街まで帰ろう。
魔物の生態を教えてもらった。
血がある程度抜けきったところで獲物を一旦地面に置く。
「おーし、全部血抜きしたな。次は臓器抜くぞ。」
「小さいのは任せて欲しいけど、大きいのは・・・。」
カイトが自信なさげに言う。
「じゃ、お前・・・ダイキって呼んだ方がいいか。手伝ってくれ。三人は小さいの任せる。」
「ナイフ借りるね。」
ウキウキしながらキクロが腹を切り裂いていく。
オークだけど小さい子がやっているのはホラー映画的だなぁ。
俺はラクロの補助で獲物を押さえたり内臓を穴に落としたりしていた。
「毛皮剥ぎはやらせてください。」
「おお、いいぞ。大きい動物はやった事無いか?」
コツを教えてもらいながら毛皮を剥ぐ。
結構重労働だな。
ここまでくるともう生き物じゃなく、肉って感じだ。
みんなそれぞれに毛皮剥ぎまで終わった様で一仕事終わった満足そうな顔をしている。
「内臓は焼くぞー。」
そう言って腰に付けていた道具袋から瓶に入った油を穴にかける。
そこにキクロが枯れ葉をいくらか落とし石を打ち合わせて着火させた。
火打石ってやつなのかな。
器用だ。
肉の焼ける匂いが辺りに広がる。
獣臭も相まって臭い。
「うっし、あとは肉の切り分けと保存用の燻製作りなんだが・・・。」
俺達を見る。
「時間的にそろそろ帰らないとまずいか?」
確かに陽が傾き始めている。
あと2、3時間もすれば真っ暗になるか?
急がないといけないな。
「あ~、別に冒険者だから数日家に帰らないのなんて普通だよ。もちろん泊めてもらえるならだけど。」
「えっ。」
マジか。
「俺の家も心配はしないだろうな。」
二人はさも普通の様に話をしている。
「それじゃあ今まで毎日日暮れには帰ってたのはどうして?」
「へ?そりゃあ三人ともほぼ初心者のパーティーだし、人数も少ないから野営が危険だと思って。」
「僕もそう思ってた。」
「将来の仕事のためのレベル上げとはいえ、冒険者になったんだからそりゃあ街から離れたところまで出かけたら宿泊したり野宿するだろ?」
ここは安全も確保されてそうだし、とルインが言う。
常識だったか・・・。
「まぁここは一応魔物の村だし、みんな体拭いたら街側の森の出口まで送ってってやるよ。陽が沈みきるまでには街に戻れるだろ。」
そういうとラクロが肉を抱えて戻っていく。
それを見て全員で後を追う。
全員濡れた布で鎧や体を拭いていく。
・・・臭いはどうやっても取れないな。
服は桶に浸けた後絞って・・・。
しばらく汚れと臭い取りに格闘する。
ラクロがキクロに指示を出す。
「ばぁさんと一緒に肉の解体やっといてくれ。全員分の食事にする。余ったやつは明日にでも燻製にするか。内臓抜いたからまぁもつだろ。」
「あい。」
キクロが家まで走っていった。
しばらくすると家からキクロに手を引かれて村長が出て来た。
「帰るのかの?」
「ええ、ありがとうございました。」
・・・なんか俺をじっと見てるような・・・。
「気を付けて帰るんじゃぞ。あと、畑泥棒は二度とするんじゃないぞ。」
「しません。誓って。」
「また、会うこともあるじゃろ。」
「またねぇ~。」
キクロが手を振る。
俺達三人で手を振って出発した。
ラクロは慣れた風に森の中を歩いていく。
迷っている風はない。
戻れるように(薬草畑までは)マッピングをしていたのだが、ラクロはこの森の事は完全に頭に入っているみたいだ。
「ダイキ、そういえば村長に何言われたんだ?」
「僕も気になってた。」
「え、う~んと・・・。」
どう答えよう。
自分でも抽象的過ぎて今一答え辛い。
教師になるっぽいのと、世界を導く者になるんだっけ。
教師、はいいけど世界を導くってどうやるんだよって気がするけど。
説明し辛いな。
「占ってもらったんだけど、俺は教師になるんだってさ。」
「へぇ。教師ってことはお抱えかな?それとも学園の?」
「それは分かんなかった。沢山の子供に囲まれてるんだって。」
「確かに、ダイキって教えるの上手だよね。的確というか。」
それは[助言]スキルで完璧なアドバイスが出来ているだけなんだけどな。
まぁこのスキル使うと嫌われやすいからほぼ使わんけど。
「ばぁさんに占ってもらったのか!?あれ難しくて疲れるからって俺にはしてくれたことねぇぞ。」
ラクロが驚いている。
確かに相当複雑に魔力を操作してたからな。
あと、家族の将来とかあんま見たくないもんだろうし。
不幸になってたらやだもんな。
結局世界を導くって方は話さなかった。
下手に大事にされても困るし。
枝葉がまばらになり段々と空が見える範囲が大きくなる。
いつの間にか森の出口まで来ていたみたいだ。
やっぱ知ってる人に案内されると相当早くなるんだな。
「それじゃあ後は迷わず帰れるだろ。」
「ありがとうございました。」
「いいっていいって、なんだかんだ仕事手伝わせちまったし。」
あ、でも、と続けて言う。
「絶対に村の事は言うなよ。」
「それは絶対守ります。誰にも言いません。」
三人で頷く。
「じゃあな。・・・まぁ機会があればまたな。」
「また~。」
手を振って分かれる。
「松明使う?明かり石にしとく?」
「火起こすの面倒だし、街までだ、明かり石使おう。」
「おっけ~。」
三人とも鞄から石を取り出し地面に擦り付ける。
三個分ともなると結構明るく周囲を照らす。
「こんだけ明るいと魔物が気付いて寄ってくるかもしれないから十分注意だな。」
「うん。」
「ダイキ、スキルを使っといてくれ。」
「ずっとやってるよ。」
帰りがけの森の中でも空間把握はずっと発動させていた。
襲われなかったけど。
「よし、じゃ帰ろうか。」
既に陽は遠く山影にしがみつくように赤い色を残しているだけ。
明かり石が無きゃほぼ暗闇といってもいいくらいだ。
ふと見上げると満天の星空だった。
日本じゃこんな星の数見えないよな。
・・・この世界にも宇宙ってあるのか?
「うわぁ!こりゃ綺麗だ。」
俺が感嘆して声を上げると二人もつられて見上げる。
「確かに綺麗だな。・・・夜空って久しぶりにじっくり見た気がする。」
「僕も。」
夜空を見上げながら街へ向かって歩いていく。
「そういや、あの星が大地に落ちて新しい命になるって言い伝え聞いたなぁ。」
流れ星の事かな。
「僕も聞いた事ある。で、大地で沢山頑張った人は死んだ後天に昇って一等輝く星になるって言ってた。」
「そそ、それそれ、母様から聞いた。」
「あ、僕もおかさんから聞いたぁ。」
地球でもありそうだな・・・そういう言い伝え。
この世界だとほんとにそれが正解だったりして。
いつかこの世界の神話とか伝承も集めてみたいなぁ。
涼しい風が優しく草花を撫でて静かなサラサラという音が聞こえる。
旅人が街の門までたどり着けるように外壁にそって点けられている松明が見える。
今日はいつにも増して色々あったせいか、長い旅をした気がする。
街の門の大きな明かりが見えた時、俺達三人ともほっとしているのが分かる。
自然に早足になる。
段々加速して競争みたいになった。
みんな笑っている。
子供っぽいなぁ俺。




