病気の町
旅に出ました。
明るい光が夕日に変わってしばらくしたところで馬車を引いていた商人が声をかけてくる。
「そろそろ今日宿泊予定の町、ダドに着きます。」
馬車の中で相乗りしていた二人と話をしていた。
今は城下街から南西に進んでおり、ボルストンに行くにはダドの町から更に西に進めばいいらしい。
相乗りしている商人は町から南の道を進んで別の町を目指すらしい。
ダドの町でお別れだ。
「うん?門番がいないな。」
商人が不思議そうに話す。
町は丸太の壁で囲まれているのだが、入口のところに兵士がいない。
「何かあったのか?」
どの道ここで立ち往生しているわけにもいかないので馬車を進ませる。
町の中は静まり返っている。
人が出歩いていない。
そろそろ陽が沈みそうなのに明かりをつけている建物もない。
「気味悪いな・・・。」
全員がその感覚を共有して頷き合う。
宿と思われる場所まで行き、隣接する馬小屋に馬をつなぐ。
「これはちょっと普通じゃないな。」
ラーネイが無意識に剣を何度も握りなおしている。
警戒してるんだろう。
「特に荒らされてもないですね。」
商人が宿に置いてあったらランプに火をつけている。
俺は空間把握スキルで周囲を探ってみる。
少し離れた場所に二ヵ所、沢山の人が集まっているのを検知する。
「こっちに人がいる気がする。」
スキルの事は話さず全員を取り合えず片方の集団の方に案内した。
扉を開けると驚いた表情で中の人たちの視線が集中する。
思わずたじろいでしまう。
「おい、何で入口に看板立てとかないんだよ!」
恐らく門兵と思われる槍を持った男がもう一人の門兵の男をしかりつける。
「すいません。後で立てに行くつもりが、まさかこの短時間に来てしまうとは・・・。」
「ったっくよぉ・・・。」
帽子を脱いでボリボリと頭をかいている。
髭を蓄えた老人が立ち上がって話をする。
「旅の方ですね?」
「ええ、こちらで一泊しようと立ち寄ったのですが、何かあったんですか?」
俺の返答に老人が頭を下げた。
「私はこの村の村長をしております。ロブと申します。今この村で疫病が発生しておりまして・・・。」
「ええ!村長さん、何時頃からだい?国への報告は?」
ラーネイの問いにロブ村長は一層困った表情になる。
「それが・・・今朝発生したのでまだ報告は出来てないのです。」
「今朝発覚か・・・それなら仕方ないな。」
ラーネイが頷く。
「しかし、どうも妙でして・・・。」
ロブ村長が話を続ける。
「私が知りうる限りの、どの流行り病とも症状が似てないのです。病気の進行も非常に早く・・・。その割には感染者の傍にいても現在まだ発症していない者もいて、感染源の特定が出来ないのです。」
「それは厄介ですね。」
ええ・・・と村長が再び椅子に座る。
「感染源が特定出来ないので、申し訳ないが町に入ってしまったかぎりはしばらくはこの町に居てもらうことになる。」
さっきの門兵が話してくる。
俺達が感染してないかどうか確証が持てるまで外には出られないんだろう。
この村の人間も感染しているかどうか推定出来ないうちは村外に出ないようにしているんだろう。
自主的に村ごと隔離してるんだな。
「困ったな・・・これは・・・。」
商人も頭を抱えている。
・・・病気ってやばいな。
下手すりゃこのダドの町から出られず発症して人生終わり?
それは嫌だ。
どうする?
考えろ。
マジでここで終わりとか嫌だぞ。
「俺はCランクの冒険者だ。この問題を解決する義務がある。」
ラーネイが名乗りでる。
おお!と周りから歓声が上がる。
「発症者は全員まとめて寝かせてあるのか?」
「ええ!この町で一番広い集会場に集まっています。」
「役に立つか分からんが俺は回復魔法と解毒魔法が使える。それに症状も見ておきたい。案内してくれ。」
「早速こちらへ。」
村人が一人立ち上がって案内しようとする。
みんなさっきより顔に精気が戻った気がする。
Cランク冒険者って相当凄いんだな。
「ダイキも冒険者だろ。一緒に来るか?」
ラーネイが聞いてくる。
病人に近付くのは発症の危険性を高めるけど・・・。
それよりも俺のスキルを使って少しでも解決の糸口を探した方がいいか。
待ってるだけで発症して死ぬのは最悪だ。
・・・バスケでも無意識に待ちになってたよなぁ。
もっと考えながら動け。待つな。
良く顧問に怒られた事だ。
うん。
待ってちゃだめだ。
「行くよ。俺も役に立つと思うから。」
ラーネイと頷き合う。
既に陽の落ちた暗闇へ飛び出していった。




