初めまして召喚されました
息が白く立ち上る。
ベンチに座って缶のココアを味わう。
昔からよく遊んでいた自宅近くの公園も暗くなっている今は誰もいない。
街灯が公園の中心を浮かび上がらせてくれている。
光の届かない木の陰は何となく怖い。
冬でも幽霊は出るのかな。
スマホを見るとまだ夕方の5時半前。
うちの高校はテストの1週間前から部活動禁止になるためこの時間に帰ってこれている。
「さ~て。」
一人声を出して立ち上がる。
以前ジュースを買って帰ったら母親から色々と注意された。
高校生にもなって買い食い、飲み程度で文句を言わないで欲しい。
その事があってから帰宅前に購入したものは大体この公園で消化しきってから帰っている。
「うおぉ?」
ガクンッとバランスを崩して転びそうになる。
慌てて足元を見ると真っ黒に穴が開いてその中にズブズブと足が沈み込んでいる。
「な!? ちょ! やめ! 助けて!」
叫んでもどんどん沈み込んでいく。
「やめろおおおぉぉ!!ああああ!!」
穴に引き込まれた後は川の流れのような、どんどんどこかへ流されている感覚があった。
どれくらい時間が経ったか。
パニックから少し立ち直った後は周りが真っ暗で何も見えない事、流されているが水はなく息が出来る事を確認した。
何が起こったのか、帰れるのか、一生このままなのか、自分が何かやらかしてしまったのか、色々考えていると強烈な眠気がやってくる。
逆らえずそのまま寝てしまう。
真っ暗で眼を閉じているのか開いているのかそれもよく分からない。
出来れば起きたら家の布団の中で、全部夢であってほしい。
でも、それだと1日分テスト勉強出来てない事になるんじゃないだろうか・・・。
損したなぁ。
やけに眩しい。
眼を擦りながら開けると俺を取り囲む様に鎧を着た人や豪華な装飾をしたローブを着た人が立っている。
「おぉ!成功じゃ!」
白い髭を蓄えた豪華な服を着た爺さんが嬉しそうに周りの人に話しかけている。
「んぇ?」
俺が意味が分からずキョロキョロと見回していると一人の女が近寄ってきた。
赤い鎧を着た金髪の美女。
思わず見惚れてしまう。
「これを着て下さい。」
差し出されたのは、ローブ?
自分の体を見ると、マッパ!?
「いやああぁ!」
俺は悲鳴を上げて差し出されたローブを急いで羽織った。
何で?制服着てたのに!
混乱していると数人の男が近づいて話しかけてくる。
「今は大変混乱していると思います。事情をご説明致しますのでまずはお部屋へご案内致します。」
言われるがままに男の後についていく。
周りはどうも建物に囲まれた中庭らしい。
建物に入ると赤い絨毯が敷かれた広い廊下。
通されたのは広い客間。
これはどう考えてもあれだよな。
異世界召喚的なあれだよ。
しばらくするとさっきの白髭爺さんと数人の男女が入ってくる。
俺の方ジロジロ見てる・・・。
「わしの名前はエイロス=ドゥ=ハンスハイゼンじゃ。ハンスハイゼン王国の現国王じゃ。」
「あ、どうも、足原大樹です。」
俺が立ってペコリと頭を下げると爺さんの隣にいたちょび髭の鎧を着たおっさんがため息をつきながら話す。
「陛下の前なので跪きなさい。失礼でしょう?」
有無を言わせず召喚しといて、と内心カチンと来るが王様なんだし仕方ない。
素直に従う。
異世界召喚といえば何かの超レアなチート能力を身に付けてたり、凄いステータスになってたりして、なんだかんだ色々あって無双したり、女の子にモテモテになってハーレムが出来たりするんだ。
今はオープニング部分なんだと思えばなんでもしたがっちゃうよ。
「アシハラ=ダイキか。貴族以上の者であったか。」
「? ああ、俺・・私の世界ではファミリーネームをみんな持っているんですよ。名前はダイキの方です。」
「ほぉ。ではダイキ殿。いきなり召喚に答えて頂いて大変驚いているところだろう。」
「はい。」
俺は神妙に返答する。
内心ではファンタジー世界でのこれからの生活にわくわくしている。
「今この世界では魔王を名乗った魔族を率いる者が北から進行している。お主にはその戦いに加わってもらい、魔王を討伐してもらいたいのじゃ。」
キターッ!
魔王軍との戦いだよ!
魔法使いの女の子とか女勇者とかと出会って色々あってハーレム!
「しかし お・・私は前の世界では戦った事がありません。戦う力なんて・・・。」
お約束を分かってはいるがわざとそう答える。
王様は後ろにいた高そうなローブを纏った女性をチラッと見る。
それを受けて女性が前に出て俺に話しかける。
「わたくしはイベルダ=ノエインと申します。」
イベルダと名乗った女性はうやうやしく頭を下げる。
「ダイキ様。目を閉じて頂けますか?」
「はい。」
「最初は慣れていないでしょうから瞼の上に手を当てて光を遮って下さい。」
言われた通りにする。
ん?
じんわりともやもやした白い煙のようなものが見える。
「白いもやの様なものが見えますか?」
「はい。」
「白いもやへ意識を集中して下さい。」
集中って言われても具体的にどうしたらいいのか・・・。
仕方ないのでイメージで白いもやを目を凝らしてよく見る様にしてみる。
あ、なんか文字が見えてきた。
「見えました。」
「では文字を上から順に読んで頂けますか?」
「はい。」
これはステータスってやつか。
ほんとにゲームみたいだ。
・・・。
これって低すぎないか?
いや、決めつけは良くない。
大丈夫、大丈夫、多分。
「レベル1。」
「次。」
「ヒットポイント・・・6。」
「え?見間違いではなく?」
「・・・はい。」
ザワザワと周りが騒ぐ声が聞こえる。
空気が冷えていく感じが・・・。
やっぱり低いのか。
「ダイキ殿はおいくつですか?」
イベルダという人の声も戸惑っているのが隠せてない。
「16ですけど。」
ため息が聞こえてくる。
「次の項目を。」
「マジックポイント・・・・・・・・0。」
「次。」
もう低いのは確定と開き直る。
「ちから:3」
「次。」
「まもり:2」
「次。」
「まりょく:0」
「目を開けて下さい。」
眼を開くと前に立っている人達の顔が明らかに落胆していた。
やばい。
相当低いのか。
このままだと無双が!ハーレムが!
そうだ!
チートスキルを持っていれば一発逆転だ!
「あの!」
イベルダは考え込んでいたらしく、声に驚いてビクッとした。
「スキル的なやつってないんですか?そういうのを見るような!」
「ああ、それを次は確認しようとしてたんだ。」
イベルダが胸の前に両手を差し出す。
そうすると胸からいびつな形状の透けた板が出てくる。
「これはその人が生まれ持ったスキルだ。同じように胸の前に両手を胸の前に出して手の中に意識を集中すれば出てくる。」
ちょっと話し方がフランクになって来ているような・・・。
言われた通りの仕草でイベルタが出したような板をイメージすると手の中に四角い板が出てくる。
薄いオレンジ色で透けている板。
イベルダのものよりかなり小さい。
5cmくらいの正方形だ。
「えぇ・・・。四角ってことは4つかよ。」
王様のおつきで立っている男がぼそりと言う。
傷付くわぁ。
イベルダはその言葉には反応せず話を続ける。
「レベルが上がればその角、先端を指で触れる事でそのスキルを伸ばすことが出来るぞ。
その角に書いてあるスキル名を読み上げてくれ。」
「えーと、[助力][助言][把握][鑑定]・・・です。」
「ほぉ。」
イベルダは興味深げに頷いた。
これはレアなスキルの可能性あり?
「もうよい。」
突然王様が喋った。
「どの道そのステータスでは前線では戦えないし、攻撃的なスキルも持ってないようじゃからな。」
俺と目を合わせないまま周りの人を引き連れて部屋を出ていく。
一人が出ていく瞬間ボソッと呟く。
「あれだけ準備してはずれとはなぁ。」
あぁ終わったわこれ・・・。
最後に残ったイベルダが俺の肩を優しく叩きながら話してくれる。
「とりあえず無理やり召喚してしまったのだから何らかの形で謝礼は出す。
しばらく部屋で待機しててくれ。」
それだけ話すと出て行ってしまった。
フラフラとベッドに倒れこむ。
凄いスキルとかステータスというのは無かったらしい。
召喚されたうまみが無いなら帰りたい。
テスト勉強しなければ。
ってか、帰れるの・・・?
色々考えているうちにいつの間にか眠っていた。