オークの村
オークにやられました。
背中が心臓の音に合わせて波打つように痛む。
その波が頭にまで回って頭もズキズキしてくる。
「う・・・。」
体が動くことを確かめて目を開ける。
「あぁ、気が付いたね。」
かすれる目を擦りながら見回す。
オークが二人。
襲ってきたオークファイターともう一人は・・・。
スキルで調べるとオークマージというオークの上位種だった。
どうやら殺されなかったらしい。
いや、これから殺されるのか?
食べられるとか・・・。
顔に感情が出たのが分かったのかオークマージが話しかけてくる。
「殺したり食べたりしないよ。」
ほっとする。
畑泥棒は一応許してくれるらしい。
「すいません。」
「まったく・・・。わざとなのか気付かなかったのかしらないけど、駄目じゃろ。」
「はい・・・。そうだ!二人は!?」
二人も運ばれてきたはずだ。
「一緒に寝取るじゃろ、ほれ。」
オークマージに指を指され横を見ると二人とも寝かされていた。
全然気づかなかった・・・。
「おい。」
二人の肩を揺する。
「なぁに命に別状はない。それにまだ日のあるうちに街まで帰れる時間じゃ。自分で起きるまでは寝かしとけ。」
そう言われ素直に従う。
「今まで一度も人が入って来たことが無かったからびっくりしたぞ。」
オークファイターが話し出す。
「すいません。」
「ま、子供だし、その雰囲気じゃほんとに気付かなかったんだろ?」
「はい・・・。」
「全員どうにでもなる弱さで良かった。下手に強けりゃ殺し合いになったろうしな。」
そうか、一撃で倒せるくらいだから逆に助かったのか。
「ここの事は喋られちゃ困るから、きつめにお仕置きしたってとこだな。殺す気なら武器を使うさ。」
オークファイターがチラリと目線を動かす。
目線の先には斧や棍棒、槍、弓など一通り立てかけてあった。
「力加減下手くそなお前のパンチで殺さんか心配しとったぞ。人間相手でも子殺しは嫌じゃからな。」
「そのくらいの力加減はやれるよ。最悪骨折れてもババアが治すし。」
ガハハッとオークファイターが笑う。
「村長を便利に使うんじゃないよ。全く・・・。」
やれやれ、と村長と呼ばれたオークマージがため息をつく。
「もう察したと思うが、ここの事は絶対に喋らんでくれよ。村を作って生活しとるオークが居ると分かったら冒険者が大量に押し掛けて来かねん。ここの森は生活するには良いが比較的人の街に近いからな。」
それは当然の要求だろう。
「はい、絶対喋りません。」
「これでも相当森の奥に村を作ったつもりだったんじゃが・・・。条件的にまず冒険者は入ってこない場所なんじゃ。うまみが少ないというか。」
村長がう~んと腕を組んで悩んでいる。
「悩んでたってしょうがないだろ。秘密にしてくれるって言うんならそれ以上することは何もない。」
オークファイターはそう言うと扉の方に歩いていく。
「食料畑の方見てくるわ。」
「サボるんじゃないよ。」
「一応責任もってやってるんだから。若い時ちょっとサボった事をいつまでも覚えていて。」
「1回2回なら言わんわい。数え切れんぐらいサボったじゃろ。悪ガキが。」
「働いてきまーす。」
オークファイターが出ていった。
「うう・・・。」
ルインが起き上がる。
「あれ?俺オークに吹っ飛ばされて・・・。」
「やれやれ、もっかい説明するのも面倒だねぇ。」
「うおぉ!オークが喋ってる!」
俺はこの世界の常識が分からない事も多いので知識のあるオークが喋るのを自然に受け入れていたがどうやら珍しい事のようだ。
「そりゃあ集落作るくらいだから人の言葉くらいわかるさね。」
「あ・・・そうなのか・・・。」
呆然としている。
取り合えずオーク達の畑を泥棒をしてしまった事と許して貰えた事を話す。
「そうだったのか。それは申し訳なかった。」
ルインが村長の前まで行って片膝をついて頭を下げる。
こうしてみると貴族というか幼い騎士見習いの様だ。
立派な鎧も着てるし。
「ちゃんと取った素材は回収させてもらったから、あとは森にオークの集落がある事を秘密にしてくれたらいいさ。」
「はい・・・。」
「いたた・・・。あれ?僕、助かったの?」
「カイト、起きたか。」
「うわ!オーク!」
これから殺されると思ったのかあわあわしている。
「・・・また説明せにゃならんか?」
「しゃべった!」
村長がため息をついた。
村長が俺を見てくるので今度はカイトに説明する。
「はえ~。そういうもんなのか。」
カイトが村長をまじまじと見ている。
失礼なような・・・。
「そうだ、あんたら殴られて体打ち付けただろ?ほっといても自然に回復するだろうけど回復魔法使えばさっさと痛みが取れるからやってやるわ。」
二人が驚く。
「オークが魔法使えるのか!?」
「オークマージじゃからな。この程度朝飯前じゃよ。」
「僕も使えるよ!」
カイトが自分のお腹付近に両手を近づけて詠唱する。
「癒しの波よ。癒しの波よ。守るべき者へ包む絹の安らぎを。モノ・ヒール。」
[把握]スキルで観察すると一度掌に魔力を溜め込んでからゆっくりとお腹に流し込んでいる。
HPも回復した。
「どう?」
カイトがドヤ顔でこっちを見る。
さっきまで気絶してたのに立ち直り早いな。
槍捌きといい三人の中で一番大物かもしれん。
「回復魔法を覚えているとは感心じゃな。ほれ。癒しの流れよ。癒しの流れよ。ディ・オールヒール。」
村長は片手を出すと魔力を溜め込まず放出する。
攻撃を受けた腕と木に打ち付けた背中の痛みが消える。
ルインも痛みが取れたのかストレッチの様な動きで体を確かめている。
「凄い!短縮詠唱で範囲回復魔法唱えられるんだ!」
カイトは村長の魔法に興味深々みたいだ。
・・・俺はスキルで魔力の動きを観察しているが、重要なのは魔力の流れとか性質を操る事で、詠唱って実は必要ないんじゃないかと思ってるんだけど、そういうものでもないのか?
「この歳になればこれくらい出来るさね。それで・・・。」
俺を指差す。
「あんたと二人だけで話したいから二人は外で遊んでてくれないかい?待ってる間畑仕事手伝ってくれるならなおさら良し!じゃが・・・。」
ルインが頷く。
「分かった。外でダイキを待っている。回復魔法かたじけない。」
「うん、またあとでね。オークさんありがとう。」
素直に出ていく。
オークマージが俺だけに話って・・・何だ?
ちょっと怖いな。




