防具も買う
武器を買いました。
見回しても店内に幾つか飾ってある鎧と盾以外に防具は置いてなさそうだった。
しかし飾ってある鎧はいかにも重そうで、ショートソードすらまともに持てない非力な自分では装備して動くことはまず無理だろう。
「まってね~。」
男の子はカウンター下から幾つかの防具を出してくる。
「お兄ちゃんが装備して動けそうな防具だと~・・・この辺ならどうかな~。」
カウンターには鉄製の胸当てとレガース、ガントレットが置かれていた。
「うちは金属製の装備専門店だからね~。ほんとはレガースとガントレットは鎧兜とセットなんだけどお兄さんだとセットでは絶対重くて無理だろうからね~。」
悲しいが恐らくその通りだろう。
ダイキは素直に出された装備を付けていく。
「胸当てはなめし革を重ねてその上に鉄板を被せたものだから軽くて丈夫だよ~。その分防御力は低いけど~。」
確かに重さをあまり感じさせない。
一通り装備するとそれなりに様になった気がする。
・・・がレガースを履いた状態だと走り辛い。
意外と重かった。
「レガースは諦めます・・・。」
「そう・・・ですよね~。」
ここまで力が無いことで制限されるとダルすぎる。
さっさとギルドで依頼受けて魔物倒してレベル上げよう。
せめて”欲しい装備があるけどお金が無いせいで買えない”くらいの状態になりたい。
ダイキは悲しすぎる目標を立てた。
そこへ店の奥から店主がやってくる。
「ナイフカバー制作とナイフの研ぎ、終わりましたよ。」
カウンターに置かれたナイフにはカバーが付けられている。腰に巻けるように長い紐付きだ。
腰に巻きつけると盗賊とかアサシンっぽい。
「どうしたロシュ、浮かない顔して。」
ロシュと呼ばれた男の子の顔を見て店主が聞く。
ロシュはダイキがレガースが重すぎてうまく動けない事を話す。
「そこまで非力だとなぁ・・・。そうだ!」
店主はまた店奥に帰っていくとすぐに両手に何かを抱えて戻ってきた。
「俺が昔使ってたマントとブーツだ。これならさすがに装備出来るだろ。」
なんかラフな喋り方になったような・・・。
勧められるがままに装備する。
太もも辺りまでの長さの襟付き布製マントと爪先に鉄板の補強がされた革製ブーツだ。
全部装備した後改めて全身を確認する。
なんかいっぱしの冒険者に慣れた気がする。
「それ冒険者登録の時に貰おうと思ってたのに~。」
ロシェが不満そうにほっぺたを膨らませる。
「そんときゃ新しいの買ってやるから。」
店主はよしよしとロシェの頭をなでる。
「マントとブーツはサービスだ。あまりにかわいそうだからな。」
「ガントレットと胸当てで8100マーニーになります~。」
お金を払って出ていこうとすると店主が話しかけてきた。
「修理が必要になったら来なよ。あと、布使った装備が欲しいなら別の店があるからそっち行きな。まぁ冒険者用の装備って大抵魔法効果かかってるから金属製の装備より高いんだけどな。」
一応、と親切に店主が店の場所を教えてくれる。
ダイキには今一街の地理が分からないのでうんうんとテキトウに頷く。
後で本当に必要になったら探そう。
今はこの装備で十分だろう。
「ありがとうございました!何から何まで!」
「いいってことよ。その代わり修理はうちに来いよ。」
意気揚々と店を後にした。
冒険者ギルドへ入って受付カウンターへ向かう。
装備を整えたせいか少し気持ちに余裕が出来ている。
いつでも出発出来るぜ、的な。
「あ、昨日の・・・。」
昨日会った受付嬢が立っている。
ダイキの顔を見た瞬間眉毛がハの字になった。
「依頼受けてみたいんですけど。」
「そうしたいですよねぇ。」
受付嬢が入口付近の大きなボードを指さす。
数人の男が貼られた紙を眺めて話をしている。
「通常依頼を受ける場合はあそこに貼ってある依頼表を剥がしてここに持ってくるんです。早い者勝ちですよ。」
そう話してから一度言葉を区切る。
「登録したての初心者の方はまずギルドから経験者パーティーにしばらく加入してもらって経験を積むことが多いんですが・・・。」
「へぇ、寄生プレイオッケーみたいな感じなんだ。」
それならすぐにステータスも上がるだろう。
「あなたの能力みせたらどこも断られちゃいました・・・。」
「・・・。」
ここまでひどい扱いを受けなきゃいけないもんなんだろうか。
「こ、こういった事も時々あるんです。大丈夫です。」
落ち込まないで下さいと言われる。
「初心者だけでパーティーを組んでギルドから直接出す依頼を受けて下さい。」
クエスト表が渡される。
依頼主:ハンスハイゼン王国 冒険者ギルド長ドメス
依頼内容:魔物の素材 もしくは薬効のある植物の採集。
報酬:集めたものをギルドが買い取ります。
素材集めクエストらしい。
「お店で売るよりも少し高めに買い取らせてもらいますよ。レベルをある程度上げるまでこの依頼で経験を積んでください。」
「ある程度?」
「十分なステータスだとギルドが判断したら経験者パーティーに合流するなりそのまま一緒のパーティーで正式にギルドに依頼されているクエストを受けるなりお好きに。」
ただし、と付け加えられる。
「この依頼クエストはあくまでパーティーが組めなかった初心者達へのお助け依頼みたいなものなのでステータスの過少申告をして何時までも受けようとは思わないで下さい。」
「あい。」
「もし嘘が判明した場合は冒険者証の取り上げもありえるから、うっかりとかも駄目よ。定期的に報告してね。」
「気を付けます。」
折角お金をかけて登録したのに取り上げられるのは嫌だ。
「じゃあ、あなたと組む子を紹介するね。」
少し声を上げて受付カウンターから呼びかける。
「ルインくーん!カイトくーん!さっき話してた一緒にパーティー組む人が来たよー!」
受付待ちの人用に並べられた椅子から二人立ち上がった。