木霊との戦い
お風呂に入りました。
翌日から1週間、毎日冒険者ギルドに三人で集合して草原や森の傍でレベル上げを行った。
レベルを上げる合間に色々な事に挑戦していく。
釣りを教えてもらったり、薬草や毒消し草を店で買ってみたり、焚き火の付け方を教えてもらったり。野営で作れる簡易料理を教えてもらったりetc・・・。
毎日時間を忘れるほどに新しい事に挑戦している。
学校は決して嫌いじゃなかった。部活での事を除けば・・・。
しかしそれよりも圧倒的に夢中になれる事ばかりだった。
疲れ切って家に帰るとすぐに寝てしまった。
ガルドは相変わらず笑顔で迎えてくれる。
お世話になっているお礼ではなかったが、その日あった事をつぶさに話していた。
稼いだお金を渡そうとしたが断固拒否された。
必要になった時のために貯金しておきなさい、と。
「よし、今日から森に入ってみるか。」
街から出て移動中にルインが提案する。
「確かにみんな結構強くなったからね。行きたい。」
カイトが追従する。
俺にとっては新しい事ばかりだったが二人は戦闘に慣れてきて今の魔物ではちょっと退屈なんだろう。
「行けそうならいいんじゃない?」
俺も肯定する。
「よーし、魔物が強くなるから注意していくぞ。」
「うん!」
「おぅ。」
俺達はいつもは入らない街の東にある森に向かった。
まばらに生えている木が進む毎に密度を増していく。
木の太さも大きくなっている。
枝葉に隠れながらの射光が美しい。
時々風で枝葉が揺れるのか光が点滅する。
それが森の更に奥まで続いているのだ。
「はぁ~、綺麗だねぇ。」
この世界は本当に景色に感動する。
絵画の世界に入り込んだという感想がぴったりだ。
「そうかぁ?俺は暗くて不安になるけど。」
ルインが武器を構えながら歩いていく。
俺が[把握]スキルを発動させて周囲に魔物がいるか常に調べていることは分かっているだろうが素早い魔物に対応するためだろう。
「そういえば・・・。」
カイトがふと思い出したように話し出す。
「お父さんが初心者にしては異様に稼ぎが良いって驚いてたよ。助かるって。」
父親に褒められた事がうれしいらしい。
俺の親父って仕事ばっかで俺が中学でバスケ初めてからは殆ど顔すら合わせてなかったもんなぁ。
イメージが薄くなってる。
あ・・・でもバスケの推薦で高校決めた時はスポーツで高校行けるのは凄い事だって褒められたっけ。
稼ぎが良い・・・ってのは俺の[把握]スキルと[鑑定]スキルで薬草や食べられる実なんかをガンガン採取しているからってのがでかいだろう。
普通なら知識を身に付けて探さなきゃいけないしな。
「ここにあるぞー。」
今回もスキルで周辺の素材を見つけてみんなで採取していく。
「ほんと便利だよねぇ。」
「一家に一台欲しいな。」
「俺を家電にするな。」
「「??」」
・・・家電って分からないか。
迷わない様に木に印を付けながらさらに森の奥へと進んでいく。
「魔物、こっちから!」
空間の[把握]で魔物が来ている方向に向かいナイフを構える。
「何が来てる?」
「飛び木霊ってやつ!四匹。」
見た事が全くない魔物だったが[把握]スキルで即座に名前を調べる。
二人が前に出る。
ステータスが低い俺を守る様に戦うのが普通になっていた。
便利なスキルを持っているおかげで頼りにはされているがそれが無かったら年下に守ってもらうってところで相当卑屈になってた気がする・・・。
俺は[助力]スキルを使って二人の素早さを上げる。
二人の攻撃が魔物に通用しない事はまずなかったのでさっさと倒せるように素早さに俺のステータスを譲渡するのが基本戦法になっている。
「戦った事は?」
「無い。」
「無いです。」
全員初めての相手らしい。
「じゃ、説明するぞ。」
「オッケー。」
「はい!」
スキルで分かっている特徴と対策を伝える。
「高速で飛んで来るからルインは撃ち落とした後突き刺してくれ。カイトはそのまま突き刺せるはず。
あと、風の魔法を使ってくるから相殺するか躱してくれ。」
「うっわ・・・。相殺出来るかなぁ。」
「来たよっ!」
「キキキィ!」
緑色の毛玉が不規則に飛びながら向かってくる。
「おらぁ!」
ルインが体当たりしようと迫ってきた飛び木霊をロングソードを振り下ろして叩きつける。
「ピキキィ!」
そのまま魔物は死んでしまった。
「おぉう。叩き落としで倒せたか。」
「ふんっ!」
カイトが動き回る飛び木霊を槍で的確に突き刺す。
「らっくしょー!」
素早さを上げているとはいえ見事だった。
残った二匹の飛び木霊が体当たりを諦めて離れて魔法を撃とうと距離を取る。
「風よ!風よ!俺の左手が掴む剣となって敵を切り裂け!モノ・ウインド・ショット!」
ルインが飛び木霊が放とうとした魔法ごと局所的な突風で吹き飛ばした。
木に叩きつけられ絶命する。
「えいっ!」
カイトが槍を投げる。
「ピキィ!」
槍が貫通して後方の木に刺さる。
カイトが手をかざすと槍がゴムで繋がれているかの様に手に戻る。
恐らくスキルで手に入れた技だろう。
「二人ともお疲れ様。」
「初めての魔物だったけど楽勝だったな。」
「もしかして僕たちって実は相当強いのかな。」
「かもなぁ。」
魔物のステータスも把握しているので今の二人が戦っても十分勝てる事は予想が出来ていた。
もし勝てないほどの相手なら空間把握の範囲に入った時点で逃げだせばいい。
「よーし。素材回収したらもう少し奥まで行ってみっか。」
「まだ日も高いもんね。」
・・・初日からあまり苦戦することが無かったから慢心があったのかもしれない。




