犠牲
今更なんだけど本当に僕達だけで行くの?
カイルが不安そうな声で聞いてくる。
そうねー。でもユウヤ君が居るし大丈夫よ!
ミントはユウヤの強さを知っているのか平気そうだ。
そういえば虐められてたのを助けてもらったんだったか?
私は直接見たわけでもないし何とも言えない。
任せて!
ユウヤは楽しそうに剣型魔道具を振り回している。
はたから見たらオモチャを振り回す子供だ。
いい?魔道具があるとはいえ、相手は魔物よ。しっかり警戒してね。
それに今回の授業はその危険を知る事が目的な筈だ。
実は何処からか先生が見ている可能性が高い。
相手より先に発見した方が有利。
ザントがもっともな事を言う。
うん。しっかり周りを見るよ。
カイルが覚悟を決めた顔になる。
盾を選んだお陰だろう。身を守る事の出来る物があると勇気が湧くものだ。
森に入ってしばらく経った時、ふと違和感を感じた。
ん?
私とユウヤが同時に声を出した。
なんだ?空気中の魔力が濃くなったような……?
ユウヤも感じたって事は気のせいじゃないみたいね。
うん。でも何となくってだけでよく分からないや。
ユウヤに魔力を感知する力は無かった筈。
あったら風以外の魔法が使えないなんて勘違いをしなかっただろう。
なんだろう。魔物に気配が似てるけどぼんやりしてる。でもカナタも感じたなら気のせいじゃないだろうし……。
ん?魔物?
ハッ!?皆戻れ!!
思わず元の口調に戻って叫んだ。
魔物は魔力溜まりから生まれる事をすっかり忘れていた!
え?なに!?
ミント達は驚きながらも素直に下がってくれた。
うわっ!?
と、思ったらカイルが慌てていたせいか転んでしまった。
その直後カイルの近くに黒いモヤが発生する。
まずい!魔物が生まれる!
カイル!?ザント!カイルを引っ張れ!
この際口調なんてどうでもいい。このままじゃまずい!
わかった…!
ザントがカイルの下に向かう。
ユウヤ!モヤから魔物が生まれる!逃げる時間を稼いで!
任せろ!
ユウヤと私は魔道具を構える。
ミントは目くらましをお願い!
思っていたよりも魔物が生まれる速度が遅くて助かった。
いや、ある意味まずいか。
強い魔物程生まれるまでの時間が掛かるのだから。
出来ればもっと時間を掛けてくれれば逃げる事も出来るのだが……。
しかしそうは行かないようで。
ありがとうザント、助かったよ。
そう言ってザントの手を借りて立ち上がったカイルの真後ろに2メートル程のナニカが生まれた。
すぐ下がって!!
ユウヤが叫んでナニカに向かって剣を構える。
……。
本当に何だアレは。
最初は熊かと思ったがワニが二足歩行しているようにも見える。
あんな魔物見た事がないぞ。
ユウヤ、アレ何?熊?
魔物から目を離さないようにしながら聞いてみる。
見た事ないやつだ。多分俺なんかじゃ勝てないよ。何とかして逃げないと……。
ここに来て謙遜しているとは思えないな。となると本当に危険か。
ミント!目を狙って!!
取り敢えず時間稼ぎをしなければ。
私の見立てではアレを倒す為の魔法陣を描くにも大掛かり過ぎて厳しい。
やはり魔法陣なんて劣化魔法だな。
こう!?
ミントが光を魔物に当てる。
すると逆に怒らせてしまったようで唸り声をあげて向かってきた。
ぐおおおおおおおお!!!!!!!
四足歩行になって突進してくるヤツにミントは足を竦ませる。
ヒッ!!
オラァ!!!
意識が他に向かった瞬間ユウヤが飛び出してヤツの目に突きを放つ。
明らかに戦い慣れている動きだ。
だがヤツはそれに反応してみせた。
太く長い尻尾でユウヤを弾き飛ばす。
ガッハ!!!
ユウヤ!!!
フォレストベアーとも戦えるというユウヤがアッサリとやられてしまうスピード。
戦闘慣れをしていない私にはどれ程の物なのか分からないが、恐らく最大の戦力であるユウヤでも対処出来ないのならば厄介な状況だ。
ザント、カナタさん、ミントをお願い。
カイルが小さくそう言ってヤツに向かって走る。
丁度ヤツは標的をユウヤに切り替えて横を向いている。
だが……。
危ないわカイル!尻尾をどうにかしないと吹き飛ばされるだけよ!!
なんとか声を絞り出すミント。
そう、先程のユウヤのように薙ぎ払われるのが関の山だろう。
俺も行く。
ザントも走って行った。
尻尾を止めるつもりだろうか。
しかしハッキリ言って無謀だ。
腕の力ではなく握力しか強化されていない状態では体格の良いザントとは言え振り回されるだけだろう。
しかしこのままではユウヤが殺されてしまう。
ミント、お願いがある。もう一度アイツに光を当てて気を引いて逃げて欲しい。
咄嗟に浮かんだ作戦はミントには残酷なものだった。
要はミントに囮になれと言っているのだ。
下手をしなくても長くは保たない。
………ッ!!
ミントも何を言われているのかすぐに察したようで体が強張る。
ぐああっ!!!
当然のようにカイルとザントが纏めて薙ぎ払われて叫び声を上げる。
即死しなかったのは盾のお陰か。
何にせよ時間がない!
このままじゃ皆やられる。時間を頂戴。何とかしてみせる。
しっかりとミントの目を見て説得する。
私が魔法陣を描ける事を知らないミントには見捨てる為の言葉に聞こえるだろう。
だがこのままでは非常にまずい。
信じてくれ!
分かった……。絶対皆を、ユウヤ君を助けてね。
自分が犠牲になる事を覚悟したように言うミント。
任せて。絶対ミントも助ける。だから諦めずに逃げて!
了承を得た直後から私は杖に魔力を込めながら地面に魔法陣を描く。
描くは悪魔召喚の陣。
禁忌とされる陣だが今の描いているのは少し特殊だ。
なにせ今となっては悪魔でもなんでもない奴等を召喚するのだから。
こっちよ化け物!!!
ミントは水晶を掲げて光をヤツの目に当てる。
ぐうう…ぐおあああ!!!!
よっぽどイラついたのかこれまで以上に雄叫びを上げながらミントに襲い掛かる。
即座にミントが走って逃げる。
ミントの身体能力はそこまで高くはないと思う。
早く描き上げなければ。
令和になりましたね。
よく平成生まれかーと言われましたがそのうち私も令和生まれかーと言う側になるんでしょうね。