良いおっさんに出会った
前回
異世界に召喚されて王様に呆れられました。
「初めまして。ガルドです。」
「ぅんあ?」
いつの間にかうつ伏せで寝ていたらしく顔を上げると真横に男の顔があった。
「近い近い!」
「おっと失礼。
私もあなたが召喚された場に居たのですが・・・。」
そういえばさっき王様が部屋に来た時にはいなかったな。
見回すと既に夕方になったのか赤い光が窓から差し込んでいる。
ガルドと名乗った男はにっこり笑って話す。
「あなたはこれから私の家で暮らしてもらいます。」
おっさんの家でか・・・。
無精髭の生えた40は超えてそうなおっさんと一つ屋根の下・・・。
「私が所属する冒険者ギルドに登録してもらって色々経験を積んでもらう、ということになります。」
「あの~元の世界に帰る事は?」
「出来ません。あるのかもしれませんが今のところ不明というのが正確でしょうか。」
「あぁ・・・。」
バフンと再度ベッドに倒れこむ。
「寝ている場合ではないですよ。
もう日暮れも近い。
日が落ちる前に私の家に行きましょう。」
俺をベッドからベリッと引き剥がして両手で抱えたまま部屋を出ていこうとする。
「ちょっとストップ!下ろして!歩くから、歩くから!。」
ストンと下ろされる。
何してんだよ、とガルドを睨むとにっこりと笑顔で返された。
男一人持ち上げて全然重そうにしてないってことは相当な力だ。
ガルドにお城の出口まで案内されながら歩いていく。
途中で出会う兵士や侍女は俺に関してはあまり知らないのかガルドに挨拶をする程度だ。
王様からの支度金とか・・・ないかなぁ。
イベルダって名乗った女性は謝礼出すって言ってたのに・・・。
お城は小高い丘の上、高い塀に囲まれていて、城門から石畳が丘の下にある城下町まで続いている。
城門から見渡すと城下町も壁て囲われているのが見える。
「日が沈むと町の門も閉じられちゃうんだよ。」
ガルドが説明してくれる。
丁度お城に届け物をした帰りなのかお城から出てきた馬車をガルドが呼び止める。
「トリアくん、今帰るところですか?」
トリアと呼ばれた人も結構なおっさんだけど、おっさんがおっさんに君付けは違和感あるなぁ。
「おお、ガルド様、珍しい調味料が手に入りましてね。料理長にお売りしてきたところなんですよ。」
「今日は町で泊りですか?」
「そうです。」
そこで気付いたような顔になる。
「よかったら馬車に乗っっていかれますか?
荷物用なので揺れますけど。」
「いや~、そのために声かけたんですよ。」
ガルドがハハハ、と屈託なく笑う。
馬車かぁ。
あ、馬だと思ったけど、馬より足が太いしかなり毛深い。
似てるけど少し違うのかな。
さすが異世界。
「そちらの方は?」
「お城で預かるように依頼されましてね。
しばらくはうちの家で面倒みることになったんですよ。」
「あ、どうも。ダイキと言います。」
「ほぉ~。」
トリアにジロジロ見られる。
止めてほしい。
見るな。
「じゃ、一緒に乗って下さい。
揺れるので舌を噛まないように。」
にこやかに案内される。
乗り込むといくつか箱や袋、吊るした・・・薬草?なんかがある。
「出発します。」
ガクンガクンと石畳の隙間で予想以上に揺れる馬車が動き出した。
ガルドは揺れも全く気にしない様子でトリアと世間話をしている。
馬車の後方から眺めれば城門が小さくなっていく。
衛兵も何を考えているのか、直立不動でこっちを見ている。
おたっしゃで~。
俺は見えないように小さく手を振った。
乗り物に乗ってると周りの人に手を振りたくなる。
そういうものなんだ。
前方の馬車の開口部?から町が見える。
手前には石橋がかかって川が流れている。
水が澄んでてすごく綺麗だ。
足掻きの様な赤い夕陽が反射してる。
工業廃水とか無いから綺麗なのかなぁ。
明日魚泳いでるか見に行こ。
町の門前に立っている衛兵に話しかけて扉を開けてもらう。
揺れたなぁ。
やっと降りられる。
1時間も乗ってないと思うけど結構体が痛い。
「初めて馬車に乗りましたか?」
「うん、これはきついですね。」
「慣れますよ、慣れです。」
慣れるかなぁ。これ。
「それでは私は宿へ向かいますので。」
トリアは手を振って馬車を出発させた。
「ありがとうございました。トリアくん~。」
ニコニコでガルドが手を振る。
君付け・・・。
薄暗くなった町並みに人はまばらだ。
街灯は無くランプを灯して歩いている人がいる。
気持ち急いで歩いている気がするなぁ。
「まず大丈夫ではるんですが、日が落ちると少し治安的に・・・なのですぐにうちに案内しますね。」
治安良くないんだ。
メインストリートと思われる道をしばらくあるいて横道に入る。
そこから少し歩いて平屋建ての家に鍵を開けて入る。
椅子に座るように言われる。
黙って従っていると水を入れたコップとパンを出してくれた。
夕ごはん?
とんでもなく質素な気がする。
「どうぞ、大したものじゃないですけど。」
向かい合って座ったガルドがモグモグと食べる。
自分も一緒に食べる。
すごい硬い。
何パンだこれ?
「水に浸けて食べてもいいですよ。」
行儀わる・・・。
ガルドがこっちを見つめてくる。
うぅ。
「ほとんど喋りませんね。」
「そういうわけじゃ・・・。」
「いえ、気持ちは分かりますよ。
この世界に問答無用に連れて来られて、いきなり協力してくれと頼まれて、勝手に失望されて。」
やっぱり相当自分はダメなのか。
「あの・・・。
自分は相当弱いんですか?」
ガルドの眉毛が八の字になる。
「ステータスはスキルに依存する部分も大きいですが、
大体レベル1でHPは15くらいあるのが普通です。」
「うげっ。」
「勇者と呼ばれるような人はレベル1からHPが50くらいありますよ。
残念な事にあなたは規格外にステータスが低いんです。HP以外も・・・。」
「スキルの方も大したことない?」
「攻撃に使えそうなスキルを所持してなかったですからねぇ。
それに普通生まれ持ったスキルを少なくても10、多いと20くらい持っているんですよ。
記録にあるなかだと32個持っている人もいたそうですよ。
ダイキ君は4つでしたね。」
つまりスキル数も極端に少ないと・・・。
王様の反応から分かってはいたが、異世界に召喚されて色々冒険したり女の子にモテモテとかそういうのは絶望的っぽいな。
その辺のモブキャラにすら劣る能力。
帰りてぇ。
・・・そう言えば能力の話をしてた時ガルドは立ち会ってなかったのにどうして知っている風なんだ?
後から聞いたのかな。
ガルドがコップとお皿を横へ逸らした居住まいを正す。
「あなたが召喚された本当の理由は話しますね。」
「ほんとの理由?」
「ええ。
この世界では18年前から魔王を自ら名乗る者が北国に住む魔族を束ねて人間に侵略戦争を仕掛けて来たんです。」
おおぉ、魔王いるのか。
「最初こそ人間側が押されて各国滅ぼされたり、領地を取られたりしていたのですが、世界中から能力の高いものや召喚されたものが前線で戦う事で現在は人間側がじわじわと戦線を押し返しているところなんですよ。」
自分以外にも召喚された人がいるのか。
会ってみたい気がする。
あ、でもバリバリ戦ってる人だと余りの能力差に卑屈になりそ。
「そうなると最前線で戦っている国が押し返した土地も領土とし始めているんですよ。
北方は地下鉱物資源が豊富でして、戦線が自国にない我が国、ハンスハイゼン王国なんかだと戦力を送る事で国交を深くして戦後含め世界情勢に置いて行かれないように腐心しているとこなんです。」
「ほへぇ。」
大変なことで。
「それで、召喚は大変な魔力と儀式道具が必要なんですが、召喚された者は例外なくこの世界の理から外れた超絶の能力を持っていたり、滅多に表れないスキルを所持していて・・・要は戦力の欲しい国に対しての最上の献上品なんです。」
政治利用かぁ。
そのために意思に関係なく召喚されると。
人権無視も甚だしいぞ。
でも、役立たずが召喚されたと。
「・・・自分はこれから鍛えたりしなければいけませんか?」
「いや、王も諦めてた様だし、居候って形でしばらく私の家で暮らしてもらうことになってます。
そうだなぁ・・・。
私は冒険者ギルド所属なんだけど、冒険者なってみますか?」
う・・・冒険者・・・響きが魅力的過ぎだろ。
「そうですね。何にも分からないし、言われた通りにしようかな。」
ガルドがうんうんと嬉しそうに頷く。
「あ、敬語じゃなくて砕けた喋り方でいいですよ。」
「そ、そう?
それじゃあ・・・、しばらく世話になります。よろしく、ガルド。」
目上に敬語じゃなくていいって難しいな。
それを言ったガルドは敬語だし。