が失われるような光景が広がった

 太陽の光が暗黒に覆われ、魔鳥の死骸を覆うように地表に魔法陣が出現した

 不穏な気配にローザが撤退を叫びかけたとき、盾の戦士が隣の男に斬りかかった

 歪んだオーラに次々と男達が覆われていき、味方のはずの目の前の人間に斬りかかる

 殺し合いに呼応するように魔法陣が輝いた

『死の王に捧げよ! 』

 血走った目の男達が、不穏な言葉を撒き散らしながら自らの首を掻き切り死んだ

 辺りは暗く、太陽の光は反転したように黒い

 肌を刺すような寒さが辺りを包み、鳥も人間も、死体は魔法陣に沈んでいった


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