無力感
ガフッ……ぐ、カナタ……?
ユウヤがなんとか持ち直してこちらを向く。
もう少し気絶していると思っていたが受け身でも取ったのだろうか。
しかし膝に手を当てても震えて上手く立ち上がれないようだ。
ユウヤ!アレが戻ってきたら逃げる準備だけして今は休んでなさい!
もしそうなった場合、ミントは手遅れだろうが……。
わかっ、た。
木にもたれ掛かって息を整えている。
カイルとザントはまだ気絶しているようだ。
だが構っている暇は無い。ミントがいつ追いつかれるか分からないのだから。
よし!!ごめんねテナ。力を貸して!!
本来膨大な魔力が必要な悪魔召喚だが昔契約した事もある。恐らく多少は契約の力が残っている筈。
それにテナなら自前の魔力で補ってくれる。
穴だらけの作戦だが成功すればこれ程頼りになる手札は無い。
魔法陣が光って魔力が吸われていく。
魔力枯渇なんて気にしない。
足りなかったら生命力でもなんでも使ってやる。
私が倒れていてもテナなら察してくれるだろう。
それに一度死んだ身だ。
ユウヤ達が生き残るなら私一人の命くらい捧げてやる。
お呼びですかカナタ様。
もっと魔力が必要かと思っていたがすぐに来てくれた。
頼む!ミントが化け物の気を引いて逃げてくれてるんだ、助けてくれ!
ミントが逃げて行った方角を指差して頭を下げる。
お願いなんてしなくてもいいんですよ。命令していただければ。
場違いにも柔らかい声色でそう言ったテナは森の奥を見つめて手を開いて腕を伸ばす。
カナタ、あとで私が消えた事を誤魔化すのを手伝って下さい。テトはそういうの下手ですから。
そんな事を言いながら手を握って引っ張る動作をする。
グオオオ!!!!
するとヤツが森の奥から飛ばされて来たではないか。
いや、引っ張ったのか?
おや?ミントを追いかけている不審者を捕まえてみれば…コレはまたおかしな魔物ですね?
小首を傾げるテト。
だが悠長に観察している場合ではない。
テナ、倒せそう?
余裕を見るに大丈夫だろうが聞いておく。
いえ、恐らく倒すにはこの森一帯が更地になるくらいはやらないと不可能でしょう。
そんなに!?
召喚に驚いていたのか黙っていたユウヤが声を上げる。
はい。先程から潰してやろうと力を込めているのですが耐えていますし。まぁ火には弱そうなんですがどっちにしろ燃え広がるのがオチかと。
軽く溜息を吐きながら頬に手を当てるテナ。
いや、それなら燃やそう。
ユウヤがブレスレットを外しながら言う。
テナちゃんなら燃やせるんでしょ?消火なら……水を出すだけなら俺に任せて!
良いんですか?私はともかく、ユウヤがその力を使ってしまったらどんな目に遭うか分かったものではありませんよ? 人間兵器として国に飼い殺しにされる可能性だってあり得ます。
そう言いながら化け物を魔力だけで羽交い締めにし続けているテナ。
どれ程の魔力量と魔力操作力があれば可能な芸当なのか想像もつかないな。
兵器扱いされてもいい。……皆にバケモノ扱いされるのは嫌だけど。でもテナちゃんはそんな事思わない。でしょ?
へへっと笑うユウヤ。
自分以上の人間兵器を目の当たりにして吹っ切れたか?
当然です。ユウヤ程度の力ではなんとも思いません。
いや、人外と比べちゃダメでしょ。
思わずつっこんでしまった。
カナタ、一応今は人間です。人外と言われるのは心外です。
ジト目で抗議するテナだが笑ってスルーだ。
じゃ、私はどうすればいい?魔法陣は時間がかかる……ねえ思ったんだけどテナが捕まえている間に私が魔法陣で結界に閉じ込めてしまえばいいんじゃない? ついでに燃やしてしまえば倒せるわ。
なんで思いつかなかったんだろう。
結界内にコレだけを閉じ込める事が出来るのですか? 結界越しに捕まえておくのは不可能ですよ?
そうなのか……
じゃあタイミング良く放り込むとか?
不可能ではありませんがこれ程頑丈な魔物ですしすぐに逃げますよ。
……やめとこうか。
それが賢明かと。ですが延焼を防ぐ為の結界はあったほうが楽ですね。消火も楽に済むでしょう。
それもそうか。
じゃ魔法陣を描くから少し待ってて。ついでにカイル達を避難させておいてくれる?
ミントはどうしますか? 走り疲れてぐったりしているみたいですが。
森を指差してテナが聞く。
連れて来れそう? 周りに魔物が居なくてもミントには分からないし安心して休めないでしょうから。
ではカイル達と一緒に休ませておきましょう。 ユウヤ、あなたの魔法が見られてしまいますが構いませんね?
コクリと首を振るユウヤ。
もう少し時間がかかるからユウヤは休んでて。
そう言いながら魔法陣を描いていく。
今回はそこそこの規模の結界を張る予定なので時間が掛かる。
問題は魔力だが悪魔召喚に比べれば軽いものだ。
テナがミントを魔力で引っ張って端の方に寝かせる。
ミントは声を上げる余裕すらなかったようだ。
…本当に無事で良かった。
出来た。今から結界を張るわ。私達も出られないから気を付けてね。 魔力を込めるのをやめた時点で結界が無くなるタイプにしたから何かあったらすぐ逃げるわよ。
分かりました。では始めるのでユウヤも準備しておいてください。
分かった。
ユウヤも立ち上がってヤツと距離を取る。
一体どう焼くのだろうかとテナを見ても手をかざしているだけで何もしていないように見える。
しかし膨大な魔力がヤツに流れている事に気がついた。
グ…!!!グアアアアア!!!!!
今まで締め上げられていて声も出せないでいたようだが苦しみのあまり声をあげ始めた。
そちらに目を向けるとなんとヤツが火だるまになっている。
いや、火だるまというよりヤツの体から火が噴き出ている。
何だこの魔法は。そもそもテナの魔法なのか?自爆しようとしている様にしか見えない。
え?何?魔法で焼くんじゃないの?コレ大丈夫なのか?
ユウヤも訳がわからないといった様子だ。
もちろん魔法ですよ。締め上げている魔力を火に変化させているんです。ただ、もっと魔力を込めないと死なないようですし、もう少し激しくしましょう。
サラッとそう言うとヤツから噴き出る火が激しくなった。
叫び声というより最早断末魔にしか聞こえない。
しかし絶命する気配もない。
魔物の生命力は高いんだが流石に異常だろう。
しかし長時間は耐えられなかったようで、遂に力尽きた。
……ただし爆散しながら。