#00 シロウサギを追い掛けて
―――夢を、見ていたような気がする。
どんな夢だったか……思い出せない。
大していい夢ではなかったのだろうと気にしない事にする。
寝ぼけた頭で周囲を見渡す。
大学の講義室、目の前の机の上には勉強道具が広げられている。
どうやら講義の間に寝てしまっていたらしい。
広い講義室内に談笑しているグループがいくつかいた。
先ほどまで受けていた講義で今日の日程は終わりなのを思い出す。
そのままぼんやりと明日の事を考える。
明日は土曜日、何かイベントがあるわけでも、用事があるわけでもない。
ただ、休みの日までの一週間という時間は、何処か長く感じた。
そう考えていると、やっと休みなのだという安堵感が湧き上がってくる。
「ふわぁぁ~~……。」
今日出されたいくつかの課題は頭のすみっこへ。
へにゃっとした声を出しながら、だらっとまた机に突っ伏す。
「あ~~と~~りっ!」
ふにゅんっと突如として背中に感じる、とってもやわやわなかんしょく。
「ふもっ……。」
「ちょっと、何よその声っ。」
背中越しに笑いながら、やわやわな感触の持ち主が言った。
「癒しを、感じたのです……。」
「癒しってアンタね……なんか、おっさんっぽいわよ。」
背中に感じていた癒しが離れていった。
机から起き上がって、そちらのほうへ振り向く。
そこには、長い髪を両側で結んでいて、人によっては少しツンとした印象を与えそうな女の子が苦笑したようにこちらを見ていた。
三条玲華。
普段、私以外の人には妙にツンケンしてるけど、根っこは凄く優しい。
困ってる人とか放っておけない、捨て猫がいたら拾っちゃうタイプ。
私がこの大学を選んだ最大要因、大切な幼馴染、親友1号。
彼女が志望した大学に私も進む事が出来たのは奇跡的だった。
ちなみにDらしい、何がとは言わないけど。
「講義終わったし、いつものコレ、行くでしょ?」
玲華ちゃんがコップを飲む仕草をする。
彼女の言うコレというのは喫茶店の事。
ほぼ毎日というわけではないけど、大学が終わった後や休みの日によく行くようになった。
「もちろん、明日は休みだし、今日は長くのんべんだらりとできそーだね。」
「そうねー。あ、シュウとコウはもう先に行ってるってさ。」
「ふぁ、先に行っちゃったの?」
なんと、薄情な青年達め、すぐに追いかけねば。
多分、もう追いつけないけど。
あの二人は私と玲華ちゃんがいないとやたら歩くのが速い。
三野修司、親友2号、筋肉馬鹿、凄くいい奴。
三月木神谷、親友3号、クール、時々変な人。
この二人とは高校生からの付き合い。
よく一緒にいるのと苗字が3人揃ってるせいで三三三崎とか呼ばれてたりする。
崎は私の苗字が神崎だから。
以前玲華ちゃんと一緒にいた時「三崎さーん!」って二人まとめて呼ばれたのには、さすがに驚いたっけ。
「じゃ、さっさと行くわよ。ほら、早く荷物まとめなさい!」
「う、うん。」
急かされながら机の上に広げられた勉強道具をバッグへ、スマホとMP3プレーヤーを腰に下げたサイドポーチの中に突っ込み、既にほとんどの人がいなくなっていた講義室を出る。
廊下を見渡してみるが、シュウ君達の姿はなかった。
本当にあの二人は歩くのが速い、多分さっさと大学から離れたかったんだろう。
「いつものことながら、あいつらほんっと速いわね……。」
玲華ちゃんが呆れたように呟く。
けど、あの二人が早歩きで出て行ってしまうのも仕方がないと私は思う。
あの喫茶店は、本当に居心地がいいから。
この大学は何処か、息苦しい感じがする。
私には特に息苦しい。
中学生時代の同級生が何人か大学にいるのを見たことがある。
彼らに関わる気はない、関わろうという気もない。
もしも、関わってしまえば、きっと……。
いけない、この思考はやめよう。
■■■はもういない、あんな出来事はもう二度と起きないんだから。
「そういえばさ。」
「へぁっ?」
無意識に気を張っていたせいか、変な声が出た。
「なんか最近、変な噂が出回ってるみたいなのよね。」
……変な声はスルーですか、玲華ちゃん。
「噂って?どんな噂なの?」
「都市伝説みたいなやつでね?なんでも、人と同じくらい大きな二足歩行のシロウサギがこの辺りにいるらしいのよ。」
何その噂、都市伝説でも聞いたことないよ。
しかもこの辺って、ここ都市部だよ?
人一杯だよ?目撃情報わんさかなんじゃ?
一言聞いただけでもツッコミ所満載の話に困惑する。
そして何より気になるのは――
「二足歩行のシロウサギ……服とか着てるのかな?」
「気になる所そこなの……?いや、確かに気になるけどそうじゃなくて!」
「……そのシロウサギさ、見たら連れていかれるんだって。」
「何処に?」
「どっか。」
なんてもやっとした噂……いや噂なんだし、もやっとしてるのも当然か。
何処かへ連れていかれる、っていうのも神隠しとかそういう類のものだろう。
連れていかれた人は行方不明になるから、行き先がわからないとかそういう。
「そのシロウサギって、懐中時計見て、遅刻しちゃう!遅刻しちゃう!急がなきゃ!……って慌ててたりするの?」
「アリスは連れ去られたわけじゃないでしょ……。」
玲華ちゃんが苦笑する。
どうしてもシロウサギと聞くと、小さい頃に何度も読んだ不思議の国のアリスの話が思い浮かぶ。
アリスの世界が好きだったからだろうか。
それとも■■■に読んでもらった事があるからだろうか。
「んで!……別に何もしてないみたい。ただ、じーっと何処かを見つめてるんだとか。」
ん……何かその行動だけ随分ハッキリしてる。
見たことがあるかのような。
「もしかして、目撃した人と会ったことある?」
「お、流石ねー、変な所で鋭いんだから。」
あぁ、やっぱりいるんだ。
見ちゃったけど連れていかれなかった人
「愛鳥の言う通り、見たっていう人から話を聞いたけど、全然その場から動かないそうなのよ。」
「ただ、少し目を離した隙にいなくなってたらしくて、置き物とかじゃなさそうね。やっぱり着ぐるみとかかしら。」
玲華ちゃんはオカルト系の話をよくするし、そういうのを聞いたらあちこちに話を聞いて回るくらいだけど、彼女はそう言う話を頭から信じてるわけじゃない。
「着ぐるみだとしても、ちょっと見てみたいよね。握手とかしてもらえないかな。」
「握手ってあんたね、遊園地のマスコットじゃないんだから……。」
いいじゃないマスコット、なんかもふもふしてそうだし、凄く触ってみたい。
なんてことを思うけど、遊園地にいるああいう着ぐるみは苦手。
目が合ったらこっちに近づいて握手をしようとしてきたり、抱き着こうとしてきたら全力で後退ると思う。
「そうそう、そのシロウサギの話を聞いてた時に他にもね――」
シロウサギの話はもういいのか、別の話題に切り替わっていた。
結構オカルト系の話を知ってる人って多いんだなーとか思いつつ適当に相槌を打っていく。
気が付けば、もう駅についていた。
ここから電車に乗って一駅の場所で降りて、数分ほど歩いた所に私達いきつけの喫茶店がある。
改札を通ってホームへ降りる、ちょうど電車がホームに入ってきた。
「ラッキー、そこまで混んでないみたいね!」
少し早歩きで人が疎らにしかいない車両に乗る。
「うっ……ラッキーでもなかったか。ほとんど席埋まっちゃってるじゃない……。」
「仕方ないよ、どうせすぐなんだし、我慢して立ってよう?」
「はーいはい。」
プシューっという音がしてドアが閉まり、電車が動き始める。
車両のドア窓を見ると、夕日に照らされた高層ビルがいくつも見えた。
そのままぼーっと外を眺める。
ふと、誰かの視線を感じた気がした。
隣にいる玲華ちゃんのほうを見てみるけど、彼女はスマホに目を落としている。
前方車両のほうへ目を向ける。
一瞬、何がいるのかわからなかった。
人と同じくらい大きな真っ白の毛むくじゃら、上に向かって伸びた長い耳、吸い込まれそうな紅い瞳、執事のような立派な服、腰には懐中時計。
ウサギだ、そこにはシロイウサギがいた。
誰も目もくれていない、そこにある異質にまるで気が付いていない。
そして気づく、ソレの目の先にあるモノに、カレの視線の先にいる者に。
私、だ。
私を見ている。
背筋に寒気が走る。
怖い。
どうして、私を見ているのか。
表情は読めない、そもそもあるのかすらわからない。
吸い込まれてしまいそうなその瞳で、じっと、私を見続けている。
「■■■■■■――。」
突然、ノイズが走った。
カレが何かを言ったきがする、いや頭にひびいてきた、ような、きが、する。
「■■■■■―――。」
わからない、なにがおきた、おきている?
よばれ、た――?
なに、わたし、は―――
――りっ!
―とりっ!
「愛鳥っ!」
「――えっ?」
ハッと、玲華ちゃんの声で気が付く。
「どうしたのよ、店の前で立ち止まっちゃって。」
「え、店……?」
自分の前に目を向ける。
≪カフェ・サーナティオ≫。
喫茶店と店先の看板があった。
いつの間に喫茶店に?
さっきまで、電車に乗っていたはずなのに。
「ほーらっ、早く入りましょ?」
「あっ……うん……。」
玲華ちゃんに背中を押される。
チリンというドアベルの音を聞きながら、喫茶店の中へ。
さっきのは、一体何だったの?
電車の中で、シロウサギを見た、ソレも私を見続けていた。
その後は―――?
「うおおぉぉぉーーっ!!コウ、てめぇっ俺を置いて先に行くんじゃねぇーよっ!!」
突然店の中に響いた大声に驚き飛び上がりそうになる。
しかも、考えていた事が一瞬にして吹き飛んだ。
誰かが喧嘩をしているのだろうか――?
「喧しいぞ、お前がいつまでも雑魚を殴っているからだろうが、馬鹿者め。」
「んだとぉ!大剣で吹っ飛ばすぞ、てめぇっ!」
「フッ……やれるものやって――ああぁぁーーっ!俺のキャラが吹き飛ばされて竜の餌食にぃっ!?」
「お前っ、いつの間に来ていたんだっ!?」
「ハハハッ!マップで俺の位置を見てねーからだっ、ざまーみろぉっ!」
めちゃくちゃ顔見知りの二人が奥の席で言い争いをしていた。
よく見れば二人は携帯ゲーム機を手に、カチャカチャと動かしていた。
「あいつら、また言い争いしてんの……殴り合いにならないだけマシだけど。」
仕方ない奴ら……と呟きながら玲華ちゃんが二人の所へ歩いていく。
「シュウ!コウ!此処は喫茶店なんだから、もうちょっと静かにやんなさいよっ!」
玲華ちゃん、腰に手を当ててご立腹のポーズ。
「んぉっ?おぉ、玲華に愛鳥じゃねーか、遅かったな!」
「やっと来たか、待ちくたびれたぞ。」
さっきのは喧嘩のうちにも入らないのか、パタリと言い争いをやめ、席に座っている男二人が悪びれもせず凄く呑気に言った。
「あんた達が歩くの速すぎるのよっ……もうっ。」
ハァ、とため息をついて玲華ちゃんは二人がいるテーブルの向かい合わせの席に座った。
私も玲華ちゃんの隣の席に座る。
「二人共、もう始めてたんだ。」
「おうよ!お前らもさっさと何か注文しろよっ、早く始めようぜっ!」
ガタイの凄くいい筋肉質の男、シュウ君が威勢よく言った。
その隣で見た目は凄く真面目そうな男が淡々とゲーム機をいじっている。
どうやら、コウ君は私達とゲームをする準備を既に始めているようだ。
はいはい、と玲華ちゃんがゲーム機を取り出す。
私もいそいそとゲーム機を出し、電源を付ける。
ゲームを始めると、ゲーム内の広場に片手剣と盾を持った自分のキャラクターが映った。
「愛鳥先輩っ、玲華先輩っ!いらっしゃいませーっ!」
そこへ、ハツラツとした明るい声がした。
そちらのほうへ顔を向けると、ウェイトレス姿の女の子。
上のほうで片側をちょこんと結んでいて、腰上くらいまで長い髪。
幼い顔立ちで、身長も私より低い。
高校1年生と言われても納得する、でもこれで私より一つ年下。
友人の中で唯一の後輩、親友4号、秋野明日花。
「こんばんわ、明日花ちゃん。コーヒー頼むね。」
「また来させてもらったわ、明日花。紅茶とチーズケーキ、よろしくね。」
「かしこまりましたっ!少々お待ちくださいませーっ。」
オーダー入りまーす!と元気な声で明日花ちゃんがカウンターの奥にいる人に声をかける。
シュウ君に負けず劣らずガタイのいいおじさんが黙々と飲み物を淹れていた。
この喫茶店の店長でああ見えて凄く温和で優しいおじ様。
「愛鳥先輩達、今日はモン〇ンですかー?」
「うん、新しいイベントが来てるの。この前からみんなでやろうかって話してて。」
「いいなぁ……バイトじゃなかったら私も混ぜてもらいたかったです……。」
しゅん、と明日花ちゃんが項垂れる、かわいい。
「なら今からでもやるかっ!?」
「明日花ちゃんはバイト中だって言ってるでしょうが。」
何故か食い気味にシュウ君が素っ頓狂な発言をした。
そこに玲華ちゃんが即座に切り込む。
そうか、ならしゃーねーなとシュウ君はすぐに引っ込んだ。
この人は仲間外れとか輪に入れない人の事を凄く気にする。
それで私も何度助けてもらった事か。
また今度時間がある時には是非と明日花ちゃんは明るく言って、カウンターのほうへ向かった。
注文したものが来てからは、仕事中の明日花ちゃんも時々会話に混ざりつつゲームをプレイしていく。
こうしていると、電車で起きた事が頭をよぎる。
本当に、アレは一体なんだったのだろう。
あの瞬間の事を考えると、何故だか酷く不安になった。
何かが変わってしまうような、終わってしまうような、そんな気がして。
「……愛鳥、今日は何処かキャラの動きが冴えないようだが、何かあったのか。」
「ふぇっ、そ、そうかな?えっと……。」
こういう時、コウ君は妙に鋭くて人の機微によく気付く。
「そうね、電車を降りてから少し様子が変だった。ホント何かあったのなら言いなさいよ?」
玲華ちゃんに凄く心配そうに言われる。
内心ずっと私の事を気にしていたみたい。
・・・本当にみんないい人達ばかり、私にはもったいないくらい。
こんな突拍子もない事、話すべきか少しだけ迷う。
けど、このままにしておくのも気持ちが悪かった。
「その、実は……此処に来る途中の電車内で……シロウサギを、見たの。」
先ほど電車内で起きた事、感じた事、その後気が付いたら店の前にいた事を事細かに説明していく。
みんな静かに、真面目な顔で黙々と聞いていた。
「なるほどな、その噂なら俺も少しばかり耳にしている。」
「……おい、何を俯いてぷるぷる震えているんだ、玲華。」
「だ、だってぇぇ、私がそんな噂の事なんて話したから、余計に愛鳥の事怖がらせちゃったなってぇぇーーっ……!」
「しかもっ!!私すぐ傍にいたのに!スマホいじってて、全ッ然気づかないとかーッッ!!」
「ぶあぁぁっ!ごめぇぇん!ごめんよぉぉっ……!」
玲華ちゃん、マジ泣き。
いや、玲華ちゃんのせいじゃないから!ほんと!
「うんー、よーしよしー、だいじょうぶー、だいじょうぶだよー?玲華ちゃんのせいじゃないからねー。私は平気だよー?」
玲華ちゃんの頭を胸に抱いてよしよしとあやす。
あれ、なんで私が慰めてるんだろう。
「ううっ、ぐすっ……かたい……」
放り投げたろうかこの娘。
「お前は本当、愛鳥の事となると性格が変わるな……わからんでもないが。」
「いやぁ、俺も玲華の気持ちはわかるぜ……。俺も愛鳥に嫌われたらと思うと、丸三日は腹筋する気がなくなるぜ……。」
腹筋する気がなくなる程度なの……いや、シュウ君にとっては一大事か。
というかキミら、私の事大好きすぎやしませんかね。
ヤダ恥ずかしくなっちゃうわー。
でもー、今話すべき事はそういう事じゃないと、わたしゃ思うんだー。
「俺達は愛鳥の事が大好きだという事はよくわかった。」
「かくいう俺も、愛鳥の事を母さんと呼びそうになった事がある。」
いや、そんなテーブルに両肘付いて両手を口元に持ってきてめちゃくちゃ真面目な顔で急にそんな事暴露されても!
「もおっ!そんな事はどうでもいいからシロウサギの事でしょっ!!」
「むぎゅっ……」
「どうでも、いい……だと……くっ……!」
「あぁ……そうだな……シロウサギの話しだったな……。」
うわぁ、この人頭抱えてガチでへこんでる。
どうでもいいって言われたの、そんなに心に刺さったんだ……。
私、ホントなんでこんなにみんなに好かれてるんだろー。
「しかしよ、玲華とコウは愛鳥の話を信じてんのか?いや愛鳥の話だし、俺は全面的に信じてるんだが。」
「それと愛鳥、そのままだと玲華が窒息で死ぬぞ。」
おっと、つい力強くぎゅっとしちゃってた。
「ぶはっ、信じてるのなんて当たり前でしょっ!」
「そうだな、冗談で言っている雰囲気ではなかったし、そもそも愛鳥はこういう冗談を言わん。」
「なら決まりだな。シバ公だかトサ公だか知らねーが、愛鳥を連れ去ろうってんならこの俺の屈強な肉体でぶっ飛ばしてやろうじゃねーかっ!」
シとサしかあってないし、シロウサギが犬みたいになってるよ、シュウ君。
「よし、帰りはみんなで固まって帰ったほうがいいだろう。」
「それと、愛鳥は一人暮らしだったな。玲華、しばらくはお前が愛鳥の家に泊まるというのはどうだ。」
「いいわね、それ! どう?愛鳥。」
「大丈夫だよ、大歓迎しちゃう。」
玲華ちゃんなら我が家へお泊りなんて、いつでもウェルカム。
「話は全て聞かせてもらいましたっ!愛鳥先輩の一大事とあらば私も一緒にお守りしますーっ!」
「というか!私も愛鳥先輩の所にお泊りに行きたいですーっ!!」
明日花ちゃんがズサーっと滑り込んできた。
もしかして、そのノリがやりたくてずっと滑り込むタイミング計ってたのかなこの子。
他にも、私をみんなで囲んで帰る、休みの日は家にみんなが遊びに来るなど、とんとん拍子で話が決まっていく。
そうして明日花ちゃんのバイトが終わる時間になり、みんなでぞろぞろと喫茶店から出る。
もちろん、私を囲うような布陣で。
前方シュウ君、両隣にコウ君と玲華ちゃん、後方に明日花ちゃん。
明日花ちゃんは、先輩の背中は私が守って見せます!と息巻いていた。
私の周囲を囲んでいるみんなは、真顔だった。
シュウ君と玲華ちゃんは通る人を次から次へと視線で威嚇している。
ちょっとだけ周囲の通りすがりの人達の視線が恥ずかしい、バッグで顔を隠したくなる。
「なんか、ちょっとだけVIPになった気分だよ。」
「あるいは警察に連行される犯人だな。」
コウ君、それ凄い嫌なんだけど。
ガタイのいい男二人が横にいたら完全に強制連行される犯人だった、二人が横じゃなくて良かった。
「……あのさ、コウ君。」
「なんだ。」
「みんな本気で私を守ろうとしてくれてる、シロウサギなんてよくわからないものなのに。」
「どうしてなのかな。」
コウ君がキョトンとした顔をしていた、凄くレアな表情。
「みんな、お前に思う所があるんだろう。」
「俺も思う所のある内の一人だ。昔、お前に救われた事がある。」
「……え?」
そうだったんだ。
でも、何があったんだっけ……?
コウ君達と出会った頃の事を思い出してみる。
けど、気が付いたらいつの間にかみんな傍にいた事しかわからない。
唯一、玲華ちゃんだけは思い当たる事があるけど。
「ねぇ、コウ君、私達が出会った時ってなにが―――」
「■■■■■■―――。」
また、突然ノイズが走った。
急に立ち止まったのか、シュウ君の背中にぶつかってしまう。
そして、今度は何が起きたのかがわかる。
いや、正しくは何が起きたのかなんて理解出来ていなかった。
シュウ君は止まったままだ。
コウ君も、玲華ちゃんも、明日花ちゃんも、通りすがりの誰かも、鳥も、空に浮かぶ雲すらも。
誰も彼もが全て止まっている。
時間が止まってしまったかのように、親友達はみんな歩く姿勢のまま止まっている。
「何、コレ……。」
「玲華ちゃん!コウ君っ!シュウ君っ!!明日花ちゃんっっ!!!」
どれだけ声をかけてもピクリとも動かない。
ふと、電車で感じた時と同じ、誰かの視線を感じる。
視線の方向へ目を向けると、シロウサギがいた。
ただ、今回は私がそちらを見ている事に気が付くと、何処かへふらりと歩き出していた。
「あっ……待ってっ!!」
慌ててシロウサギの後を追う。
私以外の全てが止まっているこの世界で、シロウサギは動いている。
やはり、あのシロウサギがこの現象の原因?
電車の時はあんなに恐怖感を感じたのに、何故か今は少しも恐ろしくなかった。
シロウサギはゆったりと歩いているように見えるのに、全然追いつく事が出来ない。
ふと、大学を出た直後に玲華ちゃんとシロウサギの噂で話した時の事を思い出す。
やっぱり、アレは本当に不思議の国へ誘うシロウサギなのだろうか。
何故だろう、段々と絶対に追い掛けなければいけないという気持ちになっていた。
追い掛けてしまえば、何かが終わってしまうような気がするのに。
追い掛けなければ、もっと良くない何かがあるような気がする。
■■■なら、この感覚も、この現象も、何が起きているのか説明してくれるだろうか。
シロウサギが路地裏へ入っていく。
すぐさま私もその路地裏に入る。
けど、どうやら行き止まりのようだった。
周囲を見渡してみるけど、シロウサギはいない。
一体どこに行ったんだろう。
「あれ……扉?」
行き止まりの奥に、その場所には全く似つかわしくない木製の扉があった。
なんでこんな所に扉なんてあるのだろう。
何故か、その扉が凄く気になる。
まるで吸い込まれるように扉へ近付いていく。
気が付けば扉の前でドアノブに手をかけていた。
「……もしかして、この先に。」
でもどうせ、鍵とか掛かってるよね。
ドアノブを回すと予想に反して軽く、開いてしまった。
「あ、あいちゃった?……あれ……真っ暗?もしかして、壁?」
違う、壁があるわけじゃない。
扉の先が本当に何も見えないくらいに真っ暗なんだ。
肩に下げていたバッグを両手で抱えて、恐る恐る扉の中を覗き込んでみる。
何も見えない、少しの光すらっ――
何かに私のお尻を蹴り上げられた。
……けりあげられた?
ちょっとした浮遊感。
……ふゆうかん?
あれ、もしかして、これって―――。
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁーーーっっっ……!!!」
「おぉぉちぃぃぃるぅぅぅぅぅーーーーーっっっ………………!!!」
落ちていく、落ちていく、真っ暗闇の中へ
シロウサギを追い掛けて
ついうっかりと、穴へ落ちてしまったアリスのように
何処までも暗闇に落ちていく途中
ノイズが走った気がした
「 時 が 来 ま し た 。 」
「 あ と り さ ま 。」
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能力詳細
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人格No.01
名前:< 神崎愛鳥 >
年齢:< 20 >
種族:< 人間 >
装備:< 色々な物が入ったバッグ・スマホ・MP3プレーヤー >
能力:< 現能力無し >
魔力量:< 現魔力量無し >




