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#04 異世界でお風呂を堪能する。

 牢から出る事が許され、セシリアさんのお願いで一緒にお風呂へ行く事となった。

 現在はお風呂場へ向けて絶賛進行中。

 先頭を歩いているのはセシリアさんとアイナさん。

 私の両脇にはフリッドとルキアさんが付いている。

 地下牢を出た後は、相変わらず広い廊下を歩き、大広間から階段を上る。

 途中、以前と同じように慌ただしく走る、兵士やメイドを見かけた。

 やっぱり凄いお城だ、まるでハートのクイーンの城みたい。

 ……そういえば、あのシロウサギは何処に行ったのだろ?

 あれ以来姿を見ていない。


 異世界転生とか転移物で異世界に飛ばした人物がいるなら、理由とか目的を話してくれたりするモノだけど。

 あのウサギは終始一言も口を――

 あれ……?喋ってなかったはず……何でだろ、何かを喋っていた気がする。

 なん、だっけ……?

 ううん、気のせい、なのかな。


「どうした、何を悩んでいる?」


「えっ?えとー……。」


 余程悩んでいる顔になっていたのか、ルキアさんが怪訝そうに聞いてきた。


「どうして、私はこの世界に飛ばされたのかなって思って。」


「……確か、扉を通って来た、と言っていたな。」


「うん、そう、扉。」


 それを聞き、ルキアさんは少し考え込んでから答えた。


「――セシリア様から、異世界英雄伝説の話は聞いているな?」

「過去、数千年前にこの世界に現れたという異世界漂流者も、扉を使ってこの世界に来たと聞いている。」


 あの英雄の?

 なら、伝説の英雄もシロウサギに連れてこられたのかな。


「オマエのいた世界には、別の世界に渡る扉があるのか?」


「ううん、そんな扉があるなんて、聞いたこともないよ。」


 神隠しとか、そういった話ならゴロゴロある。

 異世界転移の創作だって腐るほどある。

 けど、実際に異世界に渡る扉があるなんて、聞いたこともない。


「そうか、オマエの反応でそうである気はしていたが、やはり自発的にこちらへ来たわけではない、か。」


「多分、連れてこられたんだと思う。」


「連れてこられた?一体誰に?」


 ルキアさんは、私の言った事に驚いた顔をする。


「変な事を言っちゃうけど……シロウサギに、だよ。」


「シロウサギ……?そのウサギとやらは今何処に?」


 シロウサギの行方については私も知りたいくらい。

 元の世界に戻る方法を知ってる人?とすれば、今の所あのウサギくらいだし。


「わからない、扉にはいってからは見てないんだ。」


「――そうか、全く……疑問が尽きる事がないな、オマエは。」


 自分の事ながら、私もそう思う。

 そうして話していると、アイナさん達が立ち止まった。


「こちらの部屋が湯浴み場となっております。」


 気が付けば、ルキアさんと話してる間にお風呂場についたみたいだ。

 扉が二つあり、その上にはそれぞれ短く文字が書かれている。

 想像が間違っていなければ、男湯と女湯って書かれてるのかな?


「着いたか。フリッド、部屋の前で警備を。」


「了解しました。」

「んじゃ、ゆっくりしてこいよ、アトリ。」


 うん、堪能してくるね、とフリッドに返事をする。

 そして、セシリアさんが私の腕を取り、引っ張り始めた。


「さぁ、ご一緒しましょう!アトリ様!」


「わわっ。」


 扉を開けて入ると、短い通路があり終わりにはカーテンが掛かっている。

 カーテンを抜けると少し広めの脱衣場のような場所に出た。

 脱衣場には、籠の置いてある棚がいくつかあり、籠の中には真っ白なバスタオルが置いてある。

 脱いだ服を置いておく場所かな。

 小さな個室に繋がっていそうな扉もある、あれは、トイレ?

 なんだか、温泉の脱衣場というか大衆浴場的な雰囲気がある。

 かなり豪華で手入れが行き届いている所を除けば、だけど。


 どの籠の中にもバスタオル以外は何もない所を見ると、他に人はいないみたいだ。

 時間帯で入る人を分けているのかもしれない。

 そうして籠を見ていると、アイナさんに声を掛けられる。


「脱いだ服は籠の中へお願い致しますね。」


「はーい。」


 やっぱり、籠は服置きになってるんだ。

 難しい構造の服でもないので、サクサクと脱いで籠の中へ。

 そこへアイナさんが興味深そうに、籠に置かれた私の服を見た。


「やはり、アトリ様のお召し物はとても上物でございますね。」

「このような意匠も見た事がありません。」


「へ?そなの?」


「ふむ、確かに、かなりしっかりと作られているな。」

「オマエは異世界の中では高位の地位にいるのか?」


「高位って、全然そんな事ないよー?その服、しま○らで買った奴だし。」


「しま……?なんだそれは?」


「異世界の衣服店。このくらいの服ならどこでも手に入るんじゃないかなぁ。」


 玲華ちゃんが、もっとお洒落に興味を持ちなさいって言って、私を引っ張り出してった時に買ったんだよね。

 お金があるわけじゃなかったから、セール品を見繕ってだけど。


「これ程の品を皆が持っていらっしゃるなんて、異世界は奥が深いですね……。」

「それにアトリ様の服は、可愛らしさと凛々しさが一緒になっているかのようで、少し羨ましいです。」


 そう言ってちょっと羨ましそうに私の服を見るセシリアさん。

 お姫様も女の子だもんね、お洒落は大切。

 でも、お姫様のドレスとか、私としてはそっちのほうが羨ましい。


「我々の世界の服でも、ここまでの物となると、貴族でなければ手が出ないだろうな……。」


「ふむ、ルキア様がアトリ様の服をお召しになられたら、とてもお似合いかもしれませんね。」


「わ、私がか?」


 確かに、この服ルキアさんが着たら似合いそう。

 首から肩まであいてるタイプの服だし、ルキアさんならセクシーな感じになるかな?

 ……私だと、どうしてもそうはならないんだけど。


 ――まぁ、私のは着れないかな、主に胸がきつそうで。

 くっ……悔しくなんかないぞっ!

 もう!胸囲の格差社会をこの世界でも目の当たりするなんて、いじめかっ!

 じっ、と恨めしの視線でルキアさんの胸を見つめる。


「な、なんだ、こちらをじろじろ見るんじゃない。」


「その、大きくて羨ましいなーって。」


「ははぁー、確かにルキア様は豊満でいらっしゃいますからね、お気持ちはわかります。」


「アイナっ!?」


「羨ましいですよね……姫であるわたくしより大きいですし。」


「ひ、姫様までそんな事をっ!」


 恥ずかしそうに胸を抑えるルキアさんを三人でじっと見つめる。

 けど、セシリアさんも割と負けてないと思うの私。

 順にしたら、ルキア>セシリア>アイナ>>私、ですし。


「くっ……こんな事をしていないで、早く湯浴みを済ませましょう姫様!」


「ふふっ、そうですね。――あら?」


 元の世界ならくっ殺系女子として人気が出そうなルキアさんに促され、セシリアさんが服を脱ごうとした所で、何かに気付いたらしい。


「ご、ごめんなさいアトリ様……コレ、持ってきてしまっていたようで……。」


 そう言って、申し訳なさそうに両手で何かを差し出してきた。

 そこには桜の香水があった。

 ん、コレ、私の香水かー。


「ああー、別にいいよー。良かったらセシリアさんにそれあげる。」


「え、ええ!アトリ様の大事な物では?!」


「その香水、友人にいらないからって押し付けられたんだー。」

「高い物でもないし、香水って私もあんまり使わないから。」


「そうなのですね……でしたら、喜んでいただきますねっ。」


 そう言うと、まるで宝物のように香水を小さく抱いた。

 そんなに喜んでもらえたのなら、香水も本望でしょう。


「香水?ですか。姫様、見させていただいても?」


「ええ、どうぞルキア。」


 危険があるかどうか調べるためか、手渡された香水を警戒するように観察していく。

 そして手の甲にシュッと一噴きすると、周囲にほのかに花の香りが漂う。


「これは……嗅いだことのない香りだ。」


「サクラ、という花の香りなのだそうですよ、ルキア。」

「アトリ様のお国の象徴とも言われているそうです!」


「サクラ、ですか……。」


 聞いたことのない花だ、と呟きつつ――安全が確認できたのか――セシリアさんに香水を返した。

 ……桜の事を話す時に、私の国の象徴なんていっちゃったけど、桜って国花として定められてるわけじゃないんだよね。

 ただ、日本の代名詞になっちゃうくらい有名ってだけで。


「それでは皆様、湯浴み場へいきましょう。」


 話が一段落したところを見計らってアイナさんが声を掛けた。

 いえーい、おっふろー♪と喜びつつ、意気揚々と浴場へ入っていく。

 そこにはアニメや漫画でしか見た事ないような豪華な浴場が広がっていた。

 凄い、めちゃ広い。

 それに何アレ、銀色の狼?のような彫像の口からお湯が出ている。

 マーラ〇オン……?


「うわぁ、すっごい……こんな浴場見た事ない!」


「本当ですか?驚いていただけたのなら何よりです。」

「こちらの浴場は、あまりわたくしが使わない場所でしたので、楽しんでいただけるかと、少し心配しておりました。」


 あ、セシリアさん専用の浴場がやっぱりあるんだ。

 あれ、じゃぁどうしてこっちに?

 他に人もいないみたいだし、時間帯で分けてるわけじゃないのかな。


「姫様がどちらの浴場にも入れるように、普段からこの時間帯は他の者は入ってはならないとしているのですよ。」

「ただ、付きのメイドが姫様と共に入浴する事は許されておりまして、その際にこちらを使うのです。付きのメイドは私だけではありませんので。」


「わたくしのちょっとした我儘なんです、皆とお話しをしながら入りたい、と。」


 私の疑問に答えるように二人が説明してくれる。

 なるほど、そういう事。

 思ったよりも、召使いとお姫様との距離が近いんだ。


「それでは姫様、お背中をお流し致します。」


「お願いしますね、アイナ。」


 そういって二人が近くの壁のほうへ歩いていく。

 壁には元の世界でも馴染み深いシャワーヘッドと蛇口が並ぶようにいくつもある。

 その下には桶のようなものと小さな椅子がそれぞれ置いてあった。

 はー……この世界のお風呂にもシャワーあるんだ。

 けれど、あるべきものがないことに気付いた。

 水を出し、水量を調節するバルブがない。

 代わりに、蛇口の上の壁には水晶玉のようなものが二つ、上下に並んではめ込まれている。

 ど、どうやって使うのコレ……?


「それでは、先に体全体をお流しするのでお湯を出しますね。」


 アイナさんが壁の水晶玉に手を触れるとシャワーからお湯が出始めた。

 そのお湯をセシリアさんの頭から掛けていく。


 ふむ?えっと、この水晶玉に触れればいいのかな。

 上の水晶に触れるとシャワーから()が出て来た。


「ほあーっ!!つめたぁっー!?」

「と、とま!とまれぇー!?」


 慌てて水晶玉に再度触れると水が止まった。

 なんでお湯じゃなくて水が出てくるの!?


「何をしてるんだオマエは……。」


「いや!使い方がよくわからなくて!」


「アトリ様、三秒ほど魔法石に触れてみてください。」


「……魔法石っていうんだ、これ。」

「で、三秒ね……こう?」


 アイナさんに言われた通り、三秒ほど魔法石に触れる。

 すると、今度はちゃんとシャワーからお湯が出始めた。


「おぉー、きもちぃー……。」


 ふーむ、触っている時間で水かお湯が別々に出るんだね。

 これ、水量の調節は出来ないのかな?

 試しに六秒くらい触れてみる。


「あっつぅぅぅーーーッッ!?!?」


 熱湯が出て来た。

 即座に魔法石に二回触れて水を出す。

 けど、触れた時間が一瞬すぎた。


「つめたぁーーっっ!!」


「だ、大丈夫ですか!アトリ様っ!」


「だ、だいじょうぶぅ……。」


 セシリアさんが私の悲鳴に驚いて心配してくれた。

 熱湯と水を受けた体を落ち着かせるために、今度は二秒くらい触わってぬるま湯を出す。

 下手したら心臓止まるよコレ!

 ――で、どうやら触れてる長さで温度が変わるみたい。

 一瞬だけ触れたら最初よりも冷たい水になってたし。


「本当に何をしているんだ……。」


「お、お湯の量を調節出来ないかなって……。」


「はぁ、手の平全体で魔法石に触れてみろ。」


「え?こ、こう?」


 魔法石に手の平をぺったりと三秒ほどつけると、さっきよりも水量が増えた。

 なるほど、触る面積で水量を調節出来るんだ。

 下の魔法石にも人差し指でちょんと触ると、下の蛇口からちょろちょろと水が流れ始めた。

 ……こっちで試せばよかったじゃん。

 はぁぁ、もうびっくりした。


「髪を洗うならこれを使え。」

「体はこっちだ。」


 そう言ってルキアさんが二本の小瓶を差し出してきた。

 中にはとろりとした液体。

 これ、もしかしてシャンプーとボディシャンプー?

 へぇ、石鹸くらいかと思ってたけど、ちゃんとあるんだ。

 蛇口付近には物が置ける場所があり、体を洗うためのスポンジみたいなのもある。

 こういう所は割と現代的で、お風呂に関する技術は結構高いのかもしれない。

 お城の浴場だからなのかもだけど。


「ありがとう、ルキアさん。」


 お礼を言ってみるけど、特に気にした様子もなく髪を洗い始めるルキアさん。

 むぅ、まだまだ仲良くなれそうにはない。

 その後は特に何事もなく、髪と体を洗って、待望の広い湯船へ。


「はぁ~~……疲れが取れるぅ~。」

「やっぱり、お風呂はいいね~……。」


 日本人がお風呂といったら、やっぱり湯船に浸からなきゃね。

 こうしてると温泉行きたくなるなー。

 温泉、この世界にもあるのかな。

 あったとしても未開の秘湯になりそうだけど。

 などと考えていると、セシリアさん達も湯船に入ってくる。


「――アトリ様の世界にも浴場はあるのですよね。」


 私の側にスイっと近寄って来た。

 うーん、肌綺麗だなぁ。

 身体もすらりとしててスタイルいいし。

 ……大きいし。


「アトリ様?」


「あ、う、うん、私の世界にもいるよ。大きいのが。」


「……いる?ですか?」


 はっ!ぼーっと考えすぎてて間違えた!


「ち、ちがうの!ある!お風呂、大きいのがあるの!」


「わぁ、やはりあるのですね!アトリ様の世界の湯浴み場とは、どんな所なのでしょう……!」


 良かった、異世界のお風呂を想像して、気が逸れてくれた。

 ……アイナさん?

 何ですかその、分かります分かっておりますよ、とでも言いたげな優しい目は。

 ぐぬぬ。


「異世界の浴場か……どんな奇怪な場所なのやら。」


「そんなに奇怪な場所じゃないよ!ふつーだよふつー!」


 いや、中には奇をてらいすぎて本当に奇怪な場所もあるけどさ。

 日本人の感性って、時々斜め上に全力で飛ぶし。

 一応変ではない釈明として、温泉について話さなくては。


「私のいた世界には温泉っていう浴場があるんだけど、この世界にもあるのかな。」


「ええ、それでしたらこちらの世界にもあります!」

「自然が作り出した浴場の事ですよね!」


 わぁ、温泉あるんだ!

 いいなー、行ってみたい。


「そうそう!私の住んでた国は、その温泉があっちこっちにあって、どれも良い場所なんだー。」


「そんなにあるのですね!こちらには南のエルフの国にあるとしか聞いたことがなくて、一度も入った事がないです……。」


 なんと、えるふ!ファンタジーの定番種族!

 エルフの国に温泉かー、和風の国だったりして。

 ……いや、温泉だからって和風なわけじゃないか。

 なんてどうでもいい事を考えながら、私のいた世界にはどんな温泉があるのかを、セシリアさんに話していく。


 温泉談義をしていて忘れていたけど、聞いておきたい事があるんだった。

 この国の戦争相手、エストアラ国についてだ

 今まで時々聞こえてきた話の印象だと、相当まずい相手みたいだけど。

 そもそもどうして戦争になっているのかもわからない。

 ……最悪、この先エストアラに関わる事もあるかもしれないし。

 知っておいて損はない。


「――聞きたい事があるんだけど。」


「聞きたい事、ですか?なんでしょう?」


「エストアラっていう国について聞きたいの、この国と戦争をしてるんだよね。」


「……はい、その通りです。」


「エストアラについてなら、私が話そう。」

「よろしいですね?姫様。」


 ルキアさんがそう聞くと、ええ、お願いします、とセシリアさんが答えた。

 今までの振る舞いから、ルキアさんは騎士の中でも位が高そうだし、確かにこの人から聞くのが一番よさそう。

 多分、隊長か団長とか、少なくともリーダー的な立ち位置にいるのは間違いない。

 ……そういえば、ジルバっていう人の名前を前に言ってたっけ。

 あの時の感じからして、ジルバっていう人はルキアさんより上の人なのかな。

 なら、ルキアさんは副隊長とか?

 うーん……。


「では、話をさせてもらうが……まずは何が聞きたい。」


 っと、ルキアさん達についてはまた今度。

 今はエストアラ国だ。

 とりあえず……なんで戦争になってるのか、かな。

 フリッド達が話してたけど、もう何百年も戦争なんてなかったらしいし。

 少なくとも、レスティリアから起こした事じゃないのは確かだ。


「じゃぁ、どうして戦争になってるのかな。」


「――どうして、か……。」

「正直に言おう、我々にも分かっていない。」


「え?」


「先に戦争を仕掛けてきたのはエストアラ国だ。」

「だが、理由も目的も、全くわからないんだ。」


 確かに、戦争を起こすのに具体的な理由なんてない場合もある。

 けれど、何かしらの目的はあるはず。

 ……どこぞの戦争をする事が目的の最後の大隊じゃあるまいし。

 まだ表面に出ていないだけ?


「領土が欲しいとか、他国を支配するためとか……そういうのじゃないの?」


「違う、そもそも、エストアラが戦争を仕掛けたのは、我らの国だけではない。」

「エストアラ国の南に位置する、ヴィーア公国にも襲い掛かり、コレを滅ぼしている。」


「ほ、滅ぼす?」


 とてつもなく物騒な言葉が出てきた。

 ――そうだ、フリッド達も言っていた。

 休戦も停戦も無視するあげくに、降伏勧告すらしてこないと。


「王や兵士だけではない、奴等はその国の全てを虐殺している。」

「その上、多くの国民を捕縛している、とも聞く。」

「襲うのは国だけではない、その国の近隣にある村や街すら襲っているのだ。」

「例え、戦闘の意思がなかろうとな……。」


 何それ、一方的な虐殺じゃない。

 なんでエストアラはそんな事を。

 というか……。


「そんな暴虐、他の国が黙ってないんじゃ?」


「オマエの言う通りだ、いくつもの国がエストアラを批難し、牽制した。」

「これ以上続けるならば多くを敵に回すと。」

「我が国もその一つだ。」

「だが、行動を起こすのが遅すぎた。」

「こちらが警告を出すのと同時に、エストアラは周辺諸国の半分以上を攻め落とした。」


 えぇ、ちょっと強すぎない?

 そんなに国力のある国なの?エストアラって。


「驚いただろう?我々も信じられない程だ。」

「――だが、そうおかしな話でもない。」

「伝説の英雄時代に遡れば、エストアラは戦の国とも呼ばれていたからな。」


 千年以上前から続く国なんだ。

 種族関の争いが絶えなかった時代らしいし、戦の国っていうのも納得。


「――そうだな、エストアラ国そのものについても話そう。」

「伝説の英雄……魔族戦争時代の事だ、初代エストアラ国王は人族第一主義者だった。」

「魔族との戦争においても他種族を嫌い続け、英雄によって多くの国が手を取り合う中、戦場で命を落とす最後の時まで他種族との協力を拒み続けた。」


 どうしてそこまで……全ての国が危機に瀕してたのに。

 あぁ……でも、元の世界にもそういう人達はいた。

 世界が危機に瀕しても自らの可能性を閉じる者達。

 ……人間って言うのは、どうしてこう自らの可能性を――

 ッ!!

 一瞬嫌な考えが浮かびそうになるのを必死に押し止めたが、思考は止まらない。

 駄目だ、■■■のようになってはいけない。

 人■の可■■を探■し続■■怪■に■■ては――


「おい?どうした、大丈夫か?」


「――ッあ、だ、大丈夫!」


 ルキアさんの声でなんとか我に帰る。

 危ない、気を付けないと。


「もう、平気。続けて?」


「……分かった。」

「――初代国王が戦死した後、二代目国王が座につくとそれまでの人族第一主義をやめ、積極的に魔族との戦いに加わるようになった。」

「そうして――」


 二代目国王が加わった後に天族が現れ、魔族戦争は終結。

 その後、二代目が亡くなるまで戦争のない平和な日々が続く。

 けど、三代目はこれもまた人族第一主義者で他種族を排他し始める。

 そんな事を数代繰り返し、何代目かでやっと戦争をしない国に安定したそうだ。

 なんてとんでもない歴史の国……。

 なら、エストアラが戦争をし始めた理由って。


「そんな歴史の国なら、人族第一主義が戦争の理由とは違うの?」


「いや、違う。」

「今代のガルド王は人族第一主義者ではない。」

「そもそも、今のエストアラは多種族も多く暮らしている。」

「それに、攻め落とされた周辺諸国は人族が納める地がほとんどだった。」

「だから、理由がわからないのだ。」

「そういった声明も出さないからな……。」


 うーん、違うんだ。

 ますます戦争を始めた理由がわからない。

 戦争を隠れ蓑にして、何か別の目的がある?


「だが、気になる点はある。前国王が亡くなり、息子であるガルドが国王になると同時に、ルヴェトという男が大臣に新しく就いた事だ。」

「ルヴェトに関しては、ガルド王と親しいという事と、優秀な魔術師である事しかわかっていなくてな……。」


 怪しい!どう考えてもそのルヴェトとかいう人が怪しすぎる!

 そういうのって、ほぼ大臣が黒幕パターンだ!


「それと、エストアラの攻勢が衰えないのは大量の傭兵集団を雇っているからだ。」

「傭兵だけで国を攻める事が出来るほどのな。」


 国を攻めれる数の傭兵?

 そんなに大人数をどうやって――。


「大量って、雇うお金は?」

「自国の兵を維持するのだって大変そうなのに。」


「攻め落とした村や国を傭兵共の好きにさせているらしい。」

「だから、破格の雇い金で大量の傭兵を雇い、維持出来ている。」

「耐え難い話だがな……。」


 そういう事、ね。

 それなら国庫の消費も抑えられる。

 兵士の消耗も。

 想像以上に、エストアラという国はヤバそうだ。


「大体分かったよ、ありがと、ルキアさん。」


「いや……本当に、オマエは何も知らぬのだな……。」


 異世界漂流者ですから。

 小さく笑って返事をしておく。


「むう、ルキアとばかりお話をして、わたくしはちょっとしか話せてません。」


「う……申し訳ありません、姫様。」


 ぷーっと頬を膨らませて遺憾の意を示すセシリアさん。

 この人、何やっても可愛いんじゃないですかね。


「ご不満かとは思いますが、そろそろ上がりましょう、姫様。」


 アイナさんに頬をつつかれ、ぷふぅと息を吐いた。

 お姫様にそんな事して怒られないんですか、アイナさん。


「もうっ、仕方ありませんね……。」


「あっ、そうだ。」

「アイナさん、脱衣場に扉があったよね?」

「あれってトイレかな?」


「ええ、そうでございますよ」


 良かった、あってた。

 実はかなり我慢してたんだ。

 さすがに地下牢でするのは勇気と決意と努力と度胸が足りなさすぎた。


「ちょっといってきてもいいかな?」


「……仕方ないな、行ってこい。」


「ありがとー!」


 早足でトイレに向かう。

 脱衣場へ戻り、トイレの扉を開けると実に見慣れた洋風の便器が!


「おお……これはっ!」


 便器の後ろには、便器に取り付けられている水洗タンクに似た、箱状のモノの上に魔宝石が取り付けられている。

 つまりこれって、水洗式?

 試しに魔法石に触れると、予想通り便器内に水が流れた。

 凄い、こんな風にも使うんだ。

 風呂場もこんな感じだったけど、コレは魔導具とは違うのかな。

 あまり流通してないって言ってたし。


 ――とりあえず、済ませる事を済ませちゃおう。


 ……


 ………………


 ………………………


 はぁ……良かった、ちゃんとトイレにいけて。

 そういえば、このトイレ、洗面台と鏡もあるんだよね。

 手を洗うために洗面台の前へ。

 ――鏡に、若い女性が映る。

 お風呂に入った後で髪も身体もまだ濡れている。

 顔は少し幼さが残っていて、高校生くらいと言ってもまだ通じると思う。

 髪は肩より下まで伸ばしており、少し茶色がかかった黒い髪をしている。

 身長は平均で見れば、ほんの少しだけ低い。

 鏡の中にいる自分の顔は、何故か少しだけ辛そうにしていた。

 いけないいけない、また不安な気持ちが出てきてた。

 セシリアさん達が心配するからもうちょっと笑顔に――


「ッッ!!」


 一瞬、鏡に()()()()()()が映った気がした。

 けど、振り返ってみても誰もいない。

 鏡にも強張った表情の自分しかいなかった。

 ……気のせい?

 いや、そうだとしても、そうじゃなくてもさぁ……。

 最初の出会いもだけど、あんまりホラーな演出しないでほしい。

 心臓に悪いから。


 一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 その後は脱衣場へ戻り、セシリアさん達と談笑をしつつ服を着ていく。

 シロウサギを見た事で、心持ち少し警戒して廊下に出た。


「おう、大分長かったな。」


「待たせちゃってごめんね。」


 フリッドが特に変わらぬ様子で待っていた。

 ふむ……何も変化はないみたいだ。


「フリッド、何もなかったか?」


「はッ!特に何事もありませんでした!」


「そうか、では漂流者の事は任せたぞ。」


「はッ!」


「では姫様、私はこれで。」


「ええ、ご苦労様でした。」


 そう言ってルキアさんは去っていった。

 以前見た後ろ姿より、疲れた感じが少しなくなった気がする。

 ちゃんとリフレッシュ出来たみたいで良かった。


「それでは、アトリ様、わたくし達も失礼致しますね。」


「うん、おやすみ。セシリアさん。」


 おやすみなさいと返してくれた姿を見送ってから、フリッドと歩き出した。

 これが何度も続いたら地下牢がマイホームになりそうで怖い。


「浴場は堪能出来たか?」


 ふと、そんな事をフリッドが尋ねて来た。


「うん、あんな豪華なお風呂、生まれて始めて。」

「魔宝石なんて始めてみたし、新鮮で楽しかったよ。」


「そうか、そいつは良かった。」


 笑顔でそう言ってくれた。

 そうして、セシリアさん達と話した事を話題にしつつ、地下牢へと戻っていく。

 地下牢にはおじさまが変わらぬ様子で見張り番のテーブルについていた。


「戻ったか。」


「グリルさん、お疲れっす。」


「じゃ、アトリ、悪いけどよ。」


 と、牢の扉を開けて中へ入るよう促される。


「ありがと、フリッドもお疲れ様。」


「おう。」


 牢の中へ入り、相変わらず硬い……?

 あれ、ベッドに掛け布団代わりの布以外に、毛布が敷かれてる?

 触ってみると、硬いベッドが大分改善されていた。

 コレ、もしかして、おじさまが……?

 外にいるおじさまを見てみるけど、こちらを気にする事なく、淡々と羽ペンを動かし、何かを紙に書いている。

 ……ありがとう。


 そう心の中でお礼を言って、改善されて眠りやすくなったベッドに横たわる。

 布を掛けると前回よりも断然暖かくて、お風呂後のリラックス気分だった身体が、更に心地良さに包まれていく。

 うん、今日は気分良く眠れそう。

 ――ねむれると、いいなぁ……。


 段々と意識が落ちていき、


 異世界での、二日目を終えていく――。


 けど、私は知らなかった。


 この時はまだ、始まってすらいなかったんだって。


 ――始まりの時が、もうすぐそこまで来ているなんて。



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能力詳細


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人格No.01

名前:< 神崎愛鳥 >

年齢:< 20 >

種族:< 人間 >

装備:< 無し >

能力:< 不明 >

魔力量:< 平均量 >


――魔力量が適正値に到達しました――

――複数の人格能力の素材を確認しました――

――これより各人格の生成を開始します――

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