過去を振り返る
ダイキはひたすら書類と格闘している。
明日からまた諸国へと旅に出て会議と言う名の無理難題をひたすら躱す仕事が始まる。
それまでにここで終わらせておかなければならない仕事がまだ終わっていないのだ。
サボらずにやっておけば今頃明日に備えてゆっくり準備出来たのに、と後悔しても、もう遅い。
元の世界の頃も長期休みの時に出る宿題は休みの終わる3日前から焦り始めてたなぁと懐かしく思い出す。
この街は少し高原にあるため日が落ち始めると肌寒くなる。
開いた窓から昼間より優しくなった光と風が入ってくる。
子供が駆け回っている声が聞こえる。
そろそろ帰る時間だぞ、と思いながら席を立って窓に近づく。
建物が夕日を遮って石畳の道に深い影を落としている。
影のせいか道が半分も見えていない。
遠く山中にはキラキラと夕日を反射して存在を主張している大きな湖がある。
確か有名な冒険者が発見したこの街へ続く川の水源にもなっているラスター湖という名前だったか、と思い出す。
ダイキは手を前に翳す。
「ジョブブック。」
手の前に光が出現しその中に本が表れる。
本を開くと様々な職業とその特徴、所持スキルや得意装備などの説明が書かれている。
ダイキの考えた職業のため〇ラクエや〇Fの職業が多い。
「スキルブック。」
また光が出現して本が表れる。
こっちは様々なスキルが定義された本だ。
得意武器や騎乗ボーナス、ステータスを底上げするパッシブスキル、得意魔法スキルなどなど。
最近スキルツリーも少しずつ作っている。
そちらも手に取ってペラペラ捲り少し考えて職業との関連付けを少し変更する。
スキルは普段の生活にも役に立つものが結構あるので戦闘用の職業でも庶民生活で役に立つ。
「もうちょいスキルの種類増やして取り方複雑にするかなぁ。」
独り言を言いながらどの職業に何のスキルを増やすか考える。
主目的以外にも使えそうなスキルを追加したい。
ダイキが考えていると廊下から走ってくる音が聞こえ、部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
「センセ!センセ!ご飯いっしょ食べよ!」
「はいはい、リリィはいつも元気だね。」
「わーい。ひゃっほーー。」
「こらこらテンションが崩壊してるぞぉ。」
ダイキが金髪の小さい女の子、リリィの頭をなでる。
「むふー。」
リリィは嬉しそうにされるままになっている。
「こらっ、ダイキの仕事の邪魔しない!」
リリィが開けた扉からもう一人女性が入ってきた。
獣耳の女性。獣人だった。
「本来ならもう終わってるはずのし・ご・とですけどねー。」
女性は半目になってダイキを見る。
「う、それは・・・ごめん。後はとは他の先生の新しいカリキュラムの提案にポーンと承認印押したら終わりだから。」
「・・・ご飯行きましょ。その後で出来るでしょ。生徒とご飯食べるのも仕事のうち!」
「うぁい・・・。ご飯何?」
「パンと山羊乳のチーズと鶏肉と野菜のスープ。デザートにブドウ。」
「ふー!くだものぉ!」
リリィが走って食堂に行く。
「あの子は何か教育に失敗した気がする。」
「来た時の事を思えばいい事ですよ。あれが本来のあの子だったんでしょ。」
女性は嬉しそうに話す。
「行こうか。」
ダイキは女性の手を取る。
びっくりしたように目を見開くがすぐに嬉しそうに細める。
「まさかダイキから手をつないでくるなんてね。」
「それぐらいの成長は俺もするんだよ。」
二人は部屋の扉をゆっくり閉めて子供たちと教師が待つ食堂へ歩いていく。
ここは世界中のあらゆる種族、階級を問わず受け入れるグランイルド学園。
神から新たな世界のシステムを作成し、繁栄させることを指名された[導き手]の住まう神殿。
「それではみなさん、いただきまーす。」
「「「いただきまーーす!」」」
大食堂に集まって各々の教師の掛け声で食べ始める。
「これ俺が育てた野菜なんだぞ!」
「お乳絞ったの私~。」
各国から支援金を貰っているとはいえ、食材確保も授業の一環として教師指導の下、生徒に行わせている。
料理もだ。
「おいし~。」
リリィが満足そうにほおばる。
それを見て向かい合って座っていた獣人の女性も満足そうにうなずく。
「ちゃんと良く噛んでね。」
「んー。」
リリィは聞いているのかいないのか曖昧な返事をする。
「師匠は明日からまたしばらく旅に出るのか?」
リリィの隣に座っていた少年がダイキに話しかける。
「ああ、面倒だけどこれも仕事だからね。」
ダイキは今のところ[導き手]として人々に新しいシステムである[職業]を与えられる唯一の人間である。
今は職業とスキルバランス調整中のため、自分の知らないところで職業に就く人間を極端に増やさないようにしているが、将来的には人を転職させられる[職業]も作ろうと考えている。
そのため定期的に各国に赴き希望者を[就職]させている。
職業に就くと有力なスキルを手に入れられるため就かせる者はダイキが毎回面会して決めている。
また、[就職]させた者からスキルのバランスや効果のレビューを聞いて調整の参考のためでもある。
ちなみにスキルが無くても努力さえすれば大抵の事は出来る。
スキルはある意味[職業]に就くことで楽するようなものだ。
「あ~行きたくないぃ~。王族との面会は特に疲れるし。」
地位のある人との面会には手順や決まった礼儀がある。
それが各国や種族、部族で色々と違うんから大変だ。
あるところでは礼節になっても別のところでは無礼なんてこともある。
「ちゃんと覚えて下さいね。テキトウだと私も恥ずかしいですから。」
獣人の女性が注意する。
毎回の旅にも同行しているが、女性はその点が完璧だった。
ダイキは眉を八の字にして目を閉じてため息をついた。
「そういや師匠ってリュート先生と同じ転生者なんだよな?」
少年が離れた位置で食事している男性を指さしてダイキに話しかける。
「もうずいぶん前に転生してきたんだけどねぇ~。ほ~んと、昔の事だからずいぶん忘れたなぁ。」
ダイキはう~んと腕を組んで答える、が、これは嘘だった。
転生前の、日本、両親、妹、学校、部活、それらを忘れたことはない。
時々同じ境遇の転生者とは思い出話をしている。
単に転生者と分かると転生前の世界の話を散々せびられるので自然とこう言って誤魔化す癖がついただけだった。
基本的に相手も悪気なく興味を持って聞いてくるので邪険にもし辛い。
「寝る時に少しお話してあげようかな。」
「聞いてみたい!」
少年が声を上げると同時に周りで会話を聞いていた子供たちが一斉に反応する。
「先生の話聞きたい!」
「この世界に来た時から神様に選ばれてたの?」
周りから次々質問が来る。
「はいはい、とりあえずご飯食べ終わった後ね。」
「明日からの事もちゃんと考えてね。」
獣人の女性がやんわり窘める。
「「「「はーい。」」」
各々話を聞きたいから食事を早く終わらせようと黙々と食べ始める。
ダイキも食事を進めながら昔の事を思い出していた・・・・・・・。