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蜃気楼の半島の男たち  作者: ホワイトウォーターシックス
2/5

男たちの戦争2

「リラックスしてください、うちのボスも期待していますよ、今回の商談を、、」。


クーパーと簡易テーブルで、隔てられた、向かいの席に座る、座る男は口元を緩ませて、


そう伝えた。名はカルロスといって、クーパーが取引のために接触した、エルバルデの巨大犯罪カルテルのメンバーだった。


贅肉がつき気味の体格にラルフローレンのシャツにズボン、

スウォッチの高級腕時計を身にまとっている姿が、実用性を求めるクーパーと対照的であった。


身長は178センチのクーパーより少し、低めで、顔と目元が常にニヤニヤしていた。


「そちらの提供してくれる商品にはとても興味をそそられました。いかなるルートや人を使っても、入手は難度が高すぎますから、、」。


クーパーはこのカルテルメンバーの、涼やかな英語を無表情に聞き流し、視線を左半身にそっと傾けた。左手首の手錠と繋がった、


アタッシュケースがそこに

あり、これがカルロスの言う、

興味をそそられる、

商品で、ケースの中にはクーパーがレイバーグ社から盗み出した、機密データが、

収容されていた。


「支払い方法は、銀行への定期振り込みで、100万アメリカドル、取引の会合はカルチェ ボゴタという、地で行います。現地に飛行場があり、休息用の施設も完備しています」。


クーパーはさっと、視線を相手の目に合わせた。


「おたくのボスもそこに?」。カルロスはうなずいた。


「ええ、計画の最終チェックを、しているところでしょうね。カルロスはスウォッチをちらりと見た。

「セニョール コルテスはビジネス面では時間を重視しますから」。


そうニヤっと微笑んだ、このエルバルデ人に対し、

クーパーは依然、石のような無表情を装ったが、この男と接する内に抱いてきた、

あまりよくない感情、そう


嫌悪と軽蔑が内心でくすぶり、正直、気持ち悪かった。


やがて、双発機が田舎町の空から抜け、延々続くかのような、樹海地帯を見下ろせる空域に入ると、長時間のフライトで、


体内の血流が悪くなったような感覚に陥り、手始めに足の指のマッサージをやり、眉間をこすったりなどした。


(あと、どのぐらいで、到着だ?)飛び立って、どのぐらい経った?確か、、、


記憶の糸をたぐりよせかけていた矢先、目の前のカルロスが(失礼)と言って立ち上がり、後方の通路に体を向け、ゆっくり歩いて行った。


数分後にエルバルデ人は元の座席に着いて、「飲み物などでもどうです?」。


そう、クーパーに問いかけながら、手にしていた、果物ジュースのボトルと二人分のグラスをテーブルに置いた。


「遠慮するよ、悪いが、自前のがあるんでね」。


クーパーはきっぱり、そう告げたが、このカルロスのもてなし方に多少の寒気を覚えた。


ジュースに自白剤の類いが混じっているのかと、訝ったが、その考えが飛躍のしすぎか、


どうかは見極められなかった。

そのあと、カルロスはジュースのキャップを取り、液体をグラスに注いだあと、芝居がかった態度で、一口すすってから、


また、喋り出した。


「このジュースはエルバルデの名産品で、コロンビア産コーヒーにも、匹敵するぐらい美味なんですがね、、

2年前に国内の経済雑誌にも称賛されましたよ」。


クーパーは手錠付きの左手をいつの間にか握りしめていた。


彼の脳裏に、ある情報が浮かび、それが、倦怠感のある、今の気持ちを一層、害するものとなった。


エルバルデ国内の経済は対外債務や行き詰まった土地建設計画のせいで、ほとんど麻痺状態にあった。


新規事業として、天然資源開発、工場プラントの運営に数億ドルの金がつぎ込まれても、政府は目立った成果は上げられなかった。


あるゆる面でカルロスたちのような犯罪カルテルが利益を搾取し、コントロールしていたからだ。


軍隊時代、レイバーグに入ってからもそうだが、クーパーは南米の政情不安に根差した、理不尽な現場を仕事柄、よく見てきた。


公衆衛生が行き届かず、ゴミや汚水でまみれたスラム街、

そこに暮らす貧弱な市民を

抑圧する、地元のギャングや怠惰で、不浄な官僚機関の

有り様、


そんな祖国を見放して、国境越えにすべてを賭ける、おびただしい難民グループ。


例を上げれば、丸一日かかる。何よりも特別、クーパーが不満だったのは、まだ年若い

子供たちが、


アウシュビッツ顔負けの肉体労働を強要され、また、勉強道具より、はるかに重い、ライフルを手にゲリラ訓練をしているような実情だった。


アメリカの同世代の若者が、既に謳歌しているような、豊かさを取り上げられてしまっている、


そんな彼らの小さな目を思い浮かべると、この元SEAL兵は込み上げてくる、義憤を抑えられなかった。


そう、彼にもいるのだ。この

世界で彼が、唯一、守るために、自分の命を引き換えにしてもいい、存在である彼の子供が、その子は今は、、、


「確か、お嬢さんがいましたよね?」。


唐突に、カルロスがそんな、質問をして、その意味に気付いた時、クーパーは急に顔がこわばり、眼光が鋭くなった。


「何のことだ?」。エルバルデ人はグラスをテーブルに置き、会話をつないだ。


「いえ、ちょっと調べましてね、可愛らしいですな、子供は!、私にも3人いましてね、取引が成功すれば、あの子たちにもっと楽をしてあげられる。あなたも我々の提供する金で、、、」。


カルロスは身を乗り出した。「娘さんに、いいドレスを買って、できればパーティーで、男の子と、、」。


「クソッタレが!」。ジムは電光石火の如く、足でテーブルを前に、蹴飛ばした。カルロスは仰天して、身を引いたが、既に遅く、テーブルと共に跳ね飛んだ、果物ジュースが、


彼の高級服に派手にかかってしまった。急いで、顔にも、まみれている液体を手で払いのけようとしたが、それよりクーパーの右手が彼の喉首を掴むのが早かった。


座席に押さえつけられ、息が詰まるなか、次の脅しをエルバルデ人は聞いた。


「お前ら、能なしが、誰を食い物にしてようと、知ったことじゃない、だが警告しとくぞ、俺の娘の話を今度始めたら、死ぬまで入院生活しかできん体になる。そう思え、、!」。


カルロスの顔は赤黒く、紅潮し、大きく目が見開かれていた。その時、クーパーには、ほんの1分前、の言葉の断片がよみがえった。


(この男にも子供がいる、、俺と同じで、しかも3人、もし、こいつが死ねば、、、。)


そう思った直後、クーパーはカルロスを掴む手を離した。解放された、エルバルデ人は激しく、咳き込み、やがて、呼吸にリズムを取り戻して、落ち着こうと、つとめた。


その途端、急に彼の喉の奥から、せり上がってくるものがあり、また、咳き込み出すと、自分の股間にタイミングよく、嘔吐した。それの原点が何か分かって、クーパーは不気味にほくそ笑んだ。


「悪かっな、ジュースの楽しみをつぶして、、」


クーパーは嘔吐された物の、つん、とくる臭気に嫌気が出たのか、鼻を引き締め、アタッシュケースに視線を移した。

幸い、ケースに被害は無かった。


元SEAL隊員は場所を変えるつもりで、

背をカルロスに向けると、別の座席に向かって歩み出しかけた。


その矢先、後方で、痛め付けられた哀れなエルバルデ人

は態度を変えて、こう口汚く罵声を放った。


「この、代償はかなり、高いぞ、アメリカ人め!」カルロスの汚物まみれの姿を振り向きざまに、見定めて、ジム クーパーはこの状況が少し、


おかしく、思え、また、

ある思いも浮上していた。

「こんなやつが人の親とはね、、」双発ビジネス機はまだ、樹海の広がる、地帯の上空にあった。


森林の小高い丘の上で、マクラレンは膝をつき、ケーブルで、繋がれた、電話の受話器のようなものを手にして、交信を行っていた。


「こちら、ブラックフォックスワン、繰り返す、こちら、ブラックフォックスワン、現在地点はミシシッピ212、前方にキングダムが見える」。


そう、作戦用の暗号名を口にし、彼は双眼鏡をやや、右に向け、周辺の観察に入った。その横で、


カニンガムは箱形の通信機材に接続されている、ノートパソコンのキーボードを叩いていて、リズムよく、ガムを噛んでいた。


「了解、ブラックフォックスワン、補足情報を追加されたし。」。


マクラレンは無線装置から、機会的な男の音声が、ガーガーという、雑音混じりに、聞こえ、それに答えようとした。


「2階建ての建造物がある。方位は、、、」


マクラレンはコンパスをちらっと見て、会話相手に伝達した。彼のしゃべり方も機械のように、無駄のないものだった。


そして、人影の有無、天候のことも報告すると、通信相手は、次回の連絡は1時間後、そちらは現場待機と返答して、交信を打ちきった。


マクラレンは無線機を箱形装置のくぼみのあるところに、戻し、双眼鏡も目から下ろした。


横でパソコンを扱っていた。カニンガムは胸ポケットから、煙草ケースのような物を取りだし、相棒にすすめた。「ガムでも、どうだい?」。


ミッチェルは無表情にうなずき、ガムの銀紙を外して、口にほおばった。刺激性の強い味で、口の中が、その影響で引き締まるようだった。


「奇妙にあの、飛行場は静かだな、こういうパターンが困るんだよな、、、」。


黒人レイバーグ社員は、不満とも、怒りとも、言えない、感じの独り言を呟いたが、実際に、内面にある感情は、恐怖や緊迫感であった。


これは、訓練と実戦を繰り返せば、自然と和らぐが、完全には消えない。


特にこのような、静寂の状態の中で、いつ、どこで、誰が何をするかも、予測できず、ただ、監視活動をするのは、恐ろしく、退屈である。


現実の特殊戦争下で、積極的に暴力を用いることは、厳禁である。


地道で、効率よく、耐え続け、ただ、ひたすら、トラブルに備えるのである。


それも数時間、数週間であろうと例外なしに、、。


それがこの二人の今の戦争であり、かつ、己への挑戦なのだ。


そんな、想像が、あまり、意味が、無いように、思えたのか、カニンガムは軽く、唇を、キリっと結び、


新しい、ガムを手に取り、

噛み出した。


「建物の窓や周辺を中心に監視しよう、俺の勘ばたらきだと、あの中に、人がいるように、思える」。


マクラレンはそう言い、双眼鏡をまた、眼に押し当て、倍率調整をちょっと、やってから、建物に視点をもっていった。


この、自分達の地点から建物までの距離はマクラレンとコンピューターの計算力を配慮すると、ざっと915メートル、


彼の双眼鏡は軍用タイプだったので、信頼性は高かった。


目標は古風ではあるが、機能的で、モダンなデザインの邸宅であった。


アメリカでみられる、公共施設と一般住宅を交配させたようなもので、


この非文明的なジャングルの中で、唯一、現代的なものを思わせるものだった。


屋根のあたりに、皿型のアンテナが、あり、周囲にケーブルが数本、張り巡らしてあった。


建物一階の窓のところに、焦点を会わせると、カーテンがかかっていて、残念ながら、内部は見渡せなかった。


マクラレンはもう少し、粘ることにし、7分ぐらいは窓に神経を集中した。

やがて、人の手らしいものがカーテンを揺らし、開放した。


中肉中背の浅黒い肌をした、男が外を少し、見つめた後、くるりと、体を回し、建物内の部屋の奥に進んだ。


マクラレンは脳内をアドレナリンが、高速で噴出するような、感覚を味わった。


彼はカニンガムに双眼鏡を手渡し、自分の目にした、人間の話題に移った。


「我らが、ジャッカルの登場だ、どうやら、お疲れのようだな。目で分かったよ」。


その、暗号名を耳にして、カニンガムも、興奮気味なのか、表情が、険しくなり、語気が鋭くなった。


「ここいらで、例の手順を踏むとするか、、機材を準備しよう」。





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