#05 地下牢強襲
また、夢を見た。
大切な人が、自分のせいで、傷付けられてしまった夢。
自分が許せなくて、傷付けた人達も許せなくて。
憎くて憎くて仕方がなかった。
だから、私はそいつらを――
「うぅッ……!」
苦しさで目が覚める。
前回より酷い目覚めではない。
けれど、喉から嗚咽が漏れてしまいそうな、そんな不快感を感じた。
気分の悪さを押し込めて、ふと格子の窓を見てみれば、まだ外は暗かった。
――AM 1:45。
今は何時かと、時計を見ればまだ深夜。
お風呂にはいってベッドも暖かくなったのにうなされるなんて。
自分が思っている以上に疲れているんだろうか。
「眠れんのか。」
牢の外から声を掛けられた。
おじさまだ。
私が寝る前の時と変わらずに、紙に何かを書いている。
前の席にいるフリッドは、椅子に持たれていびきを掻いていた。
「なんだか、悪い夢ばかり見ちゃって。」
「そうか……。」
悪夢のせいで眠気も飛んでしまった。
眠りたいのに、今日はもう眠れそうにない。
――久しぶりに、使うしかないかな。
「おじさま、私の荷物取ってもらってもいいかな。」
「後、お水が欲しいの。」
「荷物と水か?……少し待っていろ。」
おじさまがペンを動かす手を止め、席を立つ。
テーブルの近くにある棚から、透明な瓶と木製のコップを持ち出した。
棚には瓶とコップ以外にも、色々な物が置かれている。
あの透明な瓶は、水差しかな。
「ほら、先に水だ。」
「ありがと。」
透明な瓶からコップに水が注がれ、格子の間からそれを受け取る。
少しだけ水を飲んで、まだ中身のあるコップを傍らに置いておく。
「荷物だ。それで、何をするんだ?」
普通にバッグも渡してくれた。
グリルさんが中身を取り出して渡してくれるのかと思ったから、丸ごとバッグを渡された事に少し驚いたけど、すぐにお礼を言ってバッグの中を漁る。
奥の方の内ポケットから小さな白いケースを取り出した。
荷物の検分の時には気付かなかったのか、出されなかった物だ。
「む?初めて見るな、それは何だ?」
「お薬。最近は全然使ってなかったんだけどね。」
「薬?一体何の薬だ……?」
おじさまの表情が少し強張る。
薬なんて聞いたら、そんな反応になるよね。
「睡眠薬って、わかるかな。」
「あぁ、わかるぞ。」
「そんなものを持ち歩いていたのか。」
「うん、以前全然眠れない時期があったんだ。」
「最近は大丈夫だったんだけど、今はちょっと眠れそうになくて。」
「そうか……何やら事情がありそうだな。」
「うん……色々とね。」
「本当は別の色々な薬も飲むように言われてたけど、面倒で飲むのやめちゃった。」
「やめた?飲まなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫、飲まなくても身体はすこぶる健康だから。」
そうか、と一息ついて、おじさまはそれ以上は問い掛ける事はなかった。
ケースから錠剤を取り出し、水と一緒に飲もうとした所で手を止める。
そういえば、聞きたい事があるのを思い出した。
「おじさま。」
「ん、何だ。」
「おじさまがベッドに毛布を敷いてくれたの?」
「……ああ、そうだ。」
「そっか、ありがとう。」
「おじさまって、何だか私に優しいよね。」
「そう、見えるか?」
うん、と私が返事をすると、グリルさんは何処か気まずそうにして話し始めた。
「あー……その、娘がいてな、父親の背中を見続けたあまりに、兵士の道に進んでしまった馬鹿娘だ。」
「……父親としては普通に暮らしてほしかったんだがな。」
「その上、実力が認められて、父親よりも高い地位についてしまった。」
「高い地位?」
「銀狼騎士隊という部隊だ……あそこは少し特殊な隊でな。」
「特別に実力が認められた者が所属出来る。」
「そんな部隊の副隊長に任命されたんだ。」
「シャリス……あー、娘がな。」
「そうなんだ……おじさまの階級は?」
「俺はルキア殿の隊に所属しているが階級のようなものはない。」
「ただ、今はフリッドとペアを組んで奴の教育を任されている。」
ルキアさんの……。
そういえば、ルキアさんの部隊ってどういう隊なんだろ。
結構重要そうだけど。
「ルキア殿の隊は城と王都の守りを任されている第一王都隊だ。」
「隊としては上のほうではあるんだが……銀狼騎士隊のほうが上の位置だ。」
えっ?じゃぁ、おじさまの娘さんって、あのルキアさんより偉いの!?
「ただ、さっきも言ったが特殊な隊だからな、実際には第一王都隊のほうが扱いが上になっている。」
あ、そうなんだ。
でも、父親はただの兵士で、娘は副隊長だし、隊が上下しても変わらないか……。
「で、まぁ……なんだ、オマエの年頃が……娘と同じくらいに、思えてな。」
「つい娘と重ねてしまっていた、すまんな。」
娘って言い出してから、そうじゃないかなとは思ってたけど。
そっか、妙に優しい時があったのはそういう理由なんだ。
「……お父さん?」
「……やめてくれ、反応がしづらい。」
「あはは、ごめんね、おじさま。」
「その、おじさまというのも、どうにかならんか。」
「――グリルだ。」
苦笑気味に、改めて名前を言った。
「ん!分かった、グリルさん。」
「……このくらいでいいだろう?もう寝ておけ、――アトリ。」
「うん!おやすみなさい。」
そう言って、取り出した睡眠薬を口に含み、コップの水で流し込む。
私の荷物と空になったコップもグリルさんに手渡し、ベッドへ腰掛ける。
すると、段々と頭がぼーっとし始めた。
ああ……これでなんとか、また、ねむれる――。
……
……………
………………………
――知らない少女の夢を見る。
何処かの村が、炎に包まれていた。
人は逃げ惑い、家は焼け、生き物の焼け焦げる匂いがしている。
炎に包まれた村の中心に、一人の少女がいた。
辺りが炎に飲まれる中、少女はただ一人、焼ける事なく立ち尽くす。
涙を流しながら、悲痛に叫ぶ。
――なぜ、自分達をあんな目に合わせるのか。
ただ、静かに生きていられれば、それでよかったのに。
少女が叫び、拳を振ると、赤い炎が地面を走る。
そう、今の惨状を作り出したのは、この少女だった。
ただの誰一人としても、生きて逃げる事は許さない。
業火に焼かれて灰になればいいと、少女は拳を振るい続ける。
いつしか、焼け落ちる村の中、少女以外に動く者はいなくなった。
燃え盛る炎を消し止めんとするかのように雨が降りだす。
それでも、炎の勢いは強まる一方だった。
空を見上げ、少女は泣き叫び続ける。
泣き叫ぶ少女の額には、――角が生えていた。
――もう、自分には何も残ってはいない。
悲しむ少女の姿を見て、その手を取りたかった。
――全部、炎で飲み込んでしまった。
私じゃなくてもいい、誰か、あの子を助けて。
――最後に残るは、自分だけ。
でないと、あの子は。
――もう、誰もいない。
独りのままだ――。
……………………………
………………
……
――ろ!
――きろ!
う……?
誰かに、呼ばれている。
でも、頭痛がして、意識もぼーっとしていて、起きるに起きれない。
ぐにゃぐにゃになっている意識をなんとか手繰り寄せていく。
身体が重い、けど目蓋はなんとか開けられそうだ。
ゆっくりと目蓋を開けると、意識も少しつづハッキリしていく。
「起きてくれ!アトリ!」
ぼんやりとした意識で声の主を思い出す。
フリッドの声だ。
何処か焦燥した声、返事をしたいけど、身体はまだ重い。
なんで、こんなに身体が重いんだろ。
――ああ、そうだ、睡眠薬を飲んだからだ。
アレを服用した後の目覚めはいつもこうなる。
……やっと身体が言う事を聞き始めた。
まだ辛い身体を、なんとか起き上がらせる。
「やっと起きたか!」
「ふ、りっど……?どう、したの……?」
力を振り絞って声を出す。
まだ口も上手く回らない。
「なんか辛そうだな……!けど、悪いッ、急いでるんだ!」
「まずい事になったッ!」
一体何が起きたのか。
かなり焦燥している。
「まず……いこと……って、なにが――」
そう返事をした所で、遠くから何かがぶつかるような、轟音が聴こえた。
大分意識もはっきりしてきたので、外の音に耳を傾ける。
沢山の人が声を張り上げ、走り回る音がする。
何か……嫌な事が起きている。
「――エストアラが攻め込んできやがったんだ……!」
攻めてきた?
昨日の話しじゃ、まだかかるはずじゃなかったの?
「もう、ここまで……?」
「ああ!そうだ!」
「くそっ、まだ都民の避難も全部終わってねぇのに!」
「オレは街に残ってる奴らを避難させなきゃならねえ!」
「グリルも、もう向かった!」
「だから、アトリ!オレが戻ってくるまで、ここで待っててくれ!」
まだ避難が終わってないんだ。
……出来ればここを出してから行って欲しいけど、そういうわけにもいかないよね。
「……わかった、待ってる。」
「すまねぇ!約束する、絶対に戻って来るから!」
「うん、気を付けてね。フリッド。」
「ああ!」
「そうだ、コレ渡しとくぞ!」
「いつでも出れるように準備しといてくれ!」
そういって差し出したのは、私の荷物だ。
バッグとサイドポーチ。
「ん、出れるようにしとくね、荷物ありがと。」
「じゃぁ、行ってくる!また後でな!」
フリッドが去っていくのを牢の中から見送る。
――とうとう、戦争がここまで来てしまったらしい。
どうか、無事に戻って来て。
――PM16:20。
外の轟音は、まだ時々聞こえてくる。
……情報が欲しい。
この地下牢の窓は、恐らく地面スレスレの所にある。
ちゃんと耳を済ませば、外の近くにいる人の声も聴こえるはず。
今度は先ほどよりも外の音を注意深く聴いてみる。
声が聴こえてくる、城壁からは離れているこの辺りでも、兵士達が忙しなく動いているみたいだ。
――民の避難を急げ!
――クソッ!もう外壁に張り付かれてるらしい!
――援軍は来ないのかッ!?
――そんなの来るわけがないだろうッ!?
――負傷者の搬送をッ!
――なんだあれは!?……ああッ!ヤバいぞッ!
その声と共に、今までで一際大きな轟音と地響きがした。
聴こえてくる声から察するに――どうやら、城壁を巨大なゴーレムが破壊したらしい。
――そんなモノまであるんだ。
城壁が破壊されたって事は、敵がもう王都内に雪崩れ込んでくる。
……荷物の準備をしよう。
バッグの中に乱雑に詰め込まれた私物を整理し始める。
サイドポーチのカラビナをスカートのベルトに取り付け、スマホやMP3プレーヤーをポーチに移す。
手に取りやすい物はこっちだ。
そうして整理をしていると、バッグの中で硬い金属のようなモノの感触が手に当たった。
「……?」
コレって……鍵束?
見た事がある。
この鍵……この牢屋の鍵だ。
どうして、バッグの中に……まさか、フリッドが入れた?
でも、フリッドは戻るまで待っててくれって言ってた。
牢から出すつもりなら、こんな回りくどいやり方をするだろうか。
かといって、グリルさんでもないと思う。
責任感の強そうな人だし、こんなこそこそとした事はしない気がする。
セシリアさんもアイナさんも違うはず。
なら……一体誰が……?
……心当たりはある。
けど、今更私の手助けをするの?
――ねぇ、シロウサギ。
――PM18:45。
フリッドが避難誘導に向かってから、既に二時間近くが経過している。
彼らは大丈夫だろうか、無事に避難誘導を終えただろうか。
つい三十分程前に、城内への撤退号令が聴こえてから、外は大分静かになっている。
階段の先から声や走り回る音が聴こえてはいるから、全滅したわけではないはず。
フリッド……グリルさん……。
牢の鍵は、もしもの時のために開けておいてある。
けど、もういっそ牢から出て確認しにいこうか。
と、そう思い始めた時、階段を下りてくる人の気配がした。
「フリッド!グリルさん!」
あの二人だ。
良かった、二人共無事に戻ってきてくれた!
「よ、よぉ……ちゃんと約束通り来たぜ。」
そう言ったフリッドは左肩を押さえている。
押さえた左肩からは血が流れていた。
「ちょっとフリッド!?血が出てるよ!?」
「いやあ、ちょいとドジっちまった。」
ははは、とフリッドは笑うけど、その表情は辛そうだった。
「傷が深くなる、あまり喋るな。フリッド。」
左肩から血が出てはいるけど、見た目はそう酷いわけではない。
血の出てる箇所の状態からして、細長いモノが突き刺さっていたらしい。
大分疲弊しているのか、グリルさんに肩を担がれて牢の前の壁に座り込んだ。
「フリッドッ!」
そんな様子のフリッドを見て、つい慌てて牢屋から出てしまった。
「おぉ?アトリ、どうやって牢の扉を開けたんだ?。」
「鍵は開けてないはずなんだが。」
「何?フリッド、オマエが開けておいたんじゃないのか?」
「えっと……私のバッグの中に鍵が入ってたんだよ。」
そういって、鍵束をグリルさんに渡す。
一体いつの間に、と驚いた表情で呟いていた。
けど、グリルさんはその疑問を追いやり、素早く頭を切り替えたのか、テーブル近くの棚を指差す。
「水差しの右側にある箱を取ってくれ」
「コレだね?」
少し重い、それに何か薬みたいな匂いがする?
「囚人用の医療箱だ。」
「そうそう使う事はなかったんだがな、常備しておいて正解だった。」
木箱から包帯や何かの葉っぱなどが取り出されていく。
そして、フリッドの応急処置を始めた。
「手伝う?」
「頼む、その葉をすりおろしてくれ。」
「わかった。」
この葉っぱって、もしかしなくてもゲームとかによくあるような薬草?
薬草って、実際はこんな使い方をするんだろーか。
とか考えながら、木箱に入ってた小さいすり鉢とすりこぎで何枚かの葉をすりおろす。
「すりおろしたら、水を少し入れるんだ。」
「これを使え。」
グリルさんはフリッドの傷口を水差しの水で流しながら、こちらを見ずに指示していく。
その傍を見ればコップがおいてあり、中には水が入っていた。
このコップの水かな。
「全部は、いれるなよ。」
指示通り、少しだけ水を注ぐと、濃い緑色のすりおろされた葉が明るく柔らかい緑色に変化した。
なにこれすごい。
「色が変わったか?」
「うん、綺麗な緑色になったよ。」
「よし、こっちに渡してくれ。」
「染みるぞ、フリッド。」
明るい緑色になった葉を、傷口に塗り付けられると、フリッドは痛そうに呻いた。
塗り終わるとすぐに包帯を巻いていく。
応急処置の手際がいい、兵士だからなのかな。
「終わったぞ、どうだ。」
「ああ……大分、楽になったっす。助かります……。」
「……オマエはそのすぐに無茶をする癖、直しておけ。」
これでフリッドの治療が終わった。
――今の状況を聞いておこう。
「グリルさん、今はどんな状況?」
「今か。民の避難が終わり、残った兵士達が城内へ退避し、城門も先ほど閉じられた。」
「城の周囲には深い水路が作られていて、城門へ行くには橋を渡らないといけないんだが、恐らくその橋は時間稼ぎのために、もう落としただろう。」
それってつまり、籠城してるって事?
あれ、それ絶望的なんじゃ……?
「奴らが雪崩れ込んでくる前に逃げださなけりゃならん。」
逃げ出すって、一体どうやって脱出するつもりなのか。
疑問に思う表情が通じたのか、グリルさんが話し始めてくれた。
「この国の地下には迷宮のような地下通路が、蜘蛛の巣のように広がっている。」
「地下洞窟迷宮とも言われていて、そこに繋がる隠し通路が、国の中にいくつも存在している。」
「外へ繋がる道も数えきれないほどある。」
「そして、俺達兵士はそれぞれ所属部隊毎に別々の道を教えられていてな。」
なるほど、その地下迷宮を使って城内から外へ逃げればいいんだ。
複数の部隊にそれぞれ別の道を教える事で、出口での襲撃も分散出来る。
たくさんあるらしいし、使われてない出入口もありそうだ。
……うん、出口で出待ちとかされてない事を祈ろう。
「なら、早くその隠し通路に――」
行こうと言いかけた所で、階段を下りてくる人の気配がした。
誰かが来る……?
まさか、もう敵が?
そう思ったけど、現れたのは予想外の人物だった。
「アトリ様っ!」
「ほあっ?セシリアさん!?」
セシリアさんだ。
普段のドレスではなく、軽装の鎧を身に付けている。
その鎧姿は、まさに姫騎士といった貫禄があった。
「姫様!?何故こちらに!」
「済まないグリル、姫様を止めきれなかった……。」
困惑するグリルさんに申し訳なさそうにルキアさんが答えた。
アイナさんまでいる。
というか、こんなマズい状況でどうしてセシリアさんが。
「どうしてここに来たのっ!」
「さすがに今は危なすぎるよっ」
「ご、ごめんなさい……!けれど、どうしてもアトリ様が心配になって……。」
まさか、セシリアさんが来るとは思わなくて、つい怒ってしまった。
でも、私が心配って、貴女はこの国のお姫様でしょうに。
「来てくれたのは嬉しいけど、こんな時に来たら駄目だよ?」
「みんながセシリアさんの事、心配しちゃうんだから。」
「うう、ごめんなさい……」
「申し訳ありません、私もお止めしたのですが。姫様がとても必死にアトリ様の所へ行こうとしていて、結局止められず……。」
アイナさんもルキアさんも、無理矢理にでも引き止めないと。
二人共、セシリアさんにちょっと甘いよ。
「まあ、来てしまったモノは仕方がないだろう。」
「ルキア殿、自分もアトリを連れて、姫様を護衛致します。」
「あぁ、頼む……。姫様を連れて、隠し通路の場所へ向かってくれ。」
「なら、早く行きましょうぜ……。」
「なっ!ちょっとフリッド!アナタその傷はっ!?」
辛そうに立ち上がったフリッドを見て、アイナさんが驚いた。
「フリッド?負傷していたのかッ?」
「アイナっ、彼に治癒魔法をかけてください!」
「はい!姫様!」
すぐにアイナさんが指示され、フリッドを座らせると傷口に手の平をかざす。
すると、ぼんやりとした光が傷口を覆い始めた。
――あれが、治癒魔法?
そういえば、魔法を見るのはこの世界に来て初めてだ。
「アイナ、急いでくれっ。」
「城内が騒がしくなったッ、城門が破られたのかもしれないッ。」
「はい…っ…!!」
マズい、ルキアさんの言う通り城門が破られたみたいだ。
金属がぶつかり合う音や争う声が階段の先から聞こえてくる。
橋を壊したり、城門を閉じたりして時間稼ぎをしてるのに、エストアラの動きが迅速すぎる。
「ルキアさん、攻め込んできてるのって、エストアラなんだよねっ?」
「ここまで動きが早いモノなの!?」
「私達も驚いている!まさか、ここまでとは……何処か異常なくらいだ……。」
「攻め込んできてんのは、大半が傭兵共だ……あいつら、傭兵にしちゃ強すぎる……。」
傭兵?だとしたら、この強さは尚更おかしい。
例え手練れの傭兵軍団だとしても、国を一つ攻め落とすのにこの早さは異常だ。
……それに、なんだろう。
何か嫌なモノが近くにいる気がする。
一つや二つじゃない、無数にいる。
目が覚めてからも、うっすらと感じてはいた。
その時は気のせいかとも思ったけど、違う。
今はハッキリと、あってはならないモノが感じ取れる。
――■■■……?
いや、違う。
少し似てるけど、あの人じゃない。
なら、この嫌な感じは一体――
「治癒、終わりました!」
傷の治療が終わってアイナさんがルキアさんに声を掛けた。
「よし、フリッド、もう動けるな?」
「はい、すみません、ルキア隊長。足を引っ張っちまって。」
「まだ無理な動きはしたらダメだからね。」
「傷の治りを促進させて塞いだだけなんだから。」
「分かってる、ありがとよ、アイナ。」
治癒魔法をかけたからか、大分フリッドの顔色がよくなっている。
けど、完全に治せるわけではないんだ。
魔法も万能ではなさそう。
「では、私とグリルが前を行く、フリッドは後ろを――」
ゾクリと、背筋を嫌な感じが走る。
何かが、近くに来た……!
「待ってッ!何か嫌なモノが来る!階段の方!」
「なにッ……!?」
私の声でその場にいる全員が階段へ振り向く。
階段から誰かが降りてくる足音が聴こえる。
足音は……二人分?
嫌な感じもどんどん近付いてくる。
これは……この感じは……人、なの?
私と同じで嫌な空気を感じ取ったのか、ルキアさんとグリルさんが腰の剣を抜き、私達を守るように構える。
そして、階段を降りる人影が見え始めた。
あれは、レスティリアの兵士じゃない……!
「おおー?こいつぁ驚きだ!」
「話し声がすると思ってきてみりゃ、大物がいるじゃねぇか!」
「見ろよ?聞いてた通りのお姫様がいるぜ!」
「ヒハハッ!こりゃツイてるナァ!」
「そっちにいるのは第一王都隊の隊長さんじゃぁネェですかーい?」
現れたのは傭兵風のどう見てもガラが悪い男が二人。
一人は大柄で、鍛えられた身体をしている。
多分シュウ君よりデカいかもしれない。
もう一人は何処かチンピラのような雰囲気の男。
大柄な男よりかは身長は低い。
けど、こちらも力強そうな身体だ。
そして、さっきからする嫌な感じは、この二人からしている……!
こいつら、何か、普通じゃない!
「エストアラの傭兵ッ……!」
「もうここまで……!貴様ら、外の兵士達はどうしたッ!」
ルキアさんが殺気立ち、グリルさんが傭兵達に問い詰めると、傭兵達が何の気もなく答えた。
「外?ああ、他の奴らが相手してるぜ?」
「俺達は兵士共の隙を縫ってここまできたのさ。」
「俺らは戦場の中を潜り抜けるのが得意でサァ!」
「マァ、抜ける途中ついでに何人かは殺っちまったケド!」
そう言って、チンピラ風の男が、手にしている少し短めの剣を見せびらかすようにしてきた。
その剣には、まだ新しい血がこびりついている。
「貴様らァッ……!」
「おのれ、傭兵共めぇッ!!」
その剣を見たルキアさんとグリルさんが同時に飛び出す。
二人共、それぞれ別の敵に斬りかかった。
お互いをカバー出来る距離を保ちながら戦っている。
激情に駆られて行ったかのように見えたけど、二人は冷静だ。
けど、傭兵の二人も強い。
連携しているような様子はないけど、二人共ルキアさん達の剣を上手くさばいている。
斬りかかり、受け止め、受け流し、下がって、詰めて、斬りかかる。
そんな攻防が続いていく。
「くそっ、悔しいが、あいつら強いぞ……!」
「隊長とグリルの剣をさばいてやがる……!」
確かにあの傭兵二人は強い。
でも、ルキアさん達の方が一歩上だ。
ルキアさんは隊長らしいし、強いのも納得だけど。
グリルさんだって、階級がないなんて言ってたけど、それが信じられないくらい剣の腕がいいように思える。
あの二人なら、このまま行けば押し切れる!
傭兵達も敵わないと思ったのか、二人から大きく距離を取った。
「っとぉ、さすがは隊長さんだ。」
「このままじゃぁ、ちと分がわりぃなぁ?」
「ヘッ、こっちのおっさんもそれなりだゼェ?」
「やっぱ、ヤッちまうカァ?」
「だな!まぁ今日二本目になっちまうが、大丈夫だろ!」
そう言った傭兵二人が、懐から何かを取り出す。
「あれは……小瓶か?奴ら何を――」
「――なんだ、あの小瓶の中身は……?」
小瓶が目に入った瞬間、背筋がぞわりとした。
あの小瓶の中身、傭兵達の嫌な感じと同じだ。
いや、むしろもっと酷い、嫌な気配を凝縮したような……。
中にあるのは……黒い、液体?
アレがなんなのかはわからない、けれど全身が訴えかけてくる。
――ダメだ、アレは、あっちゃいけないモノだ……!
ルキアさん達は、アレが危険なモノだって気付いてない!
傭兵二人が小瓶の蓋を開けた――!
「ダメッ!!アレを使わせないでッッ!!」
私が叫んだ声を聞いて、傭兵の様子をうかがっていたルキアさん達が、弾かれたように飛び掛かる。
――けど、遅かった。
傭兵二人は、小瓶の中身を飲み干してしまった。
飛び掛かった二人はまだ止まっていない。
傭兵に向けて、そのままの勢いで剣を振り下ろす。
――二人が振り下ろした剣を、大柄な男が片手に握る剣だけで、二人の剣を弾き返した。
「くっ……!」
「ぐうっ……!」
剣を弾かれた二人が咄嗟に後ろへ飛び退く。
二人がいた場所をもう一人の男の剣が空を斬った。
「チッ……外したカァ……。」
「おいおい、なにしてんだ。」
「わりぃわりぃ、飲んだばっかで身体がおっつかなくてヨォ。」
傭兵二人の様子が変わっていた。
どちらも身体が一回り大きくなり、腕が少し歪に膨れている。
あの二人の嫌な感じも倍に膨れ上がってる……!
「なんだ……!こいつらは!」
「明らかに先ほどまでとは動きが違うぞ…!」
「まさか、さっきの小瓶は強壮薬だったのか!?」
「そんな……彼らの身体が……!」
ルキアさんとグリルさんが傭兵達の様子を見て驚く。
セシリアさんも彼らの様子を見て息を飲んだ。
「強壮薬?まぁ、似たようなモンさ。」
「アレを使うと身体能力が強化されてな?」
「ついでに何もかも壊したくなっちまう気分になるぶっ飛んだ代物サァ!」
「身体がしばらくオカシクなっちまうのはいただけネェけどナ!」
「身体強化に気分高揚……禁忌指定薬の類いか……!」
――違う、アレはそんなモノじゃない。
もっと恐ろしい、別の何かだ。
薬なんかじゃない、生きた何かだ!
みんなにはわからないの!?
「ルキア殿、アレはただの強壮薬とは思えません!」
「あの薬の詳しい効能がわからぬ今は、自分が奴らの相手をしますッ!」
「グリルッ!?待てッ!!」
「グリルさんッ行っちゃダメぇッ!!」
「おい!?グリルッ!!」
私達の制止を聞かずに、グリルさんが一人で飛び出していく。
――ダメだ、いっちゃダメだ!
止めないと!グリルさんッ!!
……身体が……動かないッ……!
あの二人の嫌な感じが、明確な恐怖になって……!
うごけ!うごいてよッ!!
誰か!グリルさんを止めてッ!
「なんッ……身体がッ、動か、ない!?」
「ク、ッソ……グリ、ルッ!」
ルキアさんも、フリッドも、アイナさんも。
セシリアさんですら身動きが取れずにいる。
どうしてッ……?
そうこうしてるうちに、もうグリルさんは剣の間合いに入っていて。
大柄な男に向け、剣を振り下ろす。
薬を飲む前はほとんど反撃も出来なかった男が、その剣を軽く避けた。
そして、グリルさんに向けて、剣を、振って……。
くび……が……。
おち……おち……て……。
あ……ああッ……!!
ああぁぁぁぁぁぁッッ!!!
「――■■■■■■。」
――のいずが、はしったような、きが、した。
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能./l@細
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人&!o.--
*前:< 神#&) >
+}齢:< 2- >
{@族:< 人"! >
装=|:< バ&% サ#ド('チ >
P`力:< <?明 >
魔~\量:< 微/:,量 >
――エ■ーが■生して■ます――
――人■の生■を一■停止■ま■――
――■力の■成を■始――
――魔■回路■構■■開■――
――■築■完■■まし■――




