ラーネルの昔話
さっきからラーネルが唸っている。
馬車の揺れがきついみたいだ。
昨日は遅くまで酒盛りに付き合わされてたみたいだからなぁ。
俺は酒を飲まずにそこそこの時間で切り上げたのである程度は睡眠を取れた。
ただでさえ戦いで消耗しているのに、酒盛りにつも付き合わされるとか拷問でしょ。
町の人も気を遣って寝かしてあげれば良かったのに。
馬車を引いている商人が、予定通りに出発しないと陽が沈む前にボルストンに辿り着けなかったら危険だという事で、倒れているラーネルを半ば引きずるように馬車に乗せた。
盗賊対策に乗っているのにこれで戦えるのか?
「おうぷ・・・。それにしても、あの二人はほんとに魔王軍だと思うか?」
横になって腹を摩りながら聞いてくる。
「話しっぷりは嘘ではなさそうだと思ったけど・・・。」
ラーネルには俺が転移者であることを話すべきか?
悩んでいるとラーネルが話を繋いできた。
「ダイキはあいつらの性格をすぐに見抜いていたみたいだが、何か知っているのか?」
「んー、似たような性格の人を知っていてね。」
「うっぷ・・・。そうなのか・・・。」
気分が悪いせいかそれ以上追及してこない。
しかし・・・魔王はやはり日本人の転生者か転移者なんだろうか?
異世界から召喚する魔法は各国で使われているのだから、魔王がそうであってもおかしくはない。
となると、召喚された勇者と召喚?された魔王の戦いを長年しているという事か。
後、あの二人は恐らく作られた存在だろうと思われる。
スキルで調べてもちゃんと生きた魔族だったが、この世界で生きてきたなら日本の文化をあそこまで理解しているのはあり得ない気がする。
ホムンクルス的な生き物を人工的に作って都合のいい性格に育てたんじゃないだろうか。
そう考えるとあのレベルの魔族が量産されている可能性が高いのか。
厄介どころじゃないなほんと。
ラーネルがゆっくり起き上がる。
「そういえば昨日は飯の時何の話してたんだ?」
「どうやって戦ったとか、どれくらい強いのかとか色々だね。」
「あ~、俺はそれを大人に延々やられたよ。しかも同じ質問何回もされるからしんどかった。」
そのたびに酒を注がれるのも・・・とうんざりした顔をする。
「あそこまで感謝されたのは久しぶりだな。基本クエスト受けてこなすから報酬貰う事が決まってるからなぁ。」
「へぇ、前に感謝されたのは何をして?」
「開拓村って知ってるか?」
「ん~、言葉的に新しく村を作るって感じ?」
「そんな感じだな。森を切り開きながら新しい村を作っていたんだが、運悪くオーガの縄張りに深く入りこんだらしく、襲撃を受けてね。村人も結構戦える奴が多かったんだけど、対抗したのが返って良くなかった。」
何度も撃退しているうちに完全にオーガ達を怒らせてしまったらしい。
「オーガリーダーっつう変異種が出てきちまってな。要はそれまではオーガ達にとっては警告で、怯えて逃げてくれればいいと思ってたんだ。逆に村人にとっては必死に開拓した村を捨てる選択は無かった。」
一呼吸して水筒から水を飲んでいる。
「俺が別の依頼で近くの洞窟に向かっていた時に休める場所があるって聞いて立ち寄ったらそんな状況になっててな。今、正にオーガリーダーの襲撃に合っている時だったから、俺が相手をして倒したんだ。」
「強かった?」
「ああ、あの二人組と身体能力なら同じくらいあったな。」
それは相当だな。
「知性も持っていたから話をしたよ。」
下を向いてふぃ~と深く息をする。
「警告を無視して先住者の縄張りを犯すとはどういうことかって怒られたよ。反論出来なかった。
・・・結局オーガリーダーを殺してオーガ達が逃げ出す事でしか解決出来なかった。んでその後、開拓村で恩人として歓迎されたんだ。」
ラーネルが俺の方を見る。
「所詮、俺達は人間側にしか立てないけど、きついもんはあるな。」
「そか・・・。」
「あれ?何が言いたかったんだっけ?いかんな、二日酔いで思考が取っ散らかってる。」
「寝ときなよ。」
話をしてる方が気が紛れると思ってたんだけどなぁと呟きながら頷いてまた寝転がった。
生きてたらそういう事もあるって考えないといけないのかな。
ラーネルは冒険者をしてそういう事を沢山経験しているのだろうか?
だからこそ人が出来ているのかも。
人生経験ってやつか。
「もうすぐで狩猟小屋に着きますから、小休止しますよ。」
「うぅ・・・助かる。」
寝っ転がりながらラーネルが手を上げる。
今日の夕方にはボルストンに到着するんだ。
仕事か・・・。
バイトもしたことがない俺が仕事。
もう引き返すことは出来ないんだし、覚悟を決めないとな。
・・・緊張してきた。
馬車の後ろから風景を見る。
朝発った町はもうとっくに見えなくなっていた。
次回は魔王軍側の話を少し。




