土魔法の授業と粘土
さて、授業を開始しようか。
校長はユウヤにも授業を受けるように言ってから水槽のような物を持ってきた。
まず、土魔法について知っておいて欲しい事がある。見ていてくれ。
そう言うと土魔法を発動させて水槽の中に土を入れていく。
土と一言で表しているが、色々なものが含まれている。言ってしまえば石や糞だって土だ。
今度は石ころを生成して水槽に入れる。
えっ、じゃあうんこも魔法で出せるんですか?
ユウヤが質問する。
そこ気になるの?
いや、糞を作ろうとしてもそれっぽくなるだけだね。難しい事は分からないが不可能だと結論が出たらしい。
何故そんな研究をしたのか。
このように魔法で色々な物の複合物である土を生み出すのは難しい。土魔法が使えない人が多いのはそういった理由だと言われているね。
だから始めは簡単な物を生み出そう。今カナタ君は土魔法で何が作れる?
転生して魔法が使えるようになって一通り試した時に作れたのは…。
石ですね。小石です。
私は水槽に向かって自分の親指程の小石を出した。
丸くて綺麗な石だね。自分の魔力を上手く扱えている証拠だ。
校長は私の出した石を手に持って眺める。
よし、カナタ君には砂を作って貰おう。この石をあえて小さくして何個も作れるようになるのが目標だ。
成る程、まずは大きくするのではなく小さくする練習からするのか。
私は頷いて石を出す練習を始める。
さて、ユウヤ君。君にはまず魔力の操作から覚えて貰おう。
校長は粘土のような物を机に作って置いた。
これを魔力で変形させられるかい?
見本を見せるように粘土を球体にしたり、板のようにしたりさせる。
だがユウヤは理解出来ないと言った表情をしている。
うーん、俺、魔力ってのがよく分からないです。風魔法を使う時もこう…ブワッと出ろーって思ったら出るし。
ユウヤは風を自分の手に当てる。
そうだね、大体の人はそんな感じで使ってる筈だ。でも魔力ってものは確かに存在していて、それを操って魔法が発動する。じゃあ得意な魔法を使いながら、魔力を感じ取る事から始めようか。
目には見えない魔力の事を教えるのは大変な事だ。
私も周りの魔力も感じ取れるようになるまで苦労したものだ。
これが出来ないと魔核に魔術を込める事は出来てもしっかり作れているかの確認が出来ない。
感じ取る…校長先生はどうやって覚えたんですか?
いまいちピンと来なかったのかヒントを聞き出そうとするユウヤ。
私は粘土が好きでね。天然の粘土をいじり倒しているうちに出来るようになったよ。手が疲れてもまだ遊びたくて、いつのまにか魔力を使っていたよ。
懐かしいな、と言いながら自分の手で粘土をこね始めた。
なるほどー。ねぇ、カナタも出来るんだよね?どうやったの?
私にも聞いてきた。だが自分の魔力を感じ取れるようになったのはかなり昔の話だ。正直細かく覚えていない。
たしか魔法が使いたくてアレコレ調べた時に自分の魔力に問題があるのではと思って…あ。
魔力を込めると色の変わる水晶を使っているうちに分かるようになったわ。
魔力の属性によって色が変わるのだ。
結局魔法が使えないのは属性が問題では無かったと結論が出た。
俺もそれ使いたい!
カナタ君、私も興味があるな。そんな物聞いたこともない。魔道具なのか?
今はもう無い物なのか。
今手元にありませんよ。もしあったとしても魔力の属性の変化を視覚化するだけの物ですし効果は薄いと思います。
属性を変化させる訓練にはなるが、ほとんどの人は無意識に出来るので私のような特殊なケースでもない限り不要だった。水晶を使わなくとも魔法を使えば良かったのだから。
そっか。
二人してガッカリしているのが少し面白い。
ふふ、もっと良い物作ってあげるからガッカリしないで。
要は魔力そのものを視覚化出来れば良い。
校長先生、もっと粘土を出せますか?あと、出来れば天然のほうが良いんですが。
魔法で作ったものはそのうち魔力に還ってしまう。
魔物も死ねば魔力に還る。例外が魔核なのだが詳しく解明されていない筈だ。
すまない、天然モノは少ししか無い。
少しはあるのか。
ならそれをいただけますか?魔力に反応して勝手に形が変わるようにしようと思うので。
粘土よりも良い物も探せばあるだろうが今は思いつかない。
そんな事が出来るのか!?
驚きつつも天然の粘土を持って来てくれた。
手の平サイズはある。これだけあれば十分だ。
私はそれを受け取り、魔術を込める。
また魔核無しで魔道具作りか…難易度が上がるので少し面倒だ。
魔道具を作る際は魔核が必要な筈だが?
校長が質問してくる。
魔核は魔術が消えないように閉じ込める役割を担っています。なので魔術を閉じ込める魔術を複数絡める事で固く縛る必要があります。もちろん魔核と違って永久的ではないので寿命はありますが。
実はユウヤのブレスレットには簡単に効果が消えないようにかなり複雑な魔術を込めている。
ははは、家内が知ったら弟子入りさせろと言い出すぞ。
乾いた笑いをする校長。
秘密にして下さいよ? 校長先生の奥さんは魔道具を作ってるんですか?
フォル婆といいラナさんといい魔道具技師が多いな。
あぁ、ここのすぐ近くで魔道具屋をしている。
そう言って店の方向を指す。
そっちはまさか。
え?フォルお婆ちゃんですか?
知っているのか?
昨日ユウヤの家に行く前に寄り道したんですよ。凄い偶然ですね。
世間は狭いな。この街小さいのか?
そうかそうか、カナタ君にはつまらない店だったろう。
苦笑いするように校長が言った。
現世での技術について分かったし、つまらなくは無かったな。
そんな事は無いですよ。上の方の棚は見れませんでしたけど。あ、店員にならないかと誘われましたね。
主に目利きだけで。
よし出来た。ユウヤ、手に乗せて風魔法で浮かせてみて。
ユウヤに手渡す。
もう出来たのか。…しかし婆さんに秘密にするのは心苦しいな。ん?という事は昨日婆さんが言っていた子はカナタ君か!
一体何を話したんだフォル婆。
気になるが、今は無視してユウヤに使ってみるように促す。
ほい!
変な掛け声と同時に粘土が形を変える。
ミミズが生えたようになる粘土を見ると少し気色悪い。
わぁ…。
ユウヤは何故か感動しているが。
成功ね。ユウヤが魔法を使う時はこんな感じで魔力が放たれているわ。
見事に拡散しているのが見て取れる。
目標はコレじゃなくて校長先生の作った粘土を思い通りに変形させる事、ですよね?
魔力を感じ取る力が付くかは分からないが制御力は鍛えられるだろう。
そうだ。試しに私も使ってみていいかい?
童心に帰ったように目を輝かせている。
どうぞ、でも校長先生は普通に粘土を変形させられるでしょう?
意味あるのか?
いやぁ、自動的に変形するというのは新鮮だ。
そういうものか。
校長はしばらく魔力で色々変化させていた。
すまないユウヤ君、カナタ君にもやってみてもらいたい。
そう言って私に渡してきた。
私は変形なら出来ますよ?
そう言いながら棒状にしたり、捻ったり、尖らせたりしてみせる。
これくらいは出来ないと魔術を込められない。
一通り変形させた後ユウヤに渡す。
分かってはいたが器用なものだ。それだけ出来るなら砂を作れるようになるのもすぐだろう。
どうやら確認と励ましをしてくれたようだ。
実際小さくするのはすぐ出来るようになるとは思う。
問題は複数作ったり大きくする際なのだが…今から気にしても仕方がない。
ありがとうございます。頑張ります。
お礼を言って砂つぶ程の石を作る練習を再開する。
小さくしようとするとそもそも作られず、ある程度大きく魔力を放出しないと生成されない。
意外に難しい。
そのまま授業が終わるまでユウヤは魔法を使いながら魔力を感じ取る練習。私は小さな石を作る練習を続けた。