ランクアップ
星をみた。
ギルドに戻って報告した後、二人と別れガルドの家へ帰宅する。
朝出ていったのに随分帰って来なかった気がする。
いや、明かり石を持って歩きながら家々の窓から漏れるランプの明かりを見ているだけで、懐かしいというか、妙に郷愁を感じるというか。
明かり石を忘れたのか暗い中走っている人がいる。
おっちょこちょいさんめ。
いや、少し前まで明かり石を知らなかった自分が言うのもあれだけど。
ランプを吊るして明かりにしながら馬車が街門に向かって走っていってる。
陽が落ちてから外に出るって結構危ないと思うけど・・・。
急ぎの用なんだろうな。
石畳にブーツの踵を先に当てるような歩き方出歩く。
コツッコツッとわざと音をたてる。
既に俺、この街に馴染んでる?
ないない。
肩を少し上げて深呼吸する。
体は拭いたが臭いは完全には取れてないだろうな。
ガルドは臭いに気付くだろうか。
冒険者として相当凄いはずだから気付いてもおかしくないか。
家が見える。
平屋の窓からランプの明かりが見えるからいるんだろう。
ふと、泣きたくなるような感覚になる。
昔にもこんな感情覚えた事があるような・・・。
いつだったかな。
小学校2年生くらいだっけ。
親説得して一人でばあちゃんち行った時。
・・・の帰りだ。
送ろうとしたばあちゃんを断って一人で家に戻ってきた時、自分ちの屋根が遠くから見えた時と同じ感覚。
大人になれた気がした様な気持ち。
一仕事終えた気持ち。
大冒険した気持ち。
一区切りついた気持ち。
ホッとする気持ち。
これがどうして泣きたくなるんだろうか。
扉を叩かずに開けて入る。
「やぁお帰り。今日もがんばりましたか?」
いつもと変わらず笑いかけてくる。
「つっかれたぁ!」
一瞬ガルドがじっと見てくる。
「いつも通りご飯食べてきましたか?」
「あ!いや、今日は殆ど何も食べてないや。」
「じゃあご飯用意しますね。」
ガルドが席を立って倉庫部屋の方に歩いていった。
相変わらず硬いパンと薄い塩味のスープを食べる。
ガルドはこれで満足なんだろうか。
正直あまりおいしくないし、全く同じものを食べ続けているんじゃあないだろうな。
俺がパンをスープに浸けて柔らかくしてから食べているのをニコニコしながら見ている。
「終わったら体洗ってくるね。」
「布を出しときますね。」
「・・・臭う?」
「ん?ああ、ですね。」
「今日さ・・・。」
いつもの様にガルドにその日あった事を報告する。
ただ、約束した通り、村を見つけた事は黙っていた。
大物の動物をみんなで協力して解体した、という風にアレンジする。
不自然さはないはずだ。
ガルドも冒険者として捌き方に慣れるのは大事な事ですからね、と頷いている。
何となくやるべきことを全て終わらせた気がする。
今夜はゆっくり眠れそうだ。
それから2日ほどまた草原や森で狩りをした。
もう慣れたもので使うのを止めていた魔物寄せの香水を使ってレベル上げをやっていく。
ルインとカイトは順調にステータスも伸びて居る。
俺のステータスは伸び率も非常に悪い。
レベルが上がるほどステータス数値の差が広がっていく・・・。
あの日以来オークの村には近寄っていない。
何となく全員があの時間や出会いは奇跡だと思っていたのかもしれない。
当たり前にしたくない、というか。
・・・そう思ってるのは俺だけかもしれないけど。
冒険者ギルドに戻りいつもの様に受付嬢のルルアナさんに報告する。
素材の換金もすませたところで、木板が三枚カウンターの上に置かれる。
「はい、交換。」
「へ?」
ほいほいと掌を上に向けて指を何度も曲げて”早く出せ”のジェスチャーをする。
「Fランクの冒険者カード渡してるでしょ。それ返して。代わりにEランクの冒険者カード渡すわ。」
「ああ、それなら・・・。」
慌てて腰の鞄を漁る。
この世界に召喚されて何にも持ってない俺のこの世界で唯一の住民票みたいなもんだ。
肌身離さず持っている。
「レベル上がったらランクも上がるもんなの?」
「いえ、本来は”Fランクの冒険者だけ”で”Fランククエスト”を規定回数以上受けてもらう必要があるんだけど・・・。あなた達は依頼受けてない状態でEランク相当の素材回収クエストを数回こなせるくらい素材を持ち込んでるのよ。」
俺の空間把握と鑑定のスキルのおかげで知識なくても見つけられるから回復薬とか解毒系に使える素材ガンガン回収しまくってたもんな。
それでお金を貰えてたんだろうか。
カイトは親の仕事継ごうかこのまま冒険者になろうかちょっと迷ってるときあったからな。
「俺達もうEランクになれるのか。」
「プレッシャーが・・・。」
ルインとカイトが少し慌てている。
「? どうかしたのか?」
「Eランク以上になると冒険者として一人前になれたと判断され、国が発令した大規模作戦なんかへの参加義務が出ます。」
「そうなのか。」
「うぅ・・・、もう少しレベル上げてからが良かった・・・。」
カイトが弱音を吐いている。
「逃げちゃだめですよ。義務ですから。まぁ冒険者に参加義務が出てくるほどの国の戦いなんてまずないから大丈夫ですよ。」
「まずないから起こった時やばいんだよぉ。」
「弱音を吐くなよ。万が一の事考えても始まらないぞ。」
ルインがカイトを励ましている。
「ちなみにDランクになると村に入るための通行料、取ってる村もあるんだけどそれが免除されるわ。その代わり、村人で対処しきれない問題が起こった時は無償で解決に尽力しなければならないけど。」
「隠してもいいのか?」
「通行料や滞在料を取ってない村とか、黙ってお金を払う場合は別に構わないわ。あくまでお金払わなかった場合ね。」
「了解。」
それならいいか。
俺のステータスじゃ頼られてもどうにもならない可能性結構ありそうだもんな。
まだEランクだしそれを考えても仕方ないか。
「それじゃ、これ。」
Fランクカードをルルアナに渡してEランクカードを受け取る。
ルインとカイトも交換している。
「明日からはEランクかFランクのクエスト受けてこなしていってね~。」
両手で手を振って送り出してくれる。
歩きながらカイトがため息をつく。
「まだレベル8だよ。ちょっと早すぎるよ。」
「いい素材渡しすぎたな・・・。明日から素材採集クエスト受けて敵倒すのに専念するか。」
「それじゃ少し遠出してみる?」
俺の提案にルインが頷く。
「だな、今街の周辺の敵じゃ楽勝になって来てるし。ここらで少し敵のランクも上げておきたい。」
「いいよ、早く上げないと不安だからね。」
早めに上げて父親の鍛冶屋の仕事を継ぐつもりか?
予定より早くランクが上がったせいでちょっと気弱になってる気がする。
「そうなると、そろそろ隣の村を拠点にして数日の遠征って感じにするか。三人での野宿は不安だし。」
「オッケー。じゃあ明日は準備の日にするか。」
「異議なーし。」
数日の遠征。
バスケ部の夏合宿や中学の時の林間学校に行く前のに感じたような高揚感を少し覚えていた。
お金は十分ある。
そろそろ防具を変えてみるか。
体をふく布って宿屋でもらえるんだろうか。
その程度ならどこの村でも売ってるか。
石鹸は・・・今前旅の行商から買ったやつそのまま持ってくか。
万が一のために保存食・・・はカイト謹製の色んな動物や魔物のジャーキーがあるか。
むちゃくちゃ作ってたよな。
・・・明日の事は明日考えるかな。
・・・・・・
その後、三人で明日買う物の相談をしながら夕食を食べて、明日またギルドで、と解散した。
遅れました。
ごめんなさい。




