剣を買おう
体調が悪くなった。
翌朝ガルドからお金を受け取り早速武器屋に向かう。
前日街を散歩している最中に目星を付けていたので迷う事もなかった。
「自分の力に見合った武器と防具を買ってくださいね。重いとまともに振り回せませんから。」
ガルドの注意を思い出す。
「ダイキ君は力が無いので・・・。選べなくても落ち込まないで下さいね・・・。」
斜め下を見ながら話す。
そのおかげで落ち込む覚悟だけは出来ていた。
看板を見る。
{金属装備は全てお任せ バーナード武具店}
思い切って扉を開けた。
カランカランと扉に付けられた鈴がなる。
「いらーっしゃーい。金属装備の販売から修理まで全て、バーナード武具店です。
ご入用は武器でしょうか?防具でしょうか?」
カウンターを見ると小さな男の子が店番している。
言葉は決まり文句なんだろうか。
見回すとダイキが想像していたイメージ通りに剣や槍が立てかけられていたり鎧がズンと立っている。
思わず鼻息が荒くなる。
「どうしたの?何が欲しいの?」
大きなクリクリとした瞳で首を傾げながら男の子が聞いてくる。
7、8歳くらいだろうか。
親に店番頼まれているのだろう。
「えーと・・・。初心者におすすめの剣ってある?」
お金はガルドから揃えるのに十分なだけ貰えている。
ダイキにとっては装備の価格なんて予想がつかないでいくら貰えたかに疑問は挟まない。
貰えるだけありがたいし。
剣!盾!軽めの鎧!マント!これで駆け出し冒険者になれるはず!
〇ラクエ3の勇者のイメージで揃えよう。
男の子はダイキをじ~っ見つめる。
「ほんとに初心者用でいいの?」
「うん、お願い。」
小走りにカウンター横から店内側に移動し、慣れた手つきで一本ずつ持ち上げてカウンターに並べていく。
棚に飾ってある綺麗な装飾の装備ではなく大量に立てかけてある剣の中からだ。
「う~ん。一応。」
男の子用に置いてある木製脚立に乗って棚に飾ってある短めの剣も取り上げて並べる。
鍔に綺麗な装飾がされていて柄の先端に綺麗な宝石が付いている。
ダイキは目が釘付けになる。
こういう装備を使ってみたい。
「この中から選んでみてください~。」
カウンター内に戻った男の子が両手を広げて並べた剣を勧める。
「じゃ、とりあえずこの剣で。」
装飾の豪華な剣を指さす。
「そのショートソードは柄の先端に切れ味が落ちにくくなる魔法を込めた魔法石を埋め込んであるよ~。普通のショートソードの倍額くらいかな~。」
その言葉を聞いてふとスキルを使用してみようと思いつく。
ダイキはこの世界に来て一度もスキルを使用していなかった。
折角手に入れたものなんだから有効に使っていかなければいけない。
特にステータスの低いダイキにはスキルが使いこなせるかは死活問題だと思われた。
使い方は・・・何となく本能的に理解できる。
呼吸の仕方と同じでやり方は考えなくても出来そうだ。
どうやらスキルとはそういうもの、らしい。
柄に手を触れて武器全体を眺めながら意識を集中して[鑑定]のスキルを発動する。
[耐える力のショート・スティール・ソード]
レア度 3
攻撃力 6
特殊効果 [切れ味耐性 レベル2]
平均販売価格 14500マーニー
価格まで分かる事に驚く。
貰ったお金から考えるとこれくらいは楽勝で払えそうだ。
ダイキが剣を持ち上げようとするとズシッと強烈な重さを感じる。
「ふぐっ、お、おもっ。」
両手で持つなら無理ではないが、片手ではまともに振れない。
「ええっ!鉄性のショートソード程度でそこまで?」
男の子がびっくりしてダイキから剣を引ったくる。
片手で軽く持ち上げて振った後カウンターに置く。
「う~ん。お兄さん非力だね~。」
覚悟していたがやっぱり落ち込んだ。
並べられた中では恐らく一番か二番目に軽そうな剣だったのに使いこなせそうになかった。
「これより軽い剣って冒険には不向きのレイピアとかかな~。」
それじゃ駄目だよねぇと呟きながら腕を組んで考えている。
「そうだ、これならどう?」
カウンターのすぐ横の壁に紐で吊るしてあるナイフを外してカウンターに置いた。
こちらにも小さな宝石が付いている。
「剣じゃないけどこれならもっと軽いけど~、どう?」
ナイフを手に取る。
これくらいなら問題なく持てそうだ。
しかしこの武器に盾を持つってのは想像が難しい。
ナイフにも[鑑定]のスキルを発動させる。
[耐える力のスティール・ナイフ]
レア度 3
攻撃力 3
特殊効果 [切れ味耐性 レベル1]
平均販売価格 7000マーニー
このナイフも耐性がある。
剣が重くて使えないならこれで良いだろう。
ダイキはため息をつく。
「これにします。」
「ありがとうございます!7800マーニーになります~。」
ちょっと平均より高い。
一瞬値切ろうかと思ったが、小さい子相手には何となく申し訳ない気がして言い出せなかった。
「それじゃあナイフカバーはサービスでお付けしますね~。」
そう言うと店の奥に向かって叫んだ。
「とーちゃーん!ナイフカバー作って~!」
ドシドシと歩いてくる音がして奥の部屋から大男が出て来た。
鍛えられた体なのが服越しでも分かる。
「お客さん、ありがとうございます!」
お礼を言いながらナイフを拾う。
「採寸してナイフカバーおつくりします。あと、新品なので大丈夫とは思いますが軽く研いでおきますね。」
そう話すとまた店奥に戻っていった。
男の子はその後ろ姿を見ながら
「いつも武器の研磨とか防具の修理のために奥で作業してるんだ。」
クルリと振り返ってダイキを見る。
「だから僕が店番する事が多いんだ~。もう2年くらいやってるよ。」
「へ~。じゃあベテランなんだ。」
「そう!ベテラン!」
男の子がドヤ顔になる。
「じゃ、作業してもらってる間、鎧と盾を見繕ってもらおうかな。ベテランさんに。」
「頼りにしてくれ!」
ダイキは16歳の自分もまだまだ子供だと思っているが、小さい子は可愛いなぁと感じた。